第32話 ⑨庭師
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幽々子様の昼食の為の食糧を取りに来てみると門の前から何やら気配がしたので来てみるとそこには2本の刀を携え周りに半霊を浮かせた一人の男が立っていた。皺だらけの顔で男と言うよりは老人だったが2本の刀と横の半霊が老人を人間ではないという事を証明していた。第一にに冥界まで来るという時点でほぼ人外確定である。脇み・・・霊夢さんとかたまに規格外なのがいるけど・・・。
本来ならばこういう事は弾幕ごっこで決着を付けなければいけないのだがこの人とは自分の剣で戦ってみたいと思う。相手が同じ剣士だからだろうか?
そんな疑問を振り払って目の前の相手を見据える。そして一気に空中へ飛び重力を利用し2本の刀を思いっきり振り下ろす。
それを相手は“片方の”刀だけで受け止め、残った一本を横薙ぎに振う。
私は2本の刀の内の一本でその攻撃を受け止め一旦後ろに飛んで距離を取る。
「やりますね・・・。」
「ふん・・・あの程度でやられる程儂は弱くはないぞ。」
その言葉と共に相手はこちらへ向かって飛び込んで右手に持っている刀で体を串刺しにしようとして来る。その刀を弾き今度はこっちが斬りかかろうとすると左手の刀で防がれる。
―――ガキィィン!!
―――ガカァァァン!!
と言う金属同士のぶつかり合う音を上げながらお互いに斬りかかっては防がれ斬りかかってこられては防ぎを繰り返していた。
それがしばらく続いた。
何回繰り返したかは分からない。耳が痛くなるほどの金属音を聞き続け手は柄と擦れ合い皮膚が若干剥けてしまっている。
長時間の戦闘(少なくとも私にはそう感じられた)の所為で集中力は切れかけ息も少し荒くなって来ている。
それに対して相手は息切れも見せず目は最初の打ち合いの時と変わらず鋭い。
―――この人には・・・勝てない・・・。
頭に過ぎるその事実。だが私は認めなかった。いや・・・認めたくはなかった。
だが、その一瞬の隙を相手は見過ごさなかった。
――――最初の攻撃を何とか受け止め―――
――――次の攻撃で後ろに吹き飛ばされ―――
――――三度目の攻撃で刀を一本飛ばされ―――
――――反撃に突き出した刀を弾かれ―――
――――止めとばかりに振り被った刀を見たのを最後に私は反射で目を閉じた―――
「はいはい。二人ともそこまでよ〜。」
と言うこの場の空気には似合わぬ緊張感の欠片もない声が聞こえる。
それが自分の主の声だという事を理解するまでに若干の時間を必要とした。
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この声には聞き覚えがあった。かつての自分の主でありとてつもなく長い時間共にいた彼女の声だ。
「まったく妖夢も妖忌も途中から遊びじゃなくなってるわよ。あなたは本当に手加減っていうものを知らないのね。」
昔と変わらない声色。そして振り返るとそこには懐かしいその姿が昔のままでそこに居た。
「御変わり有りませぬな・・・。御嬢。」
「あなたは結構皺が増えたんじゃない?妖忌。」
いきなりの辛辣な言葉に苦笑いを見せるしかない。するとそこへ妖夢が
「あの・・・妖忌ってもしかしてこの人は・・・。」
「そうよ。こいつが貴女とさっきまで真剣勝負をやっていた先代の馬鹿庭師よ。」
「ちょ、いくらなんでもそれは。」
「まったく、長い間私達をほったらかしてどこに行っていたのよ。貴方にはこの白玉楼に居てもらわないと困るの!!主に私の食事が!!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
御嬢・・・。それは死刑宣告にも等しいんですが・・・。
それは御嬢の食事の凄さとそれに伴う家計の圧迫とその食事を準備する苦労を知っているからこそ分かる事である。
あれは人を過労死させる為にあると言っても過言ではない。
「まぁ、大方『自分の剣はまだまだだ!!』とか思って出かけたんでしょうけど、にしては帰ってくるのが遅すぎるわよ。」
「す、すみませぬ・・・。」
そう言って頭を下げる。彼女が言っている事は本当であり実際そう思い至ってそのまま外の世界へと出てしまったのだが・・・。
にしてもどうして御嬢は儂が出て行った理由を知っていたのだろうか?
「それはともかく、あなたはここへ帰ってきたんでしょう?」
「え、ええそうございますが・・・。」
「だったら祝杯しないとね!!やっと家出息子が帰ってきたんだから!!」
「い、家出息子!?」
そう言って屋敷の中へ入って行く御嬢。予想外の言葉に思わず口をぽかんと開けてそのまま固まる儂を見て妖夢はくすくすと笑っていた・・・。
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「帰ってきた・・・。帰ってきた!!////」
ぱっと見は普通に歩いているように見えるのだが足が若干スキップしている。そして顔は思いっきりにやけており何だかとても嬉しそうに見える。
それもそうだ、長い間自分の傍らに居た人が突然居なくなってとても心配した。
彼に何かあったのだろうか?
彼に愛想を尽かされてしまったのか?
私は彼に何かしてしまったのだろうか?
嫌な想像が頭を過ぎり続けた。そんな事を考えていた日々があった。それが今日、妖夢の昼食の内容を聞きに(催促ともいう)探していた所、門前での気配から何事かと見てみるとそこにはあの長らく傍らに居た彼―――妖忌が居たのだから・・・。
彼の姿を見た途端今まであった不安とか、心配とか、そう言うものが一切無くなっていた。よくよく考えればあの剣術馬鹿の妖忌の事だ。自分の剣の腕の事で飛び出したに違いない。とまぁそこまで考えていた所でさっきの様な事になったのだった。
ともあれ妖忌が帰ってきた事により白玉楼ももっと賑やかになるだろう。
そんな事を考えながら彼女は居間へと向かうのだった。




