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可能性の獣  作者: 咲楽桜
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異世界の洗礼

 2009年7月13日。

 君島夏希は中学校を休んだ。

 初夏だが、真夏を思わせるうだるようなねっとりとした熱気が、鉄筋コンクリートの部屋に充満していた。

 PCのファンが不快指数を上げるべく室内に熱を送り続けている。

 夏希が服を畳まずに脱ぎ捨てて寝たのは昨晩が初めてだった。

 もう、何もする気力が無かった。

 目が覚めても起きる気にならず、一晩ですっかり重くなった髪を洗う気にも、唾液が粘つく歯を磨く気にもならなかった。

―ダメだ―

 その言葉だけが夏希の脳裏で幾度となく再生されていた。

 学校へ行く、塾へ行く、勉強をする。勉強は学生の本分。

 それをしなければならない事も、親の期待も分かっていた。

 しかし、そこは既に学び舎ではなく、監獄へと変わっていた。

 誰もが腫れ物のように自分に近づこうとしない。声をかけても露骨に避けられる。否、いかに残酷に避けるかを競い合っているかのようだ。

 机にマジックで書かれた罵詈雑言、ボロボロに破られてもはや取り出す事も止めた引き出しの教科書。卑猥な文字の書かれたジャージの巾着も机の脇に下ったままだ。

 それでも、夏希は学校に通っていた。

 ブレザーのポケットに差したボールペンと、100均で買ってポケットに入れておいた手帳サイズのノートまで損壊される事はなかったし、それに板書して勉強をしているのだと自分に言い聞かせていた。

―勉強を止めたら負けだ―

 始まりは5月だった。誰もがクラスに順応し、ヒエラルキーが構成され始める頃。

 夏希が所属したのは6人の男子のグループだった。そこそこの優等生グループで、女子のグループとも付き合いがあり、クラスの中でも余裕を感じさせる集団だった。

 その頃から、何かが動き出してはいたのかもしれない。しかし、夏希はそれに気づかなかった。

 クラスの中でも素行の悪いグループの少年の一人が、グループの中で使い走りをさせられるようになった。

 その頃は夏希は別のグループという事もあり、その少年に注目する事はなかった。

 が、ある日、昼食を買いに行かされるその少年にグループのメンバーがついでだからと自分の分も買って来るよう頼んだのだ。

 頼んだというよりは命令に近かったかもしれない。

 その時も夏希は特にその事に対して注意などはしなかった。

 だが、それが恒常化し、更に財布を忘れたと言って少年に昼食代を出させるまでエスカレートした。

 数日後、少年が金がないと言うと、ヤンキーのグループから取ってこいとメンバーの一人が脅迫した。

 さすがにそれはやりすぎだと夏希はグループのメンバーを諌めたのだ。

 その時には表面上、夏希の言い分が通ったように見えた。

 しかし、裏では見えない歯車が夏希を押しつぶして回転を始めていたのだ。

 翌日、夏希はグループのメンバーから露骨に避けられた。代わりに使い走りだった少年がグループに加わっていた。

 夏希には何事が生じたか理解できなかった。

 その理由を察したのは女子のグループの会話を耳にしたからだった。

「君島ってマジウゼーのな。サイト見てなかったらいい奴だと思っちまう所だったわ」

 学校裏サイト。

 存在は知っていたが、夏希は積極的にそれを活用してはいなかった。

 書かれている内容はネガティブなものが多かったし、そのようなくだらない事にわざわざ時間を割くつもりもなかった。

 が、夏希としてもそれが原因であるのなら調べない訳には行かなかった。

 休み時間にトイレの個室に入り、スマホで学校の裏サイトを検索した。

『君島正義感ぶっててマジウザい』

『正論ぶって何様って感じ』

『上から目線でもの言うとか2ちゃんと現実混同しすぎ』

『久能のおまけのくせに小学校の時も調子に乗ってたし』

『隠れて勉強して見下すタイプ、マジサイテー』

『君島排除決定!』

 誰がどの書き込みか分からない。しかし、自分を誹謗中傷する言葉の羅列を見る事は想像以上に堪えた。

―どうしよう―

 どうしたらこの状況を打開できるのか。

 夏希が暗澹たる気持ちでスマホの画面を見ているとトイレの個室の上から水が降ってきて全身がずぶ濡れになった。

 咄嗟にトイレのドアを開けたが、水を垂れ流すホースとトイレのドアの閉まる所が見えただけだった。

 水のかかったスマホの画面からは光が消えていた。

 全身ずぶ濡れで教室に戻ると忍び笑いがそこここで起こった。

 加害者として堂々と笑うのではない、誰もが自分は観客に過ぎないのだと主張するかのように低く、クスクスと笑うのだ。

 怒りと実体のない悪意に対する恐怖で我を見失いそうになりながら椅子に腰掛けると、臀部に鋭い痛みが走った。

 慌てて席を立つと尻に画鋲が刺さっていた。

「誰だ! ふざけんな!」

 夏希は叫んだが、周囲からは無感情な目と忍び笑いが帰ってくるだけだった。

 それから約三ヶ月。

 夏希は精も根も尽き果てていた。

 人間という人間が信じられない。人間の悪意、否、他人の痛みに対する想像力の欠如や、集団の一員として生贄を排撃する行為を前に無力さを感じる事しかできない。 

 学校には辛さしか感じない。

 悔しいから涙こそ見せなかったが、自室に帰るととめどなく涙が溢れた。

 何も知らずに温かい夕食を出してくれる家族の暖かさが、逆に辛くて、湯気を立てる料理を見ると本当に折れてしまいそうになって家族と食事を共にする事も止めた。

 歯を食いしばって、負けないように、精一杯背筋を伸ばして生きてきた。

 しかし、それももう限界だった。

 夕日の差し込む自室で、夏希は手首にカッターナイフの刃を当てた。

 自分が死んだら何も知らない両親は悲しむだろう。それを思うと胸が締め付けられる。

 五体満足に産んでくれて、飢えさせる事もなく育ててくれて、多少ふさぎこんでいても黙って見守ってくれていて。

 そんな家族を思うと申し訳の無さが先に立つ。

 しかし、もう限界なのだ。申し訳ないが学校には通えない。優等生でいる事ができない。

 期待には何一つ答えられない。社会的にもう廃人になっているのだ。自分の無様さが露呈する前に消えた方がいい。

 それが両親の為でもある。

 遺書は残さない。それは不特定多数の悪意に負けた事を認める事になる。

―せめて最期は誇りを持って逝こう―

 夏希は手首に青く浮かんでいる血管にカッターナイフの先端を突き刺した。

 ぷくり、と、浮かび、やがて溢れるように出てきた血液を見ながら、鋭い痛みを感じながら奥歯を噛み締め、ナイフの先に力を込めて手首を掻き切る。

―自分は死ぬのだ―

 痛みの中、救いにも似た気持ちを感じた瞬間、胸中で熱の塊が渦巻いた。

 全身から熱を奪い、無力化されていく肉体と相反するように身体から抜け出す力の塊。

 ウサギの姿をしたそれを幻視した夏希は、言い知れぬ喪失感を感じた。

 それが何なのかは分からない。確かなのはそれを失ったが最期、自分は人としての尊厳を失い、抜け殻になってしまうという不確かな想いだった。

 大型犬ほどの大きさのあるウサギは、一瞬夏希を振り返ると天空へと駆け上がろうとした。

 引き止めなければならないが、何と声をかけて良いか分からない。

 その刹那、夏希は小学生の時に交通事故で死んだ妹の事を思い出した。

「春菜!」

 夏希が叫んだ瞬間、両腕と両足から鋼鉄の鎖が出現し、飛びかかる蛇の逃げようとするウサギに向かって伸び、その身体を雁字搦めにした。

 ウサギの背から翼が出現し、大きく羽ばたいて鎖と重力から逃れようとする。

 夏希は訳も分からぬまま両手両足に全力で力を込めた。

 夏希の生命力の迸りのような鎖が灼熱し、万力のようにウサギを締めあげ、夏希という重力でその自由を奪う。

 ウサギは逃亡を止め、空中を蹴って齧歯目とは思えぬ牙の並んだ口を開いて夏希に襲いかかった。

 夏希は鎖を引いてウサギを壁に叩きつけた。ウサギが体勢を立て直すより早く、ウサギの鼻先を掴んでその身体を押さえ込んだ。

 ウサギの灼熱する赤い瞳が夏希を睨む。

―お前は俺のものだ!―

 夏希の強烈な思念の塊が電流のように鎖を伝ってウサギを打った。

 その力を受けたウサギは雷に触れたが如く身体を跳ね上げると、痙攣して動かなくなった。

 夏希が脱力してそれを見下ろしていると、最初から存在していなかったかのようにウサギと鎖は姿を消していった。

 数秒後、部屋での物音に驚いた母親が部屋に飛び込み、手首から血を流す夏希を見て百十番した。




「まずはアキバ公国の政治形態について聞いておこうか」

 陽のクリスタルの神殿からアキバ公国へと向かう幹線道路を、白い塗装を施された装甲車で移動しながら、実篤は淡路に問うた。

「政治形態と言うと……」

 運転席で淡路が答える。

 助手席には夏希、後部の兵員用座席に残りの四人が座っている。

「行政立法司法について答えてくれればいい」

 夏希が助け舟を出したが、淡路は困惑した表情を浮かべるだけだった。

 神殿で叩きのめされた兵士たちはその場で開放された。低級のファミリアの持ち主や公国に来る事を望まない者はグンマ帝国との間の平原に放逐され、いずれサイタマ、イバラギ、トチギの部族に吸収される事になるのだという。 

 そこから公国民を志願する者も少なくないのだそうだが。

「言い方を変えよう。アキバ公国で一番偉いのは誰だ」

 実篤の言葉に淡路は、

「武宮すばる総帥です」

「武宮総帥とはどういった男だ」

 実篤が訊ねると淡路は歴史の教科書の内容を思い出すようにして口にした。

「元々カントーはグンマ帝国のような未開の地でした。その中で最大の力を持っていたのが多数の奴隷を抱えていたナガタ帝国です。この国は10以上のファミリアを持つセイジカとカンリョウが絶対的な権力を持つ封建政治の国でした。そのナガタ帝国に反旗を翻したのが世界のファミリアを持つ武宮総帥です。総帥は突撃機動軍の近藤将軍らと協力してナガタ帝国と戦争を始めました。この時解放された奴隷がサイタマ、トチギ、イバラギの三部族の祖先です。近藤将軍もファミリアは6と低いですが、戦闘能力と指揮能力で並ぶもののいない名将です。戦いが始まってから五年で武宮総帥はアキバ公国の建国を宣言しました。それから十年間の戦闘を経て、遂にナガタ帝国は崩壊、ナガタ帝国を支配していたセイジカとカンリョウは追放され、北方辺境にグンマ帝国を作りました。ですが、グンマ帝国とアキバ公国の国力には今や圧倒的な差があります。公国がその気になればグンマなど一捻りです」

「ナガタ帝国は圧倒的な力を持っていたのだろう? アキバ公国はどのようにして勝利した?」

 実篤の問いに淡路は我が事のように誇らしげに答えた。

「兵器による武装とファミリアに頼らない能力制です。アキバ公国は兵器の量産によってファミリアの力の低さを補いました。戦果の高い者はファミリアの力に関係なく要職につけます。他にもアキバ公国には娼婦と酒が娯楽だったナガタ帝国に対し、アニメ・マンガ・ゲームといった文化的な娯楽もありますし、一般市民が上質なサービスを受けて食事をできるメイド喫茶があります。ナガタ帝国の時代はセイジカやカンリョウがリョウテイで食事をする意外は、奴隷は食うや食わずの生活でしたから、生活水準は飛躍的に上がりました。アキバ公国は武宮総帥に率いられていますが、市民の望んだ国でもあります。人々を奴隷にして苦しめるだけのナガタ帝国には初めから勝ち目は無かったと言えます」

「武宮の次に偉いのは誰だ」

「突撃機動軍近藤将軍です。グンマ帝国との戦いでは無敗を誇るアキバ公国の英雄です」

「その次は?」

「近藤将軍の他に鈴木、大迫、永田の三人の将軍がいます。普通は近藤将軍を含めて公国四将軍として市民に慕われています。他には武宮総帥直轄の加藤大佐がいます」

「その五人はどんな奴らだ?」

「近藤泰隆将軍は正義の6で、優れた戦術家です。男の中の男でとにかくカッコいいです。女子にはあまり人気がないですが。鈴木みちる将軍は女教皇のキングです。堅実な戦い方が得意な真面目な人ですが、ちょっと性格がきつい印象があります。戦闘でもやりすぎる事が多いですし。大迫健二将軍は魔術師のキングで機動力を重視した荒っぽい戦術の将軍です。動きが早すぎるので味方からも神出鬼没なんて言われてます。性格は明るくてとても楽しい人です。永田つばさ将軍は力の8で可もなく不可もない指揮官です。でも、それは劣っているって意味じゃなくて、鈴木将軍より速く、大迫将軍より固いって意味です。さすがに近藤将軍には及びませんが。性格は少し控えめですが良く気がつく素敵な女性です。加藤清史郎大佐は審判のキングで総帥の直轄です。直轄なので首都防衛が主な任務なのですが、どちらかと言うと後方支援が上手な印象です。軍のマネージメントは実質加藤大佐によるものですし。性格は真面目で少し神経質な所もありますが公平で正義感の強い人です」

「公国に憲法はあるのか? 議会は?」

「もちろんあります」

「議会のトップは?」

「評議会議長花形涼二議員です。A区選出の議員で文化振興に尽力されている方です。国立AKB劇場設立の功労者でもあります」

 淡路の言葉に実篤は呆れたようなため息をついた。

「こっちの世界にもAKBがあるのか」

「あちらの世界とこちらの世界はリンクしている部分がありますが、完全ではありません。以前はコンテンツだけがこちらに来ていて、実際に触れる事はできませんでしたが、花形議員はプロジェクトを立ちあげて国立AKB劇場を作ったのです」

「議会制度は? 衆院と参院があるのか?」

「いいえ、議会は一つだけです。アキバ公国はABCDEFの6区に分かれているので、そこからそれぞれ十人が選出されます」

「国会はどこにある?」

 実篤の問いに淡路は前を向いたまま答えた。

「駅前のラジ館です」

「省庁は?」

「政府機能はラジ館に集中しています。窓口業務は一階の秋葉原案内所で行われています」

「省庁は幾つある?」

「軍務省、内務省、食料省、産業省、文化省、財務省の6つです」

「と、いう事は各地区から一人づつ大臣が出るって事か?」

 夏希が訊ねると淡路は首を縦に振った。

「そうです。評議会議長はその中で前期最も功績の大きかった者が務めるのが慣習です」

「軍務は近藤将軍か?」

「シビリアンコントロールの観点から軍以外から選出されています。現在は兵藤議員が大臣を務めています。B区の電気街出身の人で、どちらかと言うと職人気質の人ですが軍とは良く折り合っているようです」

 実篤に答えて淡路は言った。末端の兵士にしては政府の内情に詳しい男だ。

「なるほどな。政府は一枚岩という訳か」

「武宮総帥はたった一人の世界のファミリア使いですからね。アキバ公国建国の父ですしカリスマが違います。ただ完全に安全かと言うとそうでもなくて、テロリストも存在しますが」

「テロリスト?」

 夏希が問い返すと淡路は頷いた。

「オープンソースの名前を取ってドロイドパイレーツと名乗っています。コンテンツの無料化を訴えて海賊行為を繰り返しています。リーダーは運命のキング神宮寺あかね。公国建国の際には近藤将軍と双璧とうたわれた人物ですが、戦後、コンテンツ販売の仲介に政府が入った事を良しとせず、少人数のグループを率いて海賊版の販売、時には破壊行為を行なっています」

「コンテンツの販売を政府が仲介?」

 夏希が眉を顰めると淡路は頭を振った。

「税金みたいなもんです。この世界は元の世界ほど人が多くないですし、事業主から税金を徴収するより、政府が運営した方が人件費の削減になるんです。脱税もないですし。でも、海賊どもは政府のコンテンツの監視につながるとして反発してるんです」

「情報操作は権力者の特権だ。庶民に自由があるなど愚昧にも程がある。で、その海賊はどうやって生計を立ててるんだ?」

「シンパが結構いるらしいですし、海賊版にアフェリエイト広告を貼ってたりしてそれなりに収入はあるようです」

「ちょっと待ってくれ。コンテンツは政府が販売しているんじゃないのか? それだと海賊版に政府が広告を出す事にはならないか?」

 夏希が訊ねると淡路は首を縦に振った。

「コンテンツを有料販売する時のみ文化省を通さないといけないんです。無料の自主コンテンツも無数にありますし、そのほとんどが広告で運営されています。実際政府の広告費が大きいのでここでコンテンツを作って有料で売ろうという人はほとんどいません」

「無料のものがそれだけあるのにどうして政府の有料コンテンツがビジネスとして成り立つんだ?」

 実篤が訝しげに言う。

「政府はあっちの世界のコンテンツを管理してるんです。映画やアニメやゲームのように多くの人の関わるものをこちらで作るのは難しいですから。そうして得られた収益が自主コンテンツに広告費として還元されるという仕組みです」

「政府がハリウッドやシリコンバレーの代わりをしてる訳か」

 夏希は得心して呟いた。そうして人気の出た自主コンテンツがやがて政府の支援を受けて大きなプロジェクトをするのであれば、アメリカ型のビジネスモデルが機能しているという事になる。

「人口が少ないから官営の方が都合がいいか。なるほどな。では、それに反対している海賊どもはアナーキストという訳か」

「アナーキスト?」

 淡路が問い返すと夏希が、

「無政府主義者って事。要は政府はいらないと思っている人って事」

「そうかもしれないです。ただやはり有料コンテンツは人気がありますし、そこで政府が利益を上げる事に疑念を持つ人は多いです。それに政府が販売していない向こうのコンテンツというのにも興味がありますし」

「堂々としていて良いではないか。向こうの映画だって配給会社が買ったものしか国内では放映されないのだからな。報道も同様だ。政府は大っぴらに情報統制をしている訳ではないが、事業者を管理する事で情報を統制している。消費者は国外に出ない限り自分たちの情報が統制されている事に気づかない。閉鎖された空間に囲い込む事で人間を家畜化するのは権力者の常套手段だ。飼われて食われるのが嫌なら飼う側になるしかない。それが世の必然というものだ」

「飼われる者と食べる者って、人間をそんな風に分けるのはおかしいよ」

 口を開いた佳奈美に黙っていた三人が視線を向ける。

「何がおかしい? 飼われる事で劣等遺伝子を引き継ぐのが弱者の生存戦略だろう? 牛やブタを見ろ。飼われて食われる事で絶滅する事はない。人間以外で強力な力を持つ動物のどれだけ多くが絶滅危惧種になっている? ライオンもトラも人間のお目こぼしで生かされているに過ぎない。いいか、絶対的な力による支配の下では、能力など何の役にも立たん。むしろ無害な消耗品となる事がもっとも正しい選択肢になるのだ。お前も人間ならそれくらいの事は理解しろ」

 実篤の傲然とした物言いに佳奈美は悔しそうに口を噤んだ。

「そう悲観的に考えなくても幸せに生きていく事はできる。知っていても意識しなければ余計なコンプレックスや不満は抱えないで済む」

 夏希が言うと実篤は鼻を鳴らした。

「どこぞの啓発本か宗教の教典にでも書いてありそうだな。だがそれは所詮食肉の発想なのだという事を肝に命じておけ。麻酔で病気は治らない。自分の現状を変えたければ置かれた環境を正しく認識し、目的と手段を明確にしなくてはならない事を忘れるな」

「その発想自体、相手のルールに乗っている事になりはしないか? 実篤の思考は正しい自己実現の方法のように聞こえるけど、その方法論は現在の支配階級の作り上げたものじゃないのか? それで成功した所でその一員になる事しかできない。世の中を寸分足りとも変える事はできない」

 夏希が振り向いて言うと実篤は瞳をぎらつかせた。

「俺が世界を変えたいといつ言った? 俺は生き残り、自分の能力に見合った地位と富を得ようと考えているだけだ」

「あんたと知り合った事が私の不幸だわ」

 腕組みをして優子が言う。

「当然だ。捕食者と同席して楽しくなる食肉がいるか? 俺と夏希はお前らとは違う。俺たちといて不幸になるのは当たり前だ。せいぜい俺たちのいない所で傷を舐め合うんだな」

 唇を歪めて笑いながら実篤が言った。

 険悪な空気は伝わっているのだろう、夏希の横でハンドルを握る淡路が別の話題を探そうとするかのようにフロントガラスの向こうに目を彷徨わせる。

「あ、車が停まってます。事故ではないでしょうか?」

「捨ておけ。車の部品が無駄口叩くな」

「そう言うなよ。事故だったら誰か困ってるかもしれないだろ?」

「スマホが使えるのにか?」

「充電が切れてるかもしれないだろ?」

「で、俺達が気に留めるメリットは何だ?」

「人は城って言うだろ? 一人ひとりは小さくても、人という石垣を積み上げなきゃ立派な天守閣は立たない。お前が平城で満足するなら放っておけばいいさ」

 夏希の言葉に実篤は表情を曇らせた。

「淡路、スピード落とせ。もし人がいたら話くらいは聞いてやる」

 憮然として言う実篤を見て夏希は内心で胸を撫で下ろした。



「いやぁ~。俺みたいなおっさんとじゃこんな所しんどいだろ」

 動かなくなった車の屋根に腰掛けた男は苦笑して言った。

 黒のバンダナに無精髭。目はサングラスに隠れて見えないが年齢は三十代半ばくらいだろう。黒い革のジャケットとジーパン、足にはエンジニアブーツと時代遅れのロック歌手のような格好をしている。  

「言わなくたって分かる。いや、分かっちまうんだ。これくらいの歳になるとな」

 胡座をかいた膝に片肘をついて、草原の向こうをぼんやりと見て言う。

「ヒロさぁ~、そんな年寄りぶんなくてもいいって。そりゃたしかにヒロはオジサンだけどさ。別にキモくないし、変な事しないし」

 明るく染めたボブカットの髪にベレー帽を乗せた少女が、車のボンネットに屈んで言う。

 クリーム色のベストに襟のリボンと同じチェックのスカート、黒いタイツの先はベージュのパンプスに覆われている。

「変な事ができんのは若ぇからだ。歳食うと変な事する気も起きなくなんだよ」

「落ち着いてていいじゃん」

 笑顔で車の屋根を振り返って少女が言う。

「ミユキ、男はいつだって若くありてぇし、バカもやりてぇんだよ。それが常識人ぶってこのザマだ。女だって同じだ。若いうちにバカやっとけ。歳を食ったら男の一人も引っかからなくなる」

 視線をボンネットにおとして妹尾裕和は言った。

「バカねぇ~。バカって具体的にどんな?」

 面白がるようにして野々村みゆきが訊ねる。

「さぁな。歳を食ったら他人にゃ言えねぇような事だ。お前らだって中二病とか言うだろ? 俺らにしたら二十歳病も三十路病もあんだよ。あ~やらかしちまった、あ~やらかしてやがると思っても一々言わねぇだけだ」

「武勇伝ってヤツ?」

「バァ~カ。武勇伝言えるのは三十までだ。三十過ぎるとこっ恥ずかしくて言えなくなんだよ。ガキの時分の話なんざ黒歴史もいいトコだ」

 ため息をついて妹尾は言った。

 車の上ではロクに話題も見つからない。食料どころか水もない。それなのに車上生活は二日目に突入しているのだ。

 若い娘と二人きりと言えば羨ましがられるだろうが、商売女ではない娘相手ではどう接したものか分からない。可愛い女の子と二人きりと純粋に喜べない時点で自分はオッサンなのだと妹尾は痛感していた。

「黒歴史あるある! 中学の時に好きな男の子にすっごい痛いメールとか送っちゃってて。小説で見た可愛いフレーズとかそのまま使っちゃってさ。まぁその小説もかなり痛かったんだけど」

「お前らが読むのはどうせ携帯小説だろ? 俺らの頃は森村誠一とか村上龍とか……ま、良識ぶってみても俺らの時代にゃそもそも携帯が無かったか。俺が今生まれてたらやっぱ携帯小説読んでたんだろうな。自分の頃と違うってだけで何事も馬鹿にゃあできねぇよな」

「そうそう、ヒロってば話分かる」

 横座りで振り向いてみゆきが言う。

「物分かりがいいのはジジイのしるしだ。それよりもう化け物は出ねぇかな」

 妹尾は立ち上がって言った。

 未舗装の一本道がある以外は見渡す限りの草原だが、その地面の下には途方もなく長大な化け物がいるのだ。ワニのような頭と蛇のような体をもったそれは、一般的には竜と例えられるかもしれない。

 だが、お伽話の竜は空を飛んでいたり水の中にいたりするが、今自分たちをおびやかしている竜は地面の下にいるのだ。

「兵隊さん全滅しちゃったもん。誰か通りかかるまで待と」

 草原に目を戻してみゆきが言った。

「だがなぁ~。腹は減るし、トイレの紙もねぇし、ケータイはずっと圏外だしおっさんもう限界だぜ」

「ヒロ、もう少し頑張ろ? 誰か通るよ、きっと」

「お前はどうしてそう楽観的になれるんだ? ああ、そうだ。俺が先に死んだら俺の事食ってもいいからな。風呂に入れねぇから多少臭うかもしれねぇが健康が取り柄だったから肉質はそう悪くねぇと思うぜ」

「お腹すいてたって食べないよ。すっごい美形で、肌がもちもち~っとしてて、柔らかそうな人だったら食べたくなっちゃうかもしれないけど」

「そりゃ単純にお前の男の趣味だろ。やれやれ、肉になっても差が出ちまうとはなぁ~」

 言って、ふと思いついたように妹尾は首元に手を差し入れると、首に巻いてあったシルバーのネックレスを外した。

「これ、高かったんだぁ。若い頃流行ってて……明らかに乗せられてたよなぁ~。今の若い連中はユニクロとかしまむらとか当たり前なんだろ? 俺らの頃はクソ高くて長持ちしねぇもんばっかり買ってた気がするぜ」 

 妹尾はそう言うとネックレスを放り投げた。

「あ、もったいない! リサイクルとかオークションに出せば……」

「阿呆、金なんてのは命あっての物種なんだ。シルバー一つで人気のある所まで歩けりゃ御の字だ」

 妹尾とみゆきがネックレスの落ちた辺りを注視すると、しばらくして膨大な量の土を撒き散らしながら地面が爆発した。

 TVで流れる事のある鯨のジャンプを思わせる動きで地面から飛び出した竜は、長大な胴体で地面の上に巨大なアーチを描いた。

「何度みてもでけぇなぁ~」

 光景そのものに対する感動は失われ、消えて欲しいという願望だけが言葉に乗っている。

「いつまでいる気なんだろう。私達が降りるのを待ってるのかな?」

「あんだけでかいんだ。その気がありゃ車ごと食ってるよ。俺が思うにあいつぁ目が見えねぇんだ」

「目が見えない? ヘレン・ケラーみたいに?」

「ヘレン・ケラーを引き合いに出すかね。いいか嬢ちゃん、あいつは最初下から車をひっくり返した。多分車の振動を察知したんだろう。で、兵隊さんが車から出た」

「食べられちゃったよね」

「あいつは、だ、車をひっくり返すと餌が出るって学習してんだ。多分金属は食っても美味くねぇんだろ。で、兵隊を食った」

 妹尾の言葉にみゆきがウンウンと相槌を打つ。

「で、念を入れてもう一回ひっくり返した。で、俺たちは何となく危なそうって理由で地面に降りずに車の上に登った。あいつはもう餌はないだろうって思っていたんだろうが、それで去ってくれれば良かったが、多分その場で眠りこけやがった」

「で、私がバックを放り投げたから目を覚ました」

 口元に人差し指をつけてみゆきが言う。

「目を覚ましたやっこさんは、多分、俺たちの声やら振動やらで何かあるとは思ってるんだろう。でも目が見えないから振動でしか感じられない、だからこの地面の下を金魚鉢の金魚みたいにグルグル回ってる」

「もう一回車をひっくり返そうとはしないのかな?」

「振動でものを判断してるなら、走っていない車は認識できないはずだ。俺が目が見えないって断定してんのはそういう理由からだ」

「ヒロって頭いいね~」

「若いころはもっと冴えてたさ」

 立ち上がって、水平線に向かって目を細めて妹尾は言った。

 と、遠くに土煙が上がった。

「おっ、車が来たみたいだ」

 妹尾は両手を広げると「おーい!」と呼びかけた。みゆきもそれを見てボンネットの上で飛び跳ねる。

「ヒロ! 気づいてくれるかな」

「気づかせねぇとにっちもさっちもだ」

「でもさ、あの車、こっちへ来たら化け物に食べられちゃうよね?」

 みゆきの言葉に妹尾は手を振りながら、

「車から降りなけりゃ大丈夫だ。車コカされても俺たちが出るなって言えば大丈夫だ」

「でも、それで私たち助かるの?」

「兵隊だって通信機くらい持ってるだろ。俺たちンとこの兵隊はあっという間に食われちまったから何とも分からねぇが」

 みゆきに顔を向けて妹尾は言った。

 スマホは元居た世界同様作動しているが、インストールしてあるアプリが変わっている上に圏外表示のまま、通信機能が失われてスタンドアローンになっていたのだ。

「スマホ、タロット見る以外に使い道ほとんどないもんね」

「電池は切れねぇけどな」

 妹尾は飛び跳ねない程度に身体を伸ばして手を振った。

 こちらに気づいたのか、向かってくる車のヘッドライトが二回点滅した。

「お、こっちに気がついたみてぇだ」

 みゆきに笑顔を向けて妹尾は言った。

「来てくれるかな?」

「そりゃ車の上で人が手ェ振ってりゃあドライバーだったら見過ごしゃしねぇさ」

 フロントガラスの向こうの顔が見えるか見えないかという所で、その手前の地面がもこり、と、持ち上がった。

「来やがった!」

 運転席からは死角になっているであろう。車の正面の地面が大きく盛り上がり、そして爆発した。

 車は子供が玩具を投げるかのように容易く空中に跳ね上げられ、巨竜の身体が宙を舞った。妹尾はその様子を他人ごとのように眺めながら関心したように、

「はぁ~ん。俺たちあんな風になってたんだな」

「中の人大丈夫かな?」

「俺みたいなおっさんが無事だったんだ。シートベルトしてりゃ大丈夫だろ」 

 車は地面の上で二回バウンドして横倒しになった。

 装甲車の側面が内側から突き破られ、ハンマーを構えたファミリアを従えて少年が姿を現す。

 少年は何事が生じたか確かめるように周囲を見回し、秀麗な顔を妹尾たちに向けた。

「貴様がやったのか!」

「車をひっくり返したのは俺らじゃねぇ! 地面の下に化け物がいて助けて欲しいから手を振ってたんだ」 

 地面を指さして妹尾は言った。

「化け物だと?」

 少年はその整った顔を歪めて訝しげに地面を眺めた。

「ああ、化け物だ。鯨みたいにでかい頭に蛇みたいな体のついた竜みてえなヤツだ。地面に降りたヤツはみんな食われちまった。兄ちゃんも気ぃつけな」

「分かってて俺たちを呼んだのか!」

 怒気を露わに少年が言う。

「通信機くらい持ってんだろ? スマホは反応すんだが通信機能がなくなってるし、助けを呼びたくても呼べねぇんだ」

 妹尾の言葉に少年は明らかに不快そうな表情を浮かべて車内に戻った。

「怒らせちゃったみたいだね」

 残念そうにため息をついてみゆきが言う。

「そりゃいきなりこんな目に遭わされりゃ俺だって怒るさ。でもそうでもしなけりゃ俺たち飢え死にしちまわぁ。背に腹は替えられないっつの」

 苦笑して妹尾は言った。これで相手からゴキブリのように嫌われる事になったとしても、もはや運命共同体なのだから相手が生きようとすれば必然的に自分たちも救われる事になる。

「恨まれるかもよ?」

「だったら電話番号と住所は内緒にしとかねぇとな」

 冗談めかして妹尾が言うとみゆきも笑顔を浮かべて、

「メアドもね」

 妹尾が「そうだそうだ」と言って笑うと、先方の車から別の少年が出てきた。両腕にひどい怪我を負っているが表情は凛として苦痛を感じさせない。

「僕は君島夏希と言います。状況を教えて下さい」

「俺は妹尾裕和、コイツは野々村みゆきだ。昨日からこの車の上に住んでる」

 こちらの少年には意外に話が通じそうだと、妹尾は冗談めかして現状を伝えた。

「僕らを放り投げたのは一体何ですか?」

「さあなぁ~。俺の知識じゃあ世界には土の中を泳ぐ鯨はいなかった筈なんだが、鯨みてえなデカい頭と蛇みてえな長い体を持った化け物がこの下で泳いでやがる」

「妹尾さんはそいつを見たんですか?」

「地面に何か放り投げてみな。やっこさん餌だと思って飛び出して来やがらぁ」

 背後の地面に親指を向けて妹尾は言った。

「振動で感知してるって事ですか?」

「どうやらそうらしい。俺の観察した所じゃ、やっこさんは車は食わないらしい。車をひっくり返して、出てきた人間を食うんだ。俺らの車に乗ってた兵隊の連中はみんな食われちまった。でも声程度の振動では襲って来ねぇ。だからお前らも地面に降りないで大人しくしてりゃ食われる事はねぇ。もっとも戦車で迎えにでも来てくれねェ限り、ヤツをどうにかしねぇ事にゃ根本的な解決にはならねぇんだがな」 

「なるほど。状況はわかりました。少し時間を下さい」

 夏希はそう言うと車内に戻った。

「淡路くん。話は聞こえてたと思うけど」

 夏希が車内の淡路に向かって言うと、車で空を舞った衝撃から抜け切らない様子で答えた。

「それは多分ドラゴンワームです。サイタマのウラワ辺りの獣の中でも桁外れに大きいヤツです」

「獣って事は誰かの可能性って事だよね? 可能性の大きさで獣の大きさや形が変わるとかってあるの?」

 佳奈美が訊ねると淡路は頷いた。

「アルカナに対応しているのと、人が二十二種類に分けられないのと同じで、可能性にもそれぞれ個性があります。ドラゴンワームはこの辺りに出る獣では最大のものですし、点数では十万点は下らないって話です」

「貴様の能力で正確な情報を調べられるだろう?」

 実篤の言葉に淡路は頭を振った。

「最初に久能さんが見抜いた通り、僕は自分より役の大きな相手の情報を読み取る事ができません。獣は力を増す事でそのカードのランクも上げます。ドラゴンワームは上限のキングですから僕には探知する事ができません」

「なら俺が強化してやる。調べろ」

 実篤はそう言ってエンペラーを出現させた。

 それを見て淡路が6のマジシャンを出現させる。人型であるものの、身長は小学生の低学年ほどしかなく、つぎはぎのぬいぐるみを思わせる外見は他の五人に比べるとあまりにみすぼらしい。

 エンペラーが杖を掲げると、迸る光がマジシャンを包む。

 まるで子供向け特撮番組のヒーローのようにマジシャンの身体が膨張し、つぎはぎだった肌が硬化して近未来風の装甲に変化していく。

 目の部分が大型のゴーグルに覆われ、緑色の燐光を浮かばせるその姿は元の6のマジシャンからは想像もつかない。

「これは……信じられない、首都まで見渡せる……」

 淡路が驚きの声を漏らすと実篤は冷えきった声で、

「無駄口を叩くな。貴様は貴様の仕事をしろ。その力が俺のものだという事を忘れるな」

 その声の鞭に打たれ、明らかに消沈した様子で淡路は口を開いた。

「この車と向こうの車の下で八の字を描くように動いています。運命のキングで点数は207600点です」

「どうしてそんな途方もない点数になるんだ? ロイヤル・ストレート・フラッシュでも55000点にしかならないはずだろう?」

 夏希が訊ねると淡路は首を縦に振った。

「確かにそうですが、体内に無数の獣を内包しています」

「獣は捕食した相手の点が加算されるのか?」

「獣はクリスタルのボーナスがありませんが、捕食した場合その力は輪転機に巻き取られず自分のものになるんです」

「つまり、役を作れない代わりに無制限に強くなれるって事か?」

 夏希が確認すると淡路は頷いた。

「フン、この世界は随分獣に都合良くできているんだな」

 実篤が鼻を鳴らして言う。

「実篤、一概にそうとも言えないぞ。こちらに来たばかりの獣は最大でも13点しかないんだし、それだと2の2ペアにも勝てやしない。捕食を繰り返す膨大な労力とリスクが無ければこれほど強大なモンスターにはなれないだろう?」

「確かに、言われてみればそうか」

 夏希に言葉に実篤は素直に同意し、

「そこで助けを呼ぶかこの二十万の化け物を倒すしかないが、淡路、助けは呼べるのか?」

「無線が生きていれば大丈夫です」

 淡路は運転席に戻ると計器を操作し始めた。

「スマホが使えるのに無線とは随分アナログだな」

 実篤が呆れたように言うと淡路は首を振った。

「携帯電話は都市部でないと電波が弱くて使えないんです」

「元の世界では山の中でも使えてたぞ」

「携帯電話の電波は元々最大でも10キロくらいしかカバーできない。人口が少ないならインフラだって充実させられないんじゃないか?」

 夏希が言うと実篤は舌打ちした。

「無線はダメです。下から突き上げられた時にバッテリーがダメになったみたいです」

 淡路が申し訳なさそうに言う。

「修理できんのか」

 実篤が高圧的に言うと淡路は肩をすぼめた。

「僕にはどうにも……」

「淡路くんは悪くないよ。久能くんももう少し言い方あるんじゃない?」

 佳奈美が言うと実篤は険悪な視線を向けた。

「こんな世界なんだぞ? それくらいの技術は持っていてしかるべきだろう?」

「車両整備の技術があったってバッテリーがやられてたら電気系統は復活させられないよ」

 優子が突き放すような口調で言う。

「そうなのか?」

 実篤が夏希に視線を向けると代わりに徹也が口を開いた。

「バッテリーがやられてたら車の修理なんかできねぇよ。交換のバッテリーでもありゃあ話は別だがな」

 吐き捨てるような口調に実篤も渋面を作るしかない。

「なら向こうの車のバッテリーが無事なら、持ってくればこっちの車を修理できるかもしれないって事でいいのか?」

 夏希が訊ねると徹也は顔を顰めた。

「どこがどれだけイカれてるか分からねぇ。調べるにも外に出ねぇ事にゃあどうしようもねぇよ」

「シャコタンなんて峠攻めただけでオシャカになる事あるし、車って意外とデリケートなのよ」

 優子が編み物の説明のような穏やかな口調で言う。

「二台合わせて一台作れれば御の字って事か」

 夏希は頭を巡らせた。首尾よく車を修理したとして、またドラゴンワームに襲われたら同じ事だ。

「ヤツを始末するしかないな」

 夏希の考えの先を取って実篤が口にした。

「あんた馬鹿じゃないの? あたしたちストレートだか何だかで275点なんでしょ? 二十万点なんて勝負になる訳ないじゃない」

 これまで黙っていた美和が金切り声を上げて言う。

「貴様は阿呆か? ファミリアと獣の特性の違いくらい察しろ。この愚物が。夏希、ヤツの装甲はどれくらいだと思う?」

 美和に罵声を浴びせてから実篤は夏希に訊ねた。夏希は傷ついた様子の美和を気の毒に思いながらも、

「下手をすればタングステンくらいの比重がある可能性がある。外部から破壊するのは難しいんじゃないかな?」

「お前、何で何でできてるか分かんだ?」

 徹也の言葉に夏希は顔を向けた。

「比重の問題だよ。人間が空気の中を移動できるのは空気より比重が高いからだし、地面の上を歩けるのは地面より比重が小さいからだ。ドラゴンワームが土の中を移動してるなら、土より比重が重い事になる。と、すると構成している物質はタングステンかウランか金辺りに絞られてくる。でも金は比重は重くても硬度が低いから地中を移動するのは無理。だとすればタングステンかウランって所だ。タングステンでも合金なら実際のタングステンよりいくらか固いかも知れないし」

「はぁ~。俺にはさっぱりだ。で、それをぶっ壊すにはどうしたらいいんだ?」

「熱で溶解させるのが一般的だろうけど、確か三千度くらいじゃないと溶けないんじゃなかったかな? ごめん、正確に分からなくて」

「君島くん、三千度ってどれくらいなの?」

 佳奈美の言葉に夏希は一瞬頭を巡らせた。

「普通のガスの火で千六百度くらいじゃなかったかな? 鉄が溶けるのがそれくらいなんだけど」

「ガスの倍じゃねぇかよ」

 絶望的な口調で徹也が言う。

「馬鹿め。そもそも俺たちのファミリアは火を使えないだろうが」

「ガソリンに火をつければ燃やせるかも知れねぇじゃねぇか!」

 実篤に徹也が食って掛かると彼は鼻で笑った。

「ガソリンの炎の温度など論外だ。エンジンが何故熱で溶けないか考えてみろ」

 その指摘に徹也は悔しそうに口を噤んだ。



「出て来ねぇな」

 横倒しになった装甲車を眺めて妹尾は言った。

 夏希が車内に戻ってからかれこれ三十分ほどが経過している。時間は有り余るほどあるのだが、だからといって無為に過ごすのも面白くない。

「最初の子と喧嘩してるのかな?」

 気遣わしげにみゆきが言う。

「かもな。最初のヤツは気がやたらと強そうだったからな」

「いじめられてるのかな?」

「そういう風でもなかったけどな。アイツはアイツでしゃんとしてたし。それよりこんだけ遅いって事はあっちにも通信手段が無えって事だ。こりゃいよいよ万策尽きたか」

 無精髭の伸びた顎を撫でて妹尾は口にした。

「ファミリアで何とかならないかな?」

 みゆきが唇に人差し指を当てて言う。

「ファミリアったって、俺のは太陽だし、お前のは節制だろ? 役に立つとは思えねぇなぁ~」

 妹尾はサンを出現させて言った。ひまわりの種のような小さな小人が車の屋根の上に無数に現れる。対してみゆきのテンパランスは人間大の大きさで、工場のロボットのようなアームを無数に生やした千手観音のような姿をしている。

「俺のはものを育てたり組み立てたりするだけだ。そういやお前ンはどんな能力なんだ?」

「元の姿に戻す、分解する能力みたい。卵焼きが黄身と白身と油に分かれるみたいな」

「はぁ~あ、使えねぇなぁ~。あいつらどんなファミリア持ってんだろうな」

「意外とすごいの持ってたりして」

 みゆきが笑顔を浮かべると妹尾はため息をついて、

「すごいヤツならあの化け物を始末してるだろ」

「そっか……ファミリアって何なんだろね」

「知らねぇよ。昔読んだ漫画に似たようなのがあったがな」

 妹尾が他人ごとのように言うと横転した車から夏希が出てきた。

「お待たせしてすみません! えっと、そちらの女性の方……」

 名前を思い出そうとするかのような彼の言葉にみゆきは、

「みゆき! 野々村みゆき」

「野々村さん、あなたのファミリアは節制なんですよね? ものを分解できる」

 確認するような夏希の言葉にみゆきは頷いた。

「おにぎりを水とお米と海苔に分けるみたいな事ができるみたい。やった事ないけど」

 みゆきの言葉に夏希は大きく頷いた。

「僕らの仲間の力であなたの力を増幅します。節制の力は最大までレベルを上げればあらゆるものを分解できます。野々村さんの力であの化け物を元の姿に戻して欲しいんです」

「オイ! そんな事が可能なのかよ!」

 妹尾が声を上げると、夏希は大きく頷いた。

「野々村さんは9、えっと……」

「妹尾だ、妹尾裕和。ヒロでいい」  

「ヒロさんは10の力があります。詳しくは後で説明しますが、ファミリアはトランプに対応していて、1から13までの力があるんです。で、こっちには9から13のファミリアが揃っていてポーカーのストレートの役が作れるんです。こっちのメンバーの9、つまり僕と野々村さんが交替してストレートを作れば、野々村さんのファミリアは275点の力になるんです。あの化け物は二十万点なんですが、元々は13点のモンスターです。分解すれば小さくなるはずなんです」

「つまり13になるまで分解を続けるって事か。でもやっこさん二十万もあるんだろ? 体当たりされただけで粉々になっちまわねぇか?」

「勝手な推測ですけど、あの化け物の装甲はタングステンでできている可能性が高いです。物質的に外から破壊するのは軍隊が来ても不可能です。しかし、体内に入れば話は別です」

「一寸法師みたいにやる訳か?」

「かなり比重が大きいので肉というよりは金属のワイヤーのようなもので構成されているかもしれません。あくまで物質として捉えればですが。内部には捕食したものを分解吸収するシステムがあると考えられます。これもかなり危険でしょうが、歯で噛み砕かれるのと違って若干の余裕がある可能性があります。そこで内部のシステムから分解して欲しいんです。分解が進めば必然的に相手の力も弱まりますから」

「つまり、胃液で溶かされる前に相手を溶かすってな事か?」

 妹尾が訊ねると夏希は首を傾げてから、

「そんな認識で大差はないと思います」

「ファミリアが溶けたら出してる本人はどうなるんだ?」

「溶けます。ですが僕のファミリア、ハングドマンは任意の相手のダメージを引き受ける事ができます。野々村さんのファミリアが溶かされてもそのダメージは僕が全て引き受けます。野々村さんが僕が倒れるまでにヤツを分解してくれれば勝機はあります」

「って、お前えらい怪我してんじゃねぇか! 胃液の中に飛び込んだら死んじまうぞ!」

「失敗すれば全員ここで死ぬ事になります。死ぬか賭けるかの2つに一つならどちらを選ぶかは明白でしょう?」

 議論の末なのだろう、夏希は毅然とした口調で言った。

「分かった……が、何だ、お前らは俺らよりファミリアの事に詳しいみてぇだが、俺の能力でお前の怪我を治す事はできねぇのか? 俺のは修理とか育てるとかが専門みたいなんだが……」

 妹尾が言うと夏希は車内に顔を向けた。

「面倒臭え! 代表者じゃなくて全員出てこい! どうせ俺たちゃ運命共同体だろうが! 誰も取って食いやしねぇよ!」

 妹尾が声を上げると、六人の少年少女が車内から出てきた。

「えっと、サンの能力は確かに修繕に使えますが、部品がないと組み立てられません。もし溶かされたなら、溶けたのと同じだけの物質を用意しないと修理できません」

 淡路が言うと実篤が口を開いた。

「ファミリアを修理したらどうなるんだ? 夏希の傷も治るのか?」

「それはありません。その逆はありますが。ファミリアはその人間の力の具現化したものなので、あくまで本体が優先されます」

「だったら血と肉があれば夏希を修理できるのか?」

「肉体の回復というような複雑なものは高位でもかなりの時間を要します。妹尾さんは10なので肉体回復は可能でしょうけど、材料と時間は覚悟してもらわないといけません」

「それなら僕の命のインフラだけに集中してもらえば時間稼ぎはできるって事だね?」

 夏希の言葉に淡路は目を剥いた。

「そんな……」

「腕や足の部品を使って頭と内臓を維持する事は可能なんだろ? 強烈な酸で溶かされたとしても、少しくらいの時間稼ぎにはなるんじゃないか?」

 夏希の頑固そうな表情を見て妹尾は声を上げた。

「待て待て待て、少しばっか回復したってすぐに溶けちまうかも知れねぇし、お前が我慢して、それで死んだら次はみゆきが死んじまうだろうが!」

「ここで無駄話を続けても死ぬだけだ! それに昨日の便と今日の便で交替がこの道を通るのは明日、そいつがまたワームに襲われたらどうする? お前らだって衰弱してるんだろうが」

 実篤の言葉に妹尾は返答に窮した。

「それに、だ、ワームは二十万点だ。軍隊が束になったって膨大な損害が出る。アキバ公国とやらに本当にその気があるならとっくに退治しているはずだ」

 彼の言葉には説得力があった。確かにこれだけ危険な化け物を野放しにしているのは倒せない、倒せたとしても損害が大きすぎるからに違いない。だとすれば、仮に救援を呼べたとしても助けにこない可能性も大きい。

「みゆき、ヤツの腹に入るのはお前だ。お前が決めろ。俺はお前の判断に従う」

 妹尾が言うと、みゆきは真剣な表情で頷いた。

「私、やる。逃げられそうにないし」

「決まりだな。では作戦の手順を説明する」

 実篤の言葉に妹尾たちは引き返せない事を改めて悟った。



 野々村みゆきはボンネットの上で息を整えていた。

 高飛び込みやバンジージャンプといったレベルの緊張ではない。落ちる距離は数十センチだが、一度落ちれば上手く食われない限りは一撃で粉々に粉砕されてしまうのだ。

 最初の一撃は夏希が引き受けてくれるとしても、彼が死ねば次は自分の番なのだ。

 ストレートの力を結集したテンパランスは神々しいほどの姿に変わっていたが、ドラゴンワーム相手では蟷螂の斧だ。

 タイミングは任せると言われたが、みゆきが決心をつけるのにはかなりの時間を要した。

 一撃で死んだらごめん。

 みゆきは内心で家族に向かって呟くとテンパランスを地面に着地させた。

 車が揺れた次の瞬間、土砂を巻き上げながらドラゴンワームが大口を開けて空中へと舞い上がった。

 巻き添えを食ったみゆきと妹尾の乗った車が空中に放り投げられ、二人の身体が空中を舞う。

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」

 みゆきと妹尾が異口同音に叫ぶと、佳奈美のスライムと合体したハングドマンが二人を空中でキャッチした。

「野々村! 気にせず集中しろ! 貴様は全力で守る!」

 実篤の叱咤を受けてみゆきは意識をテンパランスに集中した。

 ドラゴンワームの喉は直径三メートルはあるだろう。ノコギリ状の厚さ十センチ程の輪が互い違いに高速で回転しながら奥へ奥へと続いている。

 その光景に戦慄しながらも、みゆきは幼少から習ってきたバレエとダンスを思い出し、つま先で立つような繊細さでテンパランスの手でノコギリに触れ、そのパーツを分解した。

 分解した瞬間、ノコギリは灰色をしたライオンを思わせる化け物に変わったが、その次の瞬間には別のノコギリに触れて粉砕された。

 一瞬の油断もできない状況下で、みゆきはひたすら奥を目指した。

 淡路の分析によればドラゴンワームの頭脳となる運命のキングは胃袋にくっついているのだと言う。

 胃壁を破り、運命のキングを露出させた所で、徹也のジャスティスに切り替えて銃で貫くという大雑把と言えば大雑把な作戦だ。

 ノコギリ地獄を越えた所で彼女を待っていたのは腹に響く重低音を立てて、膨張と収縮を繰り返す食道だった。

 人間の食道と役割が異なり、収縮によりノコギリで分解されたパーツをプレスして更に細かくしやすくしているようだった。

 ソウル系ミュージックの有線のチューニングをデタラメに変化させているように、バラバラのリズムで収縮活動を繰り返す食道は、移動する身にとっては正に胃の痛くなるような空間だった。

 リアルでアクションゲームをしたらこんな状態なのだろうか。

 わざと近い例を出して考えながら、神経は研ぎ澄ましてタイミングを測って進んでいく。

 8ビート、8ビート、16ビート、4ビート。

 バレエやダンスをしていなかったらとっくにすり潰されている。

 こんな所で過酷な習い事をさせた両親に図らずも感謝して、みゆきは先を目指した。

 と、目の前にカメラのシャッターのように開閉を繰り返す隔壁が出現し、その向こうから漏れる鮮烈な光が目を焼いた。

 あの光は何なのかと思う間にも、激しい熱風が穴から漏れだして来た。

 ドラゴンワームは酸で餌を溶かしているのではない、高熱で餌を分解しているのだ。

 その解説めいた思考はストレートを組んでいる実篤の思考が飛んできたものだった。

 熱に夏希は耐える事ができるのか?

 みゆきは人の良さそうな、真面目そうな同年代の少年の顔を思い出した。

 しかし、耐えてもらうしか、一瞬でも早く胃壁を破って本体を露出させるしか道はないのだ。

 みゆきは光の中に飛び込んだ。

 光と熱の奔流の中で、それでも自分の位置を見失わなかったのはそれに伴う障害の全てを夏希が引き受けているからだろう。

 焼却炉のような胃の壁にテンパランスの腕が一斉に伸びる。

 無数の腕の先が更に分かれ、精緻な作業を行う手術用ロボットの指先のように胃壁を構成するパーツを、パズルゲームのように動かし、分解させていく。

 もし、意識を肉体に戻し、悶絶する夏希を見ていたら、とても集中してその作業を行う事はできなかっただろう。

 分解されたパーツが一瞬獣の姿をとっては灰へと変わっていく。

 自分が燃えて塵にならないのは夏希がこらえているからだが、その時間は思っているより遥かに短い筈だ。

 ガンのように胃壁を侵食し、核に届くか届かないかという所で、みゆきは全身に火膨れを起こすような痛みを感じた。

 髪の毛が燃えるような、開いた瞳の水分が一瞬にして蒸発するような灼熱がみゆきを包んだ。

 夏希はどうなったのか。

 それを考えかけ、そんな場合ではないと意識をテンパランスの指先に集中した。

 目の前に露出したそれはもはや原型を留めていなかった。

 元々は運命のキングだったそれは、膨張の過程でドラゴンワームというモンスターの機関の一つに過ぎなくなり主体ではなくなっていた。

「交替だ!」

 みゆきの脳裏に勇ましい声が響いた瞬間、テンパランスはジャスティスに姿を変えていた。

 皮膚が焼け爛れるような感触を味わいながら徹也はジャスティスを巨大な銃に変化させた。

 一機関にしか過ぎなくなった運命のキングを撃ち抜く事で、ドラゴンワームを倒せるのか分からないが、ここまで来た以上引き返せはしない。

「喰らえッ!」

 ジャスティスが咆哮し、灼熱を貫く重金属の弾丸が運命のキングを蒸発させる。

「やったか?」

 熱の竜巻の中徹也が叫ぶと、視界の先では渦巻く熱に巻き取られるように夥しい数の獣が胃壁から浮かび上がり、その熱に航しきれずに焼かれて塵に変わっていった。

 ファミリアを消して作業は終わり。の、筈だった。

 しかし、可能性の獣と同質であるファミリアは、その体内で実体化している以上、実体を消す事ができなかった。

 脱出法が誤算であった事をを考えるより早く、自らの肉体をも焼き始めたドラゴンワームの体内で、徹也は熱に耐えながら一点に集中して射撃を繰り返した。

「野々村! 周防と替われ!」

 身体の至る所で火膨れを起こしながら実篤が叫んだ。

「あたし妹尾さんと一緒にみんなを治して……」

 全身に火傷を負って意識を失った夏希とのペアを解き、妹尾とペアを作って回復に回っていた佳奈美が訴えるようにして言うと、

「このままでは皆焼け死ぬぞ! いいから替われェッ!」

 実篤の叫びに応じて佳奈美はみゆきと交替した。

 その瞬間、徹也のジャスティスが渦巻く炎を充填しはじめた。

「な……?」

 何が起こった、と、徹也が言いかけたその時、実篤の言葉が飛んだ。

「鮫島撃てェッ!」

 その声に打たれるようにして徹也はジャスティスから超電磁砲を発射した。

 超高温のプラズマの炎がみゆきが開け、徹也が集中砲火を浴びせたドラゴンワームの胃壁の穴を突き進み、ワイヤーを束ねたような筋繊維と堅牢な外骨格を内側から破った。 

 徹也のジャスティスがプラズマの開けた穴から脱出すると、その穴を中心に高熱を発しながらドラゴンワームの身体が崩壊しはじめた。

「殺った……のか?」

 顔にあばたのような火傷の傷を残しながら徹也が言うと実篤が頷いた。  

「ひとまずな。少なくともこれで当分こいつに襲われる事はないだろう」 

 八人の視線の先で、鋼の巨竜は地面の下へと崩れ落ちていった。

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