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鏡の王子様にハロー

「ただいまぁ…」



帰ってきて制服を脱ぐ。


服を着て、姿見のカバーの布を取る。



そこに映るのは、細く地味で暗い女。



「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのは、だーれ」



とある有名な悪女も、こうやって自己満足の世界に浸っていたんだろうか。

鏡に映るのは、現実の自分。どれだけ鏡に向かって自己暗示をかけても、

現実逃避してみても、現実と言うのは無慈悲で残酷。何も変わらない。


悲しいくらい、変わらない現実。


『それは、今俯いているお嬢様です』




―――――――― は?




現実ではありえない低い声がして顔をあげると、鏡の中に男の子がいました。


学ランを着て、マフラーにかばん持ち。

どうやら、学校から帰ってきた直後らしい。


…………って違うから!


なんで、私の姿見に男の子が映っているの!?

ここ、私の部屋よね?ねぇ!?後ろを振り返ると、自分の見慣れた部屋だ。


「ど、どどどどうして貴方が映っているんですか?」


『知らない。お前こそ何で、映っているんだ』


「知らないわ。ここは私の部屋よ。

異空間につながっているとか、何とか不思議道具だったのこれ!?」


『あっはっはっは!!お前面白いヤツっ』


「知らない!!もぅ」


何だかバカにされて、姿見のカバーを再度掛けた。

なんなの?知らないし。うじうじし過ぎて脳内思考ぶっ飛んだのよ。

知らない。ふん。と苛立ちながら横になる。何だか、体が軽かった。



あれから何日経っただろう。


久々に興奮したせいか、何日も熱が続いた。

熱さましのアイスを食べて、たくさん願いをかけたけど

起き上がるまでに半月かかってしまった。


やっと、起き上がれるころ気になって姿見のカバーを外した。


しかし、そこには更に痩せてしまった私と自分の部屋しか映さなかった。

結局、あの男の子は誰だったのだろう。

異空間ではなく、日本の男の子だった。今か過去か未来かは知らないけど。

もっと…話していたかった。


「ハローハロー、応答願います」


宇宙船との交信のように話しかけても無理だった。

まだ、体力が回復しきれないのか再び布団に戻った。

夢の中でも会えたらいいのに……



「はろーはろー、おうとうねがいます」



薄らぼんやりしながら、どこかの彼に交信してみた。


―今は、何をしているのだろう。

―今は、勉強しているのかな。

―今は、ご飯食べているかな。

―今は、ゲームしているのかな。

―今は、もう寝てしまったのかな。



―逢いたいなぁ。




「はろー…は、ろー……………おうとう、して……」




―どこか知らない、彼に…届け。







『ハローハロー、こちら俺ん家。そちらの体調はいかがですか?』





「!?」


『ハローハロー、そんなに勢いよく起き上がって大丈夫ですか?どうぞー』


「だ……大丈夫っ………ですよ。ど、ぞ……ずっびっ」



再び会えた彼は、紺のトレーナーに黒のズボンをはいたラフな格好。

困った顔をしながらも、その目は私を心配しているようだった。


しばらく、逢えた嬉しさで涙が止まらなかった。


それから色々話した。

彼は、高校二年生の17歳。私は、中学3年生。

彼は、兄弟4人の3番目。私は、一人っ子。

彼は、趣味がゲーム。苦手な教科は国語。私は、趣味が寝ること。

その辺まで話して、私の様子がおかしいと話を中断した。


それから不定期で、話をした。

学校にあまり行かない私に学校生活の楽しさを教えてくれた。

私も、出来る限りぽつぽつ話した。


彼と話をするのが楽しかった。


友達もいなくて、普段部屋をボーっとするだけの毎日の中で

根気よく話に付き合い、色んなことを教えてくれる彼の話が楽しかった。

だから、時々こっそり覗き見なんかもした。

明るい彼は、友達も多く楽しく談笑するシーンもたびたび見た。

そんな時、私は彼だけが毎日の楽しみだったのに対して

彼は、私だけが唯一の楽しみでないと知ったり。それがひどく寂しかったり。


そんな、中見てしまった。


その日も、こっそり覗き見した。何気なく。そうしたら…




彼は、知らない女の子と口づけをしていた。




ショックで思わずガン見しちゃった。彼と目が合いカバーを掛けた。


私にも生活がある以上、彼にも自分の生活がある。


そんな当然なことを頭で解っていても心は解ってくれなかった。

涙が、絶望の風が止まらなかった。

涙が枯れても、声が枯れても、嘆きの洪水は止まらない。

声を発しようとすると、何か行動しようとすると、思い出して嗚咽を漏らす。

家族が心配して、理由を聞いても説明できない。あんな非現実的なこと。


嗚咽が止まるまで、何ヶ月もかかった。


あれから、カバーを外すことはなかった。


鏡を処分しようとしたけど、なぜか心が止めた。




あれから、3年が経った。


不登校気味だった私が、頑張って高校に入れたのも鏡の中の彼が教えてくれた

楽しい高校生活にものすごく興味があったから。

友達がいない私にも、あんな生活が送れるのだろうかと、そう思った。


その結果、アットホームな高校に入った。

心機一転。というか一からやり直した状態での学校生活は

私に、色んな喜びを与えてくれた。

友達がたくさんできた。体調面で部活に入れないものの

委員会に入ったり実行委員を手伝ったりと何でも楽しかった。


文化祭では、恥ずかしながらメイド服を着てウェイトレスなんかもして

初めてナンパなるものも体験した。

でも、丁重にお断りした。まだ、恋をする気になれない。

今は、この学校生活を満喫したい。


体も、ひどく興奮しなければ熱を出すこともなくなった。


学校生活の楽しさが、体を丈夫にしたんだろうと皆言っている。

そんなことがあり、何年かぶりに姿見のカバーを取ってみて呼びかけたけど

何度やってもダメだった。彼も、きっと向うの生活を満喫しているのだろう。

こっちから連絡を断っといてなんだけど、涙が出た。



「ハローハロー、こちら逃走女。応答願います」


「はろー…ぐずっ」



これ以上つづけると、あの日の記憶が蘇りそうだからカバーを戻した。

部屋にいたくなくて、下のリビングでテレビを流し見していたら

玄関ブザーが鳴った。居留守を使おうと思ったけど、

今日、母さんが通販で買った服が届くんだったと玄関に向かった。


もう一度ブザーが鳴る。


はいはい、出ますよー。


「ハローハロー、どちらさまですかどうぞー。っと…はぃ」



ガチャ…




「ハローハロー、こちら女の子を捜し続けて旅をしている男です。どうぞー」




3年ぶりに見る男の子は、立派な男性になっていて

3年ぶりに聞く声が頭に届くと同時に、

初めて感じる温かさと匂いが心に届き涙が止まらなかった。






「やっと…逢えた」

pixivにあった一枚の絵から膨らんだ話。


鏡に映るのは、自分ではなく知らない少年。…貴方は誰?


みたいなね(言ってて自分が痛い。痛いよママ!)

連載抱えてんのに余計に増やすなよ。

という脳内セルフツッコミをスルーしつつあげてみました。

この少女は、中学でヒドイいじめに遭いほぼ学校に通っていない

保健室か会議室が教室。みたいな生徒です。

体が弱く(はっきりした病気ではないけど熱が出やすい)

休みがちでひょろっと細長く儚げな所が男子に受けているので

女子のターゲットにされたと言う裏設定があります。

中学生って頭がいくらよくても心は本当小学校低学年と大差ない。

ウチの子もアホな理由(相手の言い訳が本当アホ)でよくやられましたわ。

いじめはダメです。絶対。


男性視点のも書きたかったので、連載形式にしました。

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