第44話 白玉楼観光ツアー
久々に書いたのでちょっと可笑しい所あるかもです。
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「という訳で、本日の会議を始めます。」
取り合えず私――陸佐がこの突然の事態についておおざっぱに説明する。
本日幻探課居間にて初の会議が行われた。司会は何故か優海が担当している。
原因は不明。以上。
「この会議の議題ですが・・・みなさん。あの人を忘れていませんか?」
「「「「あの人?」」」」」
そう言われても心当たりが無い。他も同じような顔をしている。
その我々の顔を見て若干の溜め息を吐くと彼女は一言。
「妖忌さんの事です。」
「「「「「あ」」」」」」
そう言われて見て思い返す。たしか彼は書置きを残したまま何処かへ消えてしまったのだ。
んで、今も行方不明である。
「まぁ、妖忌の事だからそこらでくたばっているとは思えないけどね。」
それもそうだ。伊達に剣士やってなかったし。腕は確かだし。妖怪真っ二つにしていたし。
たぶん心配するようなことでもないと思う。
「で、どうするんですか?探そうにもアテもありませんよ?」
「まぁ、その内帰ってくるんじゃないですか?あと陸佐さん煙草吸うの止めてください。」
「え?」
「煙いので。」
蓮根(蓮子)ちゃんにズバッと言われた私はしぶしぶ煙草を灰皿に押し付ける。けれども実際に私は常時煙草を吸っていた為煙たいし、臭いもする・・・らしい。それは非喫煙者である周りの面々からすれば結構迷惑な事であろうが喫煙者である私からすればじゃあ皆で吸えば気にならないという意見もあるが口には出さない。
「それと優海さん。もうそろそろご飯の時間なので食材を買ってきてください。蓮子は薪もってきて。」
「「はーい。」」
結局立ち話となった会議はそこでお開きになり、それぞれが仕事に戻る。仕事と言っても私と鷲子さんとまぐろ(真人)君の3人は特にすることがない。
ここの台所はマリーだっけメリーだっけちゃんが仕切っており残った二人はその手伝いである。少なくともコンビニ弁当以外で過ごしたことの無い人間が手伝うよりはマシだろう。
そう思い名がら私はいつも通り装備品のチェックに戻った。
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「で、飯を買いに行ったはずなのになんでそれがこの娘になる訳?」
約30分後。買い出しに行ったはずのゆう・・・(あと一文字が分からない)が連れて来たのは緑色の服に白い肌。脇に白い饅頭?を浮かべそして腰に2本の刀を差した女の子であった。
話を聞くにどうやら魚屋で魚を取ろうとしたら手がぶつかってそれでちょっとした世間話になってそこでこの娘があの妖忌の孫であるというのだから慌てて連れて来たという訳だ。
随分と都合のいいもんだなおい。運がというのかなんというのか。
「ふ〜ん・・・つまりあんたは妖忌の孫であり弟子っていう訳ね?」
「そ、そうなるけど・・・。」
「まぁ言われてみれば何となく似てるし・・・」
正座している少女――妖夢――に対して全員で取り囲むこの配置はある意味いじめとも取れる場面である。だが、聞いている内容は唯単に妖忌の事なので問題は無い。
「んで、当の本人は今どこに?」
「師匠なら今白玉楼に居るわ。」
「「「「「「「白玉楼?」」」」」」」
皆の声がハモる。してその白玉楼なるモノはいったい?
「白玉楼とは、この幻想郷で亡霊を管理する為の場所でもありこの幻想郷にとって重要な場所なのよ!」
ビシィっという効果音が聞こえてくるほどにしっかりと指を挿す少女。たぶん彼女の中で色々と自慢できるものなのだろう。
「それで?そこに行くにはどうしたらいいの?」
「普通の人間が近づくことなど不可能!!白玉楼と言うのは冥界の中にありその中に行くには空を飛べる人間でもないかぎり不可能なのよ!!」
「「「「(この娘口軽いタイプだ。)」」」」
全員がそんな事を思った時、とある人物がこんな事を言い出す。
「あ、私飛べるから行ける。」
この中で一人、全員が見つめる中手を上げてそんな事を言うのは一人しかいない。アリスの元で魔力の修業をし、ついには空を飛べる様になったゆみ(優海)である。
「え?」
「そう言えば優海は飛べたわな。」
「私も飛べる〜。」
と、今の今まで私の膝の上を占領していたクロが、ふわふわと宙に浮かびながらそんな事を言い始める。今の今まで彼女が飛んだことを見た事の無い私達は口をあんぐりと開けている。お前飛べたんだ・・・。
「・・・と、いう訳で二人はいけるんだな。」
「みんな行けるよ。」
「え?」
「私なら全員乗せられるもん。」
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
ともなんとも突拍子もない事を言い始めるクロ。言ってる本人は無邪気に膝の上でごろごろしている。
だが、周りの面々はこんな子がどうやって全員乗せて空を飛ぶんだろうとか考えてみたが、いかんせんここは幻想郷である。常識に囚われてはいけないんだな。
それに私は白玉楼という場所について若干の興味を覚え始めていた。何となく見てみたいという好奇心だ。他の者にもそれぞれ理由があるのだろう。一番分かり易そうな人で鷲子さんだと思う。たぶんあの顔はついて早々剣士さんを殴る気だ。理由はしらん。
「え?ちょ、何で白玉楼に行く話になってるんですか!?い、行かせませんよ!?あんた達みたいな珍妙不可思議奇天烈な者は!!」
横にフワフワと変な饅頭浮かべている貴方がいうセリフじゃないでしょう。
約一名納得していない者がいるが、いちいち説明するのもめんどくさいし、余計な事をされても困るという理由で全員一致の元私の持って来た固いロープで縛られた。
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「と、いう訳でこれより白玉楼殴り込み作戦を開始します。」
「落ち着け、殴り込んでどうする。」
早速ボケた私に突っ込む鷲子。全員が全員完全装備でいつ何時何があってもいいように準備をしていた。
まず、迷彩服にライフルと言う明らかに目立つ装備をしているのは私。
何時も通り胸が強調されている鷲子、この幻想郷にて買った服と、腰にホルスターを下げている真人、食糧がいっぱい詰まったリュックを背負う優海、非武装の蓮子と鷲子。(まず武装していることが可笑しいのだが。)そしてクロと両手両足を縛られた剣士さんの孫(名前は聞いたが忘れた)。
「ンー!ンゥー!!」
縛られた剣士さんの孫は猿轡までされている為まともに話すことが出来ない。そうでもしないとうるさくて耳がどうにかなりそうだ。
「それでクロ。どうやって白玉楼まで行く?」
「こうするの―――」
瞬間クロがあの装甲車に戻った。ポンとかいう音とか、途端に煙が出たとかそう言うアクションは無く唯一瞬で戻った。
すると、また少女の姿に戻る。
「私、元の姿(装甲車)に戻ると喋れなくなっちゃうみたい。」
「えーっと・・・つまり君に乗れと?」
「うん!」
元気いっぱいに答えてくれるクロ。元気がいいのは非常によろしいが、言ってる内容は非常に非現実的である。
と、また装甲車になったクロに、一同は戸惑いながらも乗り込んだ。
「・・・で、乗ったは良いけどこれからどうするんです?」
「さぁ?」
私が両手を上げて答えた瞬間“クロ”が右に傾いた。一同はその突然の動きに対処できず転んだり、頭をぶつけたりしている。一番ひどいのは剣士さんの孫で、縛られているために受け身が取れず床を転がり顔面をぶつけていた。次は左、右、左とグラグラ揺れていたが、少しするとその揺れも収まった。
「と・・・飛んでる。」
小さな窓から外を見たれーちゃん(*蓮子)がそう呟く。それを確認しようとして私がクロのハッチを開けた途端全員がそのハッチに群がった。ちょ、そんな詰めないで・・・苦しいって・・・。
「・・・すごい・・・。」
そこから見えたのは何所までも広がる青い空。白い雲。そして美しい幻想郷の風景だった。
空を飛ぶ彼らが目指す先は白玉楼。私達は見た事ない場所に若干の不安と、期待を抱きつつ進むのであった。
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一方こちらは白玉楼。そこに住む白髪の男――妖忌である。皺だらけの顔とは裏腹にその眼には鋭い眼光と、シャキッとした背筋。和服に隠れているが引き締まった筋肉を持つ半人半霊の忠実なる剣士である。
腰に差さった2本の刀を振う姿は正しく強豪と言える男だろう。
だが、今現在腰に刀は無く彼が振るっているのは一本の竹箒であり、頭に三角巾を着け白い割烹着を身に纏い足元には雑巾と水の入った桶が置いてある。
あえて言おう。彼は掃除中なのである。
その真面目に掃除をしている彼が気配を察知し構えを取る。刀が無くとも雑魚程度ならば箒で十分だ。そう思った彼は近づいて来る気配に対して身構えるそして―――
「やっほー。」
―――出てきたのは一台の装甲車とその他大勢だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「ひさしぶりだねー妖忌。」
ニヤニヤとした顔で装甲車から降りてくるのは鷲子。相変わらず眩しいくらいの巨乳をお持ちだ。対する妖忌は何所か面を喰らった表情をしている。
つかつかと近づいた鷲子は妖忌をいきなり殴り飛ばした。殴り飛ばされた妖忌は文字通り吹っ飛び門の壁に頭をぶつけて倒れた。
「い、いきなり何を!?」
「いきなり消えて心配をかけたお方が何をおっしゃっておられるので?」
「スミマセンデシタ」
腕を組んで見下ろしてくる鷲子に縮こまって正座する妖忌。この時妖夢は今まで大きく感じられた祖父の背中がとても小さいものに見えた。
「何これ」
その光景を門の奥から見ていた幽々子はそんな事しか言えなくなるのであった。
―――――――――
出会いはあれとして、とりあえず中で話をする。具体的には主に剣士さんとの関わりについて。
「じゃあ貴方達は向こう(・・・)で妖忌が世話になった方々なの?」
「正確には世話になった方の知り合いですが・・・。」
白玉楼の一室で茶を飲みながら話す一同。客用に出されたはずのお菓子を食べながら喋るのはこの白玉楼の主である〜・・・亡霊さん。(幽々子です)
苦笑しながらそれを見ているが、別段口に出す事もなかった。
「それにしても、まったく。貴方って人は随分と迷惑を掛けたみたいね。」
「はっはっは。それほどでも――」
「褒めてないわよ。」
バッサリと斬り捨てられて部屋の隅でしくしくと泣いている剣士は全員で無視する。
「にしても、はるばるよく訪ねてくださいました。どうぞゆっくりしてください。」
上品に口元を隠し微笑みながら言う亡霊さんではあるが、口の周りについている菓子の食べカスさえなければ決まっていたのだろうなと。私は苦笑を浮かべながらそう思い、他の人もどうしたらいいのか分からずやっぱり苦笑をするしかないのであった。
「ありがとうございます、お心遣い感謝いたします。」
苦笑から真面目な顔で礼を述べて頭を下げる。そしてさっきから私の隣に座るまとこ君(真人です)を見つめている剣士さんの孫(妖夢な)。
「な、何か御用でしょうか?」
彼はその視線に気づいては居たらしい。が、どうしたらいいのか分からないのでずっと放置していたのだが、どうにも気になってついに声を掛けてみた。
「あ、いえ・・・ずいぶんと鍛えていらっしゃるのですね。」
「え?あぁ、分かりますか?」
「私も鍛えている身なので分かります。」
そう言うと剣士さんの孫は背負っている刀を取り出して
「出来れば、お手合わせ願えませんか?」
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ちろちろと桜の花びらが舞い落ちる白玉楼。その庭の一角で二人の男女が木刀を構えあっていた。無論妖夢と真人の事である。(頑張って覚えた)妖夢は2本、真人は1本ずつ木刀を構えており両者の間には審判役の剣士さん(妖忌)が立っている。他の者はそれを縁側でのんびりお茶を飲みながら見ている
「両者構え!!」
ゆっくりと二人ともそれぞれの構えを取る。そして唐突に二人の木刀が大気を切り裂いた。
激しくぶつけ合った木刀を素早く引き距離を置く。半分人外の事もあるのか動きや力は妖夢の方が上回っている事を真人は初手で感じ取った。
「強いっすね。」
「貴方こそ、最初の一撃を受け止めるなんて只者じゃありませんね?」
そう言って妖夢が2本の刀を自在に振う。今の所真人はその2本の刀を受け止める動きしか出来ない。それは妖夢の剣捌きのスピードと1本多いからである。
「強いですねー。おたくの娘。」
「えぇ、優秀な庭師ですわ。」
そう言って亡霊さんは私の膝の上に座っているクロの頭を撫でる。
「この娘は貴女の娘?」
「いえ、違いますけど・・・。」
それを聞いた亡霊さんは私の袖をぐいぐいと引っ張ってみんなから少し離れる。剣士さんの孫と青年(もう忘れた)の手合わせを見るのに夢中だった彼らはその事に気づいてはいない。そして離れた所で彼女はじっと私の目を見つめながら言った。
「私はね、幽霊だから魂っていうものを見れるのよ。そしてこの娘にはその魂が2つあるの。」
突然そんな話をされても、私の頭は理解できない。
「え??」
「一つはこの娘自身の魂。もう一つは別の女性の魂。貴方この娘と誰か女性と深い関係に無かった?そしてその人―――――
―――――――もう死んでないかしら?」
突然の問いではあるが、最後の言葉で私は察した。と言うより一本の線でつながった。
膝の上でまるで猫のように体を擦り寄らせてくるクロを撫でながら私は言った。
「おそらくそれはこの娘の名付け親だと思います。そして貴女の言った通りすでに彼女はこの世に居ません。」
きっぱりと断ち切るように一息で喋る私。クロを抱く手に少し力が入るのが自分でも分かる。
「でしょうね。その人この世に未練があったからこの娘の中にいるんだと思うわ。よっぽど強い未練があるのでしょうね。自分に関わりがあるモノに憑いてまでこの世に留まりたかった訳が。」
その訳というものに対しては心当たりが――ほぼ確証がある。
「では、彼女が成仏する為にはその未練を晴らしたらいいという訳ですか?」
「別に今すぐでもいいのよ?」
そう言って彼女は懐から扇子を取り出して広げる。『彼女』の能力は死を操る程度の能力。その気になれば妖怪の一匹などたやすく消してしまうだろう。
「魂というものは輪廻転生という輪の中に居なければならない。そこから抜け出した魂なんて魂じゃないわ。」
彼女の気配が変わったことを肌で感じ取った私は何かおかしなものを感じていた。蛇に睨まれたカエルの様な、まるで『死』というものが隣に存在するような・・・。
ゆっくりと腰のホルスターに手を伸ばし、額に冷や汗を流しながらまるで人質を取っている犯人と交渉するような慎重さで言葉を吐き出す。
「・・ならば・・・彼女の未練が無くなるまで待っていただけないでしょうか・・・?」
「貴方が未練を絶てるとでもいうの?」
「私が彼女の立場だったら消されるよりも未練を晴らして消えたほうが幸せですから。」
「・・・・・・・。」
「それに彼女は大切な人です。」
「・・・・・・・ぷっ。」
真面目な顔してキリッと決めたのに何故か笑われた。
「そんなに大切な人ならしっかりと手を握って置く事ね。私じゃなくて、他の誰かがこの娘に害を与えてしまうかもしれないから。」
そう言うと彼女は再び試合を見始める。
何となく、心の奥底でそんな予感がしていた。彼女と出会った時、なんとなく分かった。
何所となく懐かしかった。何所となくうれしかった。何所となく悲しかった。
そこまで考えて私は試合の観戦に戻った。自分の大切なものを胸に抱いて。
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私―――魂魄妖夢は、今唯の人間相手に若干本気を出している。というより自棄になっていると言ってもいい。
と言うのも唯の人間である彼―――赤城真人に私の攻撃が一発も当たっていないのだ。自分の腕が未熟とはいえこれは少しへこむ。
ガッ!バキッ!!
木と木のぶつかり合う音が何べんとなく耳に入る。この音を聞く度に私の攻撃は相手に防がれ、また彼の攻撃も防いでいる。
意地でも彼に負けたくない。博麗の巫女でも黒白の魔女でも紅魔館のメイドでも無い唯の人間に負けてしまっては白玉楼の名に泥を塗る事になる。
それだけは、絶対に嫌だった。
だが、次の瞬間縦に振り下ろされた木刀を体を逸らして躱す。だがそれがいけなかった。というより相手はそれを狙っていた。
振り下ろされた刀は勢いよく上へと振り上げられた。それは昔祖父が見せた返し技“ツバメ返し”にそっくり―――いや、そのものと言ってもいい。
人間は死ぬ瞬間周りのものがゆっくり見えらしいがそれは半分幽霊の私にも言える事らしい。相手の刃がゆっくり見える。それだけではない、周りの人間の動きも風景もよく見える。真人の真っ直ぐとした目が良く見える。
そして彼の刀は――――――
「一本!勝者、真人!」
師匠の声と右手が上がる。私の手から力が抜けて行き、からんからんと木刀が落ちて行った。今更のように息が荒くなっている。彼はゆっくりと木刀を私の首筋から降ろした。
負けた・・・。
剣に関しては自信があった。だがその自信も今やボロボロになっていた。恥ずかしくて幽々子様や師匠の顔が見られない。
「「ありがとうございました」」
互いに礼をする。どんなに恥ずかしい試合をしてもそれが礼儀というものである。
とりあえず私は、2本の木刀を片付けを理由にその場から逃げ出した。
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「どうですか?あいつの腕は。」
試合が終わり、縁側に座ってお茶を飲んでいた真人の隣に座った妖忌が話しかける。
「いい腕をしてます。刀捌きでの問題は無いでしょう。問題は――――」
「内面ですか。」
「えぇ、まぁ。」
妖忌は、先程の試合を思い浮かべながら茶を飲む。
確かに妖夢は剣捌きに関しては才能がある。そして常に鍛錬もしているので外見上は問題ない。だが、精神がまだ幼く、弱い。心は刀に共鳴する。心が揺らげば刀も揺らぐ。
「ふぅ・・・。」
―――まだまだ甘いな。―――
息を吐きながらそう思う。まだまだ自分が引退する訳にもいかなそうだ。この白玉楼を守るのが自らの務めなのだから。
・・・実際にはそれをほったらかして長い事ほっつき歩いていたのだが。
その妖忌は一度咳払いをすると改めて真人の顔を見る。
「それで、貴方に頼みたいことがあります。」
「?」
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木刀を片付けた後戻ってこないという訳にもいかず、出来るだけ歩く速度を遅くして戻る。意味の無い事とは分かっていてもそれをしてしまうのも私が未熟だからなのだろうか・・・。
色々考えている内にみんなの所に戻って来た。
その中でちょいちょいと手をこっちに向けて呼んでいる妖忌の元に向かう。
先程の試合に関して何か言われるだろうなぁと思いながらトボトボと歩いて行く。
「で、お前は自分の剣に何を求めているのだ?」
またこの質問だ。私に剣を教える時はいつもこの質問をする。
耳にタコができる程聞いた質問に私は
「守りたいものを守る力です。」
きっぱりとそう答えた。
「だが今のお前にはその力は無い。」
そしてきっぱりと返される。
「だから今回は真人殿に指導役をしてもらう事にした。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「お前は毎日地上まで降りてこの方に剣術を習うのじゃ」
習うのじゃって、そんな指先ピシッといたしましても私には庭師の仕事が。
「それは私がやっておくから問題ない。お前は心と剣を鍛え、将来白玉楼を守る剣士になる為の力を身に着けておくべきだろう。他の流派を見習うのも一つの方法だ。」
「わ、わかりました。その代り、毎日の幽々子様の食事は師匠が用意してくださいね。」
「あ、ちょっと待って。せめて朝食と夕食は手伝ってくださいオネガイシマスタスケテクダサイ。」
最後の方言葉ガタガタじゃないですかそれに昔は師匠がやっていたでしょうがいいからお願いしますね。
そう言って私は幽々子様の方に歩きはじめる。何か師匠の背が前と比べて縮んだような気がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぐすっ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ま、まぁ・・・・子供って言うのは常に成長して行くものですから・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・孫ですがね・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
―――――――――――――――――――――
「あ、ちょっと貴女。」
「はい?」
そう言って幽々子は優海の事を手招きする。茶菓子を食べながら談笑する皆から少し離れて二人だけで話し出す。
「貴女にちょっと頼みたい事があってね。」
「私に・・・ですか?」
柔らかな微笑みで話しかける幽々子。近寄った優海に顔を近づけると小さな声でそう言った。
「貴女に妖夢の事をお願いしたいのよ。」
「妖夢ちゃん・・・ですか?」
その問いに幽々子は頷いて答える。
「あの娘はずっとここを守る為の事しかしてこなかったの。せっかく女の子に生まれたのに化粧の一つもした事が無いのよあの娘。」
「え?そうなんですか!?」
「そうなのよ。年頃の女の子が剣だけ握って今まで生きて来たのよ。主人としてはもう少し色気を出してもらった方が良いのだけれど。」
それでね―――と改めて優海を見つめる幽々子。
「あの娘も剣や料理の事を経験しておくべきだと思うわ。唯でさえ妖夢は友人少ないのだから。」
「それはかわいそうですねぇ〜。」
「でしょう?」
「聞こえてますってッ!!!」
当の本人からして見れば心外なる評価の様だ。
「でもどうして私なんですか?」
それこそ歳が近い蓮子やメリーの方が適役だと考える。
「何でかしらね?貴女には何かがあるのよ。こう・・・人と関わりを持たせる何かが。」
「何か・・・ですか。」
「そう。その何かが貴女と貴女の周りの人を幻想郷に引き込んだ。貴女の中にある“それ”は貴女と貴女の周りの人の人生を変える力があるのかしらね」
突如顔から笑みが消えそんな事を口走る幽々子を見てひやりと背筋に冷たいものが走る。
だが次の瞬間にはその表情は消え先程と同じ笑みを浮かべた幽々子がいた。
「まぁ私は唯の亡霊だからそういう事は一切分からないのだけれど。」
「そ、そうなんですか・・・。」
「でも気を付けて、この幻想郷では外の世界と常識が違う。油断していると後悔してしまうわよ。」
――可愛い幽霊からの親切な忠告――その言葉で今日の白玉楼観光ツアーは幕を閉じた。
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「アンタ行きは平気だったのに何で帰りにそうなるんだ!?」
「吐くなよ!?吐くなよ!?絶ッ対に吐くなよ!!?」
「それって某漫才ネタじゃ・・・。」
「ずみまぜん・・・もうむうっぷ!??!」
「袋!袋ッツ!!袋ぉおおぉぉぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
帰りのクロの中は悲鳴と阿鼻驚嘆に包まれていた。
誤字脱字や矛盾点なんかを見つけた時には遠慮せずに言ってください。




