プロローグ
まだまだ初心者です。
暖かく見守っていただければ凄く嬉しいです。
そしてできれば楽しんでいってもらえたらいいなって思ってます。
天を覆い隠すほどの暗雲が、爆発音とともに明るく光る。
狭いコクピットの中で、クロノスは操縦桿を強く握った。内部モニターには、地上の地獄絵図が映されている。
視界一面真っ赤にそまり、西に伸びる稜線が暁のように朱に染まっていた。
焼夷砲が村の家々を全て焼き払っているのだ。
数騎の特殊戦闘魔導器が、逃げ惑う人々に向かって銃を乱射していた。
濁濁と続く血の大河が、あたり一面に流れている。死臭と怨嗟の声に包まれた戦場で、クロノスは思わず天を仰いだ。
(……やりすぎだ。俺たちの任務は未開地上人を連行することだぞ)
金縁の片眼鏡を煩わしげに押し上げ、銀髪の少年は白い息を吐いた。
自然のものが一切ない、機械に囲まれたパリスの搭乗席。クロノスは今、この巨大な機械人形を操縦し、地上数十メートルで戦闘を行っているのだ。
いや、これは戦争とは呼べない。
虐殺だ。
「ウラノス、もう気はすんだだろう。降伏したエルミラには手をだすな」
『うるせぇ。半神半人は黙ってろ。今いいとこなんだよ!』
モニターにクロノスと同年代の少女が映った。
青く長い髪をツインテールにした、エリートパリス騎士だ。
戦場の興奮に酔っているのか。目は血走り、唇が酷薄な笑みの形に歪んでいた。
『クロノスよぉ。てめぇ、姫様からの覚えがめでてぇからって調子乗ってんじゃねぇよ。文句かますならてめぇからバラすぞ。あぁ?』
「ルキナ様は関係ない。俺の命令に従え」
『ハハハ! 優等生は言うことが違うね。超ウゼぇ!』
直後に雷光。
クロノスは反射的にフットペダルを蹴り上げた。なんと真下から曳光弾が放たれたのだ。
夜闇に白い軌跡を描きながら、死の弾丸はクロノスの搭乗する機体の真横を飛んでいく。
ウラノスがふざけて撃ったのだ。
クロノスは怒りで操縦桿を握りしめた。
(……こいつ、完全にイッてやがるな)
通信からケラケラと笑う戦闘狂女の声が響いてきた。
『連行してこいってエルミラは100人ほどの男だろう。女子供は殺しても問題ないんだぜ』
「っ……」
クロノスは奥歯を噛み締める。
十六歳のまだ多感な少年は、純神であるウラノスの言葉に言いようのない怒りを感じた。
―――神は其の支配下にある人間を、所有管理することができる。
これは天上の神々が定めた絶対の掟。
今、人間は神の供物でしかなかった。
「労役につく人間は多いほど元老院に喜ばれる。あまり派手に殺しすぎると出世に響くぞ」
『…………ちっ』
このクロノスの言葉で、ウラノスの銃口に迷いが生まれたのを感じた。
盛んに流体魔素を放出する、バーニアのギアが切りかわる。青いウラノス専用機『パンドラ』が、空中でピタっと停止した。
『……元老院の爺ぃども。つまんねぇ任務オレにやらせやがって!』
やっと大人しくなったウラノスは、パリスを地上へ降下させた。
上級神格位の父を持つこの女は、意外と面子にこだわるのだ。先にパラシュートでもって落下させた大きな檻の口を開ける。
ここに降伏したエルミラたちを入れるのだ。
彼らはこれから天上世界メサルティムへ連行される。
そして神々に使役される民である、『三等階級市民』の称号を与えられ、過酷な労役につかされるのだ。
炎鎖のこの季節だと、ルキナ皇女殿下の寝所建築だろうか。大量の石材の運搬を、手作業でやらせるのだ。死人も大勢出るだろう。
女子供はさらに悲惨だ。どこぞの金持ちに売られていく。
人間たちにとって、ここで死ぬ方がいっそ幸せかもしれない。
眼下のエルミラ達を見下ろす。皆死んだような瞳で、檻へと向かっている。
クロノスに葛藤が生じた。
(いっそのこと……ここで)
だが、ウラノスのように、人間を家畜として扱うことはできなかった。
(……俺の身に半分流れる血が邪魔をする)
『おらおら! さっさと檻へ入れ! 抵抗するならぶち殺す!』
ウラノスの声が外部スピーカーでもって、エルミラたちを威圧する。数百人にも及ぶ列の中、どこかしこから多数の悲鳴が聞こえてきた。
人の十倍ほどの大きさの兵器に、頭上から銃器を構えられているんだ。
無力なエルミラはただ従うしかない。
しかし、ここでウラノスが思いもよらぬ行動を見せた。
『―――っ、そこか!』
パンドラが腰から、投擲用ナイフを取り出した。
何をするかと思いきや、いきなり背後へ向かって投げつけたのだ。
本当にか細い悲鳴が、聞こえた。
クロノスのモニターには、何が起こったのかはっきりとはわからなかった。
しかし、魔素の乱れはわかる。
炎上する村の奥。常緑樹であるヒノキの森の中、木陰に隠れるように、小銃で武装した人間たちが大勢いるのがわかった。
うまく隠れたつもりだろうが甘い。
ウラノスが獰猛に笑った。
パリスは動くもの呼吸するものの気配を、魔素を通じて操縦者に伝えるのだ。
メサルティム帝国軍の中級神格保持者である彼女に、半径500からの奇襲は通用しない。
うおおおおおおおおお。
森から鬨の声が聞こえた。
手に銃を持った武装集団が、森からわらわらと出てくる。
クロノスのモニターに、赤い光点が次々と映った。その数、およそ300。武器はハンドガンや刀剣だった。
こちら向かって一心不乱に撃ってくる。
『ハハハハハ! これで文句ないよなぁ、クロノス!』
「…………」
何を確認することがあろうものか。
クロノスは銀砂の長い髪を後ろで縛った。操縦桿に自身から溢れる魔素を注入する。
体が浮き上がるような感じ。重力から無縁になった世界。
コクピットの中で、少年はパリスと一体化する。
クロノス専用の特殊戦闘魔導器『アドニス』、その無骨な目が闇に赤く灯った。その漆黒の体躯は闇に同化し、敵を狩る一本の刃と化す。
フットペダルを全開に押しこむ。バーニアエンジンに魔素の火を入れた。
自分の腰のちょうど下、パリスの心臓部とも言える回路が集合した部分。
複雑に絡みあった螺旋状のパイプ。その中心に自分の魔素が定着していくのがわかった。
《ぎぃいぎぃぃぃぃ》
アドニスが吠えた。
正確にはエンジンの振動で揺れているだけかもしれないが、それでもクロノスにはこれが雄叫びに聞こえたのだ。
闇から敵を食い殺す獣の名。
それがアドニスだ。
「神聖帝国に歯向かう者には容赦するなと、ルキナ様から言われている。……殲滅するぞ」
『お前は何でもルキナ様ルキナ様だな。……まぁいいけどよ。皆殺しってのはオレも賛成だ。いくぜ!』
ウラノスの機体が腕を振り上げた。するとその掌から、両端に赤い刃のついた鞭が、勢いよく飛び出した。
『パンドラ』というパリスの特性―――それは何が飛び出してくるか分からない未知への恐怖にある。
帝国軍試作機の中で、もっとも武器の搭載数が多い機体。
先程見せた投擲用ナイフ、そして村を焼き払った焼夷砲。他にもたくさんの武器が、暗器として装備されているはずだ。
『ヒャッハー! 喰い放題だぜ、パンドラ!』
ウラノスの呼びかけに答えるように、魔素を浴びた魔導器は戦場を疾走する。巨大な足で人々を踏み潰し、鞭を振るって森ごとふっ飛ばした。
青い機体に返り血の赤が映える。
エルミラたちも盛んに銃撃を行い抵抗するが、ハンドガン程度の威力で帝国パリスに適うはずがない。
弾は全て外殻で弾かれ、メイン装甲には傷一つなかった。
まるで象一匹と蟻300匹の戦いのようだ。
そして、その蟻の大軍に、もう一匹の象が突進する。
「せめてもの情けだ。……一瞬で殺してやる」
地面が割れ、大地が破裂した。
クロノスがアドニスを滑空させてきたのだ。武装集団はその風圧で吹っ飛ばされ、サブマシンガンで蜂の巣になる。
モニターは全て血の赤で染まっている。
(命令……だから)
でも、嫌になる。
クロノスは唇を噛み締めた。
『ヒュー! やるねぇ』
こちらの気も知らないで、ウラノスが賞賛の声を上げた。
「ウラノス。あまり遊ぶな。時間の無駄だ」
『ちっ、文句ばっかたれやがって。てめぇの副官になんざなりたくなかったよ』
―――それは俺の台詞だ。
クロノスは内心溢れる不満を、辛くも飲み込んだ。
ウラノスはまた持ち前の残虐性を発揮し、戦闘意欲を失った集団に向け鞭をうつ。遊んでいるのか、簡単には潰さない。恐怖に慄き、破壊音に怯える人々を観て楽しんでいるのだ。
彼女とは神聖帝国軍魔道学校の同期生だが、未だに理解できない部分が多い。
敵は速やかに殲滅するスタイルのクロノスと、優位にたつと狂ったように敵を嬲るウラノス。
上官、副官となった今でも、かみ合わない部分があった。
「……敵対勢力、完全に沈黙。任務に戻るぞ」
『あー、へいへい。手応えなさすぎて逆にストレスたまっちまった』
モニターにふくれっ面のウラノスがアップで映った。
頭をクシャクシャに引っ掻いて、綺麗にセットされた髪を台無しにしていた。
戦闘が終わったばかりなのに、もう気を抜いている。
軍服のジャケットも脱ぎ捨てて、上半身下着姿になっていた。程良く日焼けした褐色の肌に、汗が滴っている。
「気を抜きすぎだ、ウラノス。服を着ろ」
『はっ、オレに欲情したか』
「ふん」
『てめぇ、今オレの胸を馬鹿にしやがったな!』
ウラノスは乱暴に吐き捨てて、大きくも小さくもない胸を寄せてみせた。
下品極まりない。
クロノスはため息をついて、縛った銀髪を後ろに流した。
そして、地上で怯えるようにしてアドニスを見つめるエルミラに、外部スピーカーで降伏を呼びかける。
《……抵抗しなければ殺しはしない。大人しく檻へ入ってくれ》
静かで平和的な物言いを心がけた。
そのおかげだろうか。
大した混乱や恐慌も起こらず、エルイラたちが列を作って檻の中へ入っていく。
どうやら無事に任務が遂行できそうだった。
『てめぇ、無視してんじゃねぇ! オレは貧乳じゃ―――』
ウラノスの通信を途中で切断した。
彼女が自分のことを嫌っているのは、身にしみて分かっている。
―――半神半人。
天地天上の支配者である神と、その奴隷である人間との間に生まれた子。
それが半神半人だった。
クロノスは完全な神にもなれず、人間にもなれない中途半端な存在だった。
そのため、両種族から嫌悪される。
ウラノスは両親ともが貴族だ。そのせいかプライドか人一倍高い。彼女はいつもクロノスの半分が人間であることを嫌悪する。
神と人間の差は何なのか?
神は魔素でもって、万物を創造する尊き存在。
(……でもルキナ、俺にはまだよくわからないよ)
アドニスがまた体躯を震わせ、か細く吠えてみせた。主人の魔素の乱れを敏感に感じ取ったのだろう。
クロノスはコクピットのモジュールを優しく撫でてやった。
パリスに命はない。
だが、もうこの機体はクロノスの半身も同然だった。
(いいや、いいんだ。俺は悩む必要なんてない。―――ルキナの言った通りに動いてさえすれば)
下を見れば、もうほとんどのエルミラの収監が終わっていた。
これから、天上世界へ帰還することになる。
東の山の稜線から、青白い閃光が漏れていた。
地上も天上も、全て平等に夜は明ける。
クロノスは冷たいコクピットの中、白い息をそっと吐いた。
『ちょっとした設定資料』
クロノス・フォマルハウト
十六歳 男。半神半人
銀の長髪、赤目。
身長 176
細身の少年。
専用機 アドニス
神格は与えられていないが、魔素を扱う術に長けている。
パリスパイロットとして天才的な才能を発揮する。それゆえ半神半人でも帝国軍学校に入れた。
元老院直属の部隊『バクラ』の一人。
メサルティム神聖帝国の皇女・ルキナに、絶対的な忠誠心を持っている。
ウラノス・アルキナス
十六歳 女。純神
青髪、碧眼。ツインテール。
身長 159
BWH 80 52 82
黙っていれば美少女。プライド高い。
専用機 パンドラ
中級神格位保持者。クロノスと同期で軍学校を卒業。
父親が帝国貴族のため、『バクラ』の隊長候補として入隊するが、凶暴な性格のせいで降格。
今ではクロノスの副官として働くことに。
天上世界。
地上数百メートルの空にある空中大陸のこと。
始祖神ガシャトリアが創造したとされ、現在3000万人ほどの神族が住んでいる。
メサルティム神聖帝国
始祖神ガシャトリアが初代皇帝。
現皇帝はアレス七世。
絶対的な権力を持っており、圧倒的な軍事力を誇る。
特殊戦闘魔導器
巨大な人型兵器。
天上世界が管理しており、その用途は戦闘、工事など多岐に渡る。
特殊な金属でできており、魔素を操れる神にしか操縦できない。
神
人間を支配する種。魔素という空気中にある特殊な粒子を肌で感じることができ、不思議な力が使える。
万物全ての創造主である始祖神から創造された者達が、今の神族の祖先とされている。
エルミラ
地上に住む人間。神々の家畜。
未開発人種という侮蔑的な意味を持つ。
メサルティム神聖帝国に第三階級市民(労役従事者)が足りなくなれば、無理やり連行されてくる。
この神々の傍若無人に対抗するため、『赤い狼』という人間解放軍が存在している。
魔素
空気中に漂っている小さな粒子。
研究が進められているが、今のところ理解不能。
神だけがその存在を認識できる。
有機物なのか無機物なのかも不明。
ただ神はこの魔素を媒介にして奇跡を起こす。
『奇跡の例』
LV1 身体能力強化。
LV2 治癒力強化
LV3 空間把握支配
LV4 奇跡の具現化(手から炎を出したり、水を出したり)ぶっちゃけ、魔法使い
LV5 パリス戦闘
LVMAX 創造(森羅万象全ての主となる)
アドニス
クロノスに与えられた戦闘用パリス。
全長6メートル。
漆黒のフレーム。近遠距離全てに対応できる万能型。
メイン武器 コーティングソード。
サブ武器
サブマシンガン
ゲッシュマイン
ナイフ
フレアスカート
魔素圧縮砲
誤字脱字、ご質問ご感想などがおありでしたら、遠慮せずどうぞ。
作者の執筆意欲が上がります。