第37話 筍狩りに行こうよ(後)
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〜優海視点
穴に落っこちた真人さんをウサ耳少女が抱え上げてくる。さすがは妖怪。これくらいは楽々ね。
「っていうか貴女が飛んで引き上げればよかったんじゃ・・・?」
「あ、その手があったか。」
自分が飛べる事をすっかり忘れていた。そうだよ、初めから飛んで引き上げて置けば良かったんだ。・・・でも真人さん抱えて飛べたのだろうか?
そんな事を考えている間にウサ耳の少女は抱えていた真人さんを地面に降ろす。
「アイタタタタ・・・。」
「これは・・・どうやら捻ったみたいですね・・・。」
痛そうに足首をさする真人さんを見てそう言うウサ耳少女。
「あ、あの名前は?」
「あ、私は鈴仙・イナバ・優曇華院。長いから鈴仙でいいよ。」
「鈴仙ね。助けてくれてありがとう。」
そう言うと鈴仙は何かばつの悪そうな顔をしながら
「いいんですよ。とりあえず永遠亭へ行きましょう。そこで治療しますから。」
「「永遠亭?」」
聞き返す二人に鈴仙は笑顔ではいと答える。永遠亭か・・・。どんな所なんだろう?
足を挫いて動けない真人さんに肩を貸しながら私達は永遠亭を目指した。
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〜真人視点
・・・女の子に肩を貸して貰うと言うとても情けない状態の事十数分。竹林の中にある屋敷の前に僕達は来ていた。どうやらこれが永遠亭らしい。鈴仙の案内で中に入ろうとすると目の前から一人の女性が現れた。赤と青の特徴的な服を着た女性だ。
「どうしたのその人達は?」
「それが・・・てゐの罠に掛かっちゃったみたいで・・・。」
そう言った瞬間女性がはぁ〜と言う溜め息を漏らす。
どうやらあの落とし穴はこの人達の身内がやったらしい。女性の態度から察するに初めての事じゃあ無さそうだ。
「・・・兎に角治療をするから中へ入って頂戴。」
女性の言葉に従って僕達は永遠亭の中へと入る。そしてその中の一室――診察室みたいな所に連れて来られた。椅子に座らされて捻った方の足の靴(と靴下)を脱がされる。
「所で、貴方名前は?」
「あ、赤木真人です。」
そう答えると女性は「赤木真人ね。」と確認しながら足首を触る。
・・・触るのはいいけど引っ張ったり回したりするのはやめイテテテテテテッ!!
「骨も折れてないし大丈夫そうね。薬を塗っておけば治るわ。」
「あ・・・ありがとうございます・・・。」
痛みで若干涙が出てきそうになるがそこを我慢してお礼を言う。
「所で、お名前は?」
女性の名前を聞いていなかった事に気づき改めて聞いてみる。
「私は永琳。八意永琳よ。」
女性―――永琳さんはそう名乗った。
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「す・・・すげぇ・・・。」
そう言って捻った足首を触る。動かしても痛みは無くホントに怪我してたの?と思うほどだった。驚きなのは薬を塗ってわずか3分で完治したという所である。
「これで治ったから。」
「いや、さっき塗り薬塗っただけでしょ!?でもほんとに治ってる!!」
立ち上がっても足踏みしても全然痛くない。薬を塗る前は動かす事も辛かったと言うのに。
「い、一体どうやったらこんな・・・。」
「企業秘密よ。」
笑顔で答える永琳さん。いや、教えてくれたって良いじゃないですか・・・。
そんな事を考えながら立ち上がり足の具合を確かめる。
・・・うん、問題は無い。
と体の調子を確認した所でちょっとした質問をする。
「所でどうしてあんな所に落とし穴が?」
「ああ、あれはてゐが掘った穴なのよ。」
「てゐ?」
そう聞き返すと八意さんは溜め息を吐きながら
「ええ。ここ(永遠亭)に住んでいる妖怪なんだけどとんでもない悪戯好きでね・・・。彼方みたいに時々てゐの罠に掛かってここに運ばれてくる人が居るのよ・・・。」
「へ、へぇ〜、そうなんですか・・・。」
「まったく・・・薬だって唯じゃあ無いんだしどうにかならないものかしら?」
「・・・・・・・・・・・。」
理由を話すにつれ目が笑わなくなってきた永琳さんに僕は苦笑いしか出来なくなる。
そしてもう一度溜め息を吐いて出した薬をしまうと
「とりあえずお茶でも如何かしら?」
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という訳で今は永遠亭の居間に居るのだが・・・。
「ねぇ貴方達・・・。」
「「な、なんですか?」」
「ここに置いてあったお茶菓子知らない?」
「「知る訳ないでしょ!!」」
お茶を組んで一杯どうぞとした所で鈴仙がお茶菓子の存在に気づき取ってこようとしたのだが見つからず永琳さんも探し始めてそれでも見つからず、しまいには初対面の僕らにまで聞いてくるという
「おかしいわね・・・確かにあそこに置いておいたのに・・・。」
言いながら首を傾げる永琳さん。
「というか最近やけに物が無くなることが多いわね。」
「え?そうなんですか?」
「薬やら食糧やらがチマチマとね。たぶんこの竹林の中にいる獣か妖怪の仕業でしょう。」
「「獣?」」
そう言うと永琳さんは服のポケット(らしきもの)から数本の毛を取り出す。
よくよく見てみるとそれは人間の髪の毛では無かった。
「犬の毛?」
「正確には獣の毛ね。」
そう言うとその毛を机の上に置くとそのまま座る。鈴仙も座ったのでつられて僕達も座布団の上に座った。そして永琳さんは話しはじめる。
「大体一週間くらい前かしら?その頃からチマチマと永遠亭の物が減って行ったのよ。たぶん獣かそこら辺の低妖怪の仕業だと思っていたのよ。」
「最初は食料品ばかりだったんですけど三日前から急に師匠の薬まで無くなるようになったんです。それで調べてみたらこの毛が見つかったんです。」
そう言って机の上の毛を指差す。色は茶色の様な黒の様なで一見すると髪の毛にも見えるがこれは人間の毛では無かった。
「妖怪の毛よ。」
永琳さんがそう言ってその毛をつまみ上げる。
「この永遠亭の住人にはこんな毛を持った人は誰もいないのよ。つまり・・・。」
「「「外部犯。」」」
残った三人が一斉に同じ言葉を呟く。
「つまりこの毛の持ち主がこの屋敷で盗みを働いていると?」
「そう言う事ね。」
「で、僕達にそれに対して協力してほしいと。」
「「!?」」
「あら、それなら話が早いわね。」
話について行けない二人は置いておいて僕と永琳さんは話を進める。
「調度いいから貴方達への“依頼”という事にしましょうか。これでどうかしら?」
「えぇ、喜んでお受けしますよ。」
何が何だか分からない二人はキョトンとした顔になるが僕と永琳さんは居たって普通の笑顔だった。
そして永遠亭での小さな事件が幕を開けた。




