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魔女とツンデレ

今月の俺はついている。

月に一度の席替えで、窓際の一番後ろというベストポジションを獲得した俺はぐへへへと笑っていた。

しかも前も、横も、女子。こんなラッキーなことはない。

「ふふふふ…… 」

今日の宿題をしていないとか、予習をしていないとか、そんなことはもうどうでもいい。

「くっくっくっくっく……」

そう、全ての授業は女子の匂いを嗅ぎながら、女子の姿を観察する時間となるのだ!

「ぶわっはっはっはっはっ!!!!!」

三十分前行動が座右の銘の俺。教室には誰もまだ来てない。だから、教室の片隅でふんぞり返って高笑いしても恥ずかしくともなんともない。

はずだったのに。

「鈴木、キモい」

突然声がした。

ふんぞり返った格好のまま硬直する俺。ギシギシと音をたてながら首を動かし、ぎこちなく教室の入り口を見ると、元木千景がいた。

背中まである長い黒髪に、ぱっちりとした黒い瞳。ちゃんと制服を着ている体は、どちらかといえば小さい方だ。しかし、小柄な割には体の肉付きはほどよい。そう、この元木のスタイルこそが。

just my type。

元木はクラスで、いや、学年で一番可愛い。はずだ。うん、俺が保証する。

「…いつまで入り口見てるの?」

気がつくと、元木が俺の隣にいた。隣の机に鞄が置かれている。

「え?元木の席って俺の隣?」

「……そうだけど」

神様ありがとう。

俺は心の中で歓声をあげた。

おかげで、この一ヶ月間授業を聞かずに元木の横顔を見ていられる。

「あんたが考えてること、なんとなくわかる気がする……」

ため息を元木。そんな姿も可愛らしい。

「元木!!」

「きゃっ!?突然なに!?」

たまらなくなって俺は叫んだ。思っていることを内心のとどめておくの、苦手なんだ、俺。

「俺と付き合ってください!ぎゃっ!」

俺は頭を下げた。瞬間に目の前に火花が散った。 机だ。机に勢い良く頭をぶつけたのだ。元木の呆れた声がした。

「……あのさ、これで四回目なんだけど」

「でもいっつも返事まだじゃねぇか!」

早く返事してくれよ!こちらとら、可愛い彼女をつくって青春を謳歌することしか考えてないんだから!

俺の心の叫びが聞こえたのか、元木はまた深いため息を吐いた。

「毎回告白されるたびに言ってると思うんだけどさ」

言い、空に手を伸ばす元木。

その手が、黒い霧をまとい始めた。

「わたし…」

黒い霧をたたえた元木の手から、一匹の黒い蝶が現れ、俺ら二人のまわりを飛び始めた。

「魔女なんだよ?」

「あ、もうそのネタいいっす」

「は!?」

黒い蝶が消え、霧も消えた。かわりに、元木の驚愕した顔が現れた。

「なにそのネタって!?」

「蝶を出しながら魔女だって言うやつだよ。いや、俺的にはちょっと大人びた感じの元木が見れるからいいんだけどさ、それもう四回目だぜ?」

「あんたの告白が四回目だからでしょ!?」

怒る元木もまた可愛い。俺がほのぼのとして元木を見ていると、何人かのクラスメイトが一気に教室に入ってきた。元木はそれを確認すると、さっきまでの怒りはどこへやら、澄ました顔で椅子に座り、一限の準備をし始めた。

「鈴木、元木さん、おはよう」

学級委員長の国坂琴梨が声をかけてきた。国坂は赤いフチの眼鏡をかけたポニーテールが似合う女の子で、いかにも優等生といった顔をしている。ちなみに俺は国坂とは中学からの知り合いだ。

「よっ、国坂」

先ほどから全く変わらぬ様子で国坂に片手をあげる俺に対し、元木は、

「おはようございます、国坂さん」

と言った。いつの間にか分厚い本を取り出して読んでいる。

「元木さん、朝から読書?すごい、私も見習わなきゃ」

国坂が感嘆の声をあげ、自分の席へかえって行った。近くに人がいなくなり、俺は元木に声をかける。

「おい、元木」

「なに」

「今の顔、良かったぜ」

元木が俺を見た。顔が赤くなっていた。

「あんたって奴はっ……!!」

俺だけに聞こえるよう、小声で言われた言葉に、俺はふっと笑ってやった。元木はしばらく俺を睨んでいたが、やがて、読書に戻った。

元木千景は学年で一番可愛い女子で、魔女だ。

これを知っているのは、学校で俺だけだ。多分。

どっかの世界から、派遣されてきたらしい。詳しいことは分からない。何も聞いていない。

だが、そんなことは知ったことではない。

俺の願いはただひとつ。

元木とリア充することだけだ。

「元木」

「なに」

「一限なんだっけ」

「数学」

「予習忘れた。見せてくれるか?」

元木は俺を見て、不満そうな顔をした。

「……周りに人がいなかったら断ってやるところなんだけど」

言い、ピンク色のノートを取りだし、俺に差し出してきた。

「今回だけだからね」

「へいへい。サンキュー」

元木は。

元木千景は。

学年で一番可愛い、清楚な優等生だ。

だが、本当は魔女で、ツンデレだ。

これは俺しか知らない。そう、俺だけが知っている。

特別なことだと、俺は思っていた。優越感を誇っていた。

まさかこの事が、後に俺に影響を及ぼすなんてことは、このときは微塵も思っていなかったのだった。



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