気がついて
あげなおしました。よろしくお願いします。ゾンビ大好き! カクヨムに掲載分は今日中に順番にあげます。
気がついたとき、真っ先に感じたのは喉の渇きだった。まるで砂漠で何日も水を飲まなかったみたいな。砂漠なんて行ったことないと思うけど。
でも、そう感じるくらいに喉が渇いていた。カラカラという言葉は今使うべきなんだろう、なんてばやけた思考で考える。
次に感じたのは、全身からくる重み。泥の底に沈んだような倦怠感。重たくて、今にも倒れてしまいそうだ。
そのふたつの感覚が、体を支配していた。
水が飲みたい。
だるく、鈍った頭にシンプルな欲求が浮かぶ。今すぐにでも冷たい水を、思いっきり喉に流し込みたい。
ふと、視界の端で何かが揺れ動いた。
ゆらゆらと、隅で揺れる何か。それを認識した途端、確信めいた感覚が沸き上がる。
一歩、一歩と私はそれに近づいた。支配されたみたいに、でもゆったりと、体が自然に動く。
すぐにそれの目の前まで近づけた。
そして、私は、その影に噛みついた。
ブチッと、ラジオの途切れるみたいな音がする。赤黒い液体が、裂け目からブシャッと飛び散る。
なにをしてる――?
そんな違和感は、口の中に含んだ感覚で押し流された。
濃厚な、酸味を感じる味わい。
おいしい。
単純に、シンプルに。ただ、そう感じた。
かじる、かじる。それの皮膚が裂けて、骨が見えても、私は食べるのを止めない。
馬乗りになって、さらに首元に、がぶり。
それは抵抗するかのように両手を前に出してきた。うっとおしく感じて、右手で片方の腕を押さえつける。
もう一方も、と思ったら私には左腕がないみたいだった。
まあいいかと、少し邪魔に感じながらもまだまだ喰らいつく。やがて痙攣みたいにそれはピクピクと震えるだけになった。
なにをしてる――?
渇きはもう感じない。明瞭になった頭で、もう一度私は自身に問う。
なにって、食べている。何を――?
下敷きになったそれ。肉がちぎれて、黄色い真皮層までくっきり見える。赤黒く飛び散った血が床に溜まっていた。
それは、人の形をしていた。
「うっぷ……」
すべてを認識して、脳が一気に冷え切って、青ざめた。体が拒否するかのように、さっき飲み込んだものをすべて吐き出そうとする。
到底抑えきれない。びちゃびちゃと、赤い塊が流れ落ちていく。下のそれがもっと醜悪な見た目になった。
多分五秒くらい、がっつりと吐き出して。
「はあ……はあ……」
馬乗りの姿勢から離れつつ、激しく胸を上下させる。
さきほどみたいな渇きも、支配されるような感覚もない。今残るのは、氷を落としたみたいな脳の感覚と、口に残る不快感。
「なんで、私、ひと、食ってるわけ……?」
混乱と、疑問と、嫌悪感と。いろいろない交ぜになった感情でキレ気味に呟く。
視界の端に、また揺れる何かが映った。姿見だった。姿見に、自分の姿が映っている。
白髪の髪に、白濁した瞳。無い左腕に、削げた右頬。
「はあ……?」
もう一度、キレ気味に発する。真っ赤に汚れた口周りが、同じ動きをした。




