表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

語られなかったもう一つ物語──童話のプリンセス達の隠された物語──

捨てられた亡国の姫は森で愛を知る──白雪姫と優しい魔法──

作者: 月焔 レイ
掲載日:2026/03/17

童話もの、シリーズ化しました。

長編の息抜きで色々と書いていく予定です。

よろしくお願いします。


「白雪姫を、森に連れて行きなさい」


 可愛い可愛い白雪姫。可哀想な女の子。

 使用人や国民の、そして最愛の息子の口から聞くのはもう沢山だ。

 亡国の姫。隠された宝石。


 お義母さま。

 可愛らしい声で呼んで、花のように笑う彼女を見るのは、もう沢山。


 あなたには何の罪もない。

 それは、分かっているけれど。

 

──彼を奪ったのは貴方の母なの、白雪姫。

  彼女にそっくりな貴方の顔は見たくない。


 だからごめんなさい、白雪姫。

 私の目の前から⸻消えて。


 ⸻⸻


「姫様、森へ参りましょう」

「え、いいの!?やった!」

「少しだけですよ。」


 ちょろちょろと流れる小川。たえず囀りを交わす小鳥たち。王城から遠く離れた、深い深い森の中。


 ──最高だわ!


 花畑に座り込み、昔お母様に教えて貰った花冠を作る。お義母は喜ぶかしら。

 お義父さまにはキラキラの石ね。透き通っていて綺麗だわ。


 よく見ると、キラキラした宝石は、点々と落ちている。

 スカートの裾を裏返し、一つ一つ集めていく。


 進んでいくと、小さな可愛い家を発見した。

 もくもくと立ち上がる煙は暖かそう。


 そういえば、案内の狩人とも逸れてしまったし、ここで休憩させてもらいましょう。


「ごめんくださーーい」

「誰?ひと?なんでー?」

「少し休ませて貰えるかしら?」

「いいけどさー。」


 中にいたのは可愛らしい子供たち。女の子が二人に、男の子が五人。


「お腹減ったんだけど、何かないかしら?」

「この子、突然来た割に図々しすぎない?」

「まぁまぁ。抑えて抑えて。まだ小さいんだから。君、何歳?名前は?」

「私の名前はリリー。皆からは白雪姫って呼ばれてるわ。可愛い名前でしょ?年は6歳よ。」

「ふーん。リリーね。呼びやすくていいじゃん。」

「リリーは何でこんなところに?迷子?」

「なんか逸れちゃって。帰れるかな?」

「どうかな。ここは遠い世界だからね。迎えがくるまでここにいたら?」

「用事もないし、それもいいわね。きっと誰か、探しに来てくれるわ。」


 それから、リリーは小人たちと楽しく暮らした。


 小人たちは不思議な力を使って、植物や果物を大きくしたり、キラキラした宝石を出す。時々、可愛い服もどこからか持ってきてくれた。


 だけど、全然誰も迎えに来てはくれなかった。

 とても楽しかったけれど、誰も人は訪ねては来なかった。

 

 きっと、私は捨てられたんだわ。

 だって、みんな言ってたもの。


 亡くなった国のお姫様。

 可哀想な女の子。


 あの子のせいでまた戦争が起きたら。


 そう、囁いていたのを知っている。

 優しい顔して、陰ではいうの。


 可哀想な白雪姫、居なくなってしまえばいい。



 ⸻⸻


 リリーは、12歳になっていた。


 すっかり大きくなったリリーは、小人たちに勉強も教えて貰い、何故かマナーまで叩き込まれている。

 小人たちはとても優しくて、賢くて、何でも知っていたけれど、甘やかしてはくれなかった。


「小さい君の仕事は勉強すること!学んだことは裏切らないからね!」


 そう言って、遊んで、勉強して、ご飯を食べて、眠る。毎日毎日、繰り返し。幸せな日々、幸せな時間。


 その幸せな日々は、突然破られた。


 ⸻⸻


「リリー!迎えに来たよ!やっと結界が解けたんだ!」

「結界?なんのこと?っていうか、誰?」

「誰!?僕のことわからないの!?あんなに遊んだのに?」

「はぁ?私はあなたみたいな人と…ってカミル!?」

「覚えてるいるじゃないか。」

「覚えてはいるけど、こーんな小さかったのに。」

「そんなに小さくなかっただろ!どれだけ小さいんだよ!その時の僕!」

「お義母様に怒られて、泣いてたくらい」

「それはリリーが悪いんだろ!」

「私は悪くないわ!カミルのために、全部お義母様に教えてあげただけよ!

 そういえば、お義母様はお元気?」


 その言葉に、カミルの返事が詰まる。なんだか、悪い予感がする。


「…母上は、三年前に亡くなったんだ。」

「え…どうして?」


 優しい優しいお義母様。


 みんなが腫れ物に触るような手で触れる中、お義母様だけはちゃんと私を見てくれた。


 そんなお義母様は、もういない…?


「君には、辛い話になるよ。


 それでも…聞くのかい?」


 切なげに揺らす瞳の中に、いつもの楽しそうな光は見当たらない。きっと、悪い話なのだ。


 だけど、それでも。聞かなくてはならない。

 だって、私の、お義母様だから。


 小さく、こくん、と頷く。


「そうか…」

 

 小さく息を吐いたカミルは、息を吸い込み、一気に吐き出すように言葉を紡ぐ。感情を入れないように。そんな、話し方。


「君を、森に連れていくよう命じたのは母上だったんだ。


 君が居なくなって、すぐに、父上に白状した…


 そこから皆で探したんだ。

 

 母上も一緒になって探したよ。

 でも、見つからなかった。どこを探しても、君は居なかったんだ。


 母上は、悔やんでいた。自分勝手な感情でリリーを傷つけたことに。暗く、深い森に置き去りにさせたことをずっと嘆いていた。


 だが、それは、決して許されることではない。

 母上は、孤独になった。


 毎日、毎日、君のことを森へ探しに行っていたよ。


 疲れ果ててしまったんだろう。

 泣きながら、リリーの名前を呼んで、亡くなった。


─ごめんなさい、そう言っていた。」


 一気に吐き出したカミルは、肩で息をし、顔を歪めている。だけど、そんな様子はリリーの目には入らなかった。


「そう…」


 優しいお義母様だった。

 私を見てくれた、唯一の大人だった。


 何で、お義母様は私を捨てたのだろう。

 邪魔だったのかな。嫌いだったのかな。


 でも、リリーと優しく呼ぶ声は、

 私のことを嫌ってなんてなかったと思う。


 きっと、絶対。


 そう、思いたい。


 ──いつか、聞けるかな。

   また、どこかで会えるかな。


 ね、お義母様。そのときは、教えてね。

 どうして、私を捨てたのか。

 なにが、嫌だったのか。次はちゃんと教えて。


 ──私は、お義母様が好きよ。




「リリー?」


 気遣わしげにこちらを見るカミルの存在は、すっかりリリーの頭から消え去っていた。

 そういえば、いたんだった。


「そういえば、居たんだっけ。」

「そういえばじゃないでしょ。どういうこと?

 君。何?怒らないの?母上のこと」

「怒る?なんで?お義母様には理由があった。

 それだけでしょ。その理由、言わないでよ。

 私は、お義母様の口からいつか聞くんだから。」


 青空を見上げ、この空のどこかにいるであろうお義母様に想いを馳せる。

 きっとどこかで見ているの。

 お母様がそう言ってたわ。


『ずっと見ているわ、リリー。

 だから笑って――どんなときも。』


 そう言った、お母様。


「リリー。」


 優しく笑う、お義母様。


 みんなみんな、居なくなった。

 私が、大好きな、人たち。


 笑わなきゃ。


 一生懸命空を見上げ、歯を食いしばる。

 頬をあげる。だけど、ポタポタ伝う雫たち。


 雨だ。変だな。お日様はあんなに元気なのに。


「リリー。大丈夫ー?」

「リリー泣いてる。」

「泣いてないわ、雨よ。」

「そっか、雨か。洗濯物、入れなきゃね?」

「そうね、濡れちゃうわ。」


 くるっと身体を翻し、家の中へ戻ろうとした。

 だけど、空気を読まないバカが邪魔をする。


「リリー!僕とお城に帰ろう!結婚してくれ!」

「バカなの?私はここで暮らしてるの。邪魔しないでくれる?

 ここの暮らしはいいわ。人の目もない。嫌なことも聞こえない。平和で、優しい世界よ。」


「うーん。リリー。それはダメー」


 バッテンと七人の小人たちがお揃いのポーズをとっている。


「…なんで?」

「そろそろリリーは帰らなくちゃ。

 ここは、僕たちの世界。

 リリーの世界は、あっち。

 お迎えが来たなら、ちゃんと帰って。」


「そんな…」


 まだいたい。あなたたちと。

 傷つける人のいない、この世界に。


「うーん。そうだなー。僕たちも寂しいからね。

 リリーに良いことがあったら、枕元にこの石を置きにいくよ。そしたらさ、一回だけここに来れるから。

 良いことがあったら、ここにおいで。

 僕たちは、ここで、ずっとずっと待ってるから。」


「ここにいちゃダメなの?」

 

「ダメだよ。

 リリーは、人の中で生きていかなきゃ。


 人はね、一人では生きていけないの。

 僕たちは、人じゃないから。


 幸せだけど、幸せは、

 幸せだけでは、生まれないんだよ。」


「そっか…ダメなんだ。」


 今日は、沢山の感情がやってくる日だ。

 嬉しい、悲しい、苦しい、会いたい、切ない。

 

 ずっと忘れていた感情。

 穏やかではないけれど、生きている。


「ん…わかった。ちゃんと帰る。

 でも、会いにくるね。」


「うん、会いに来て。一晩だけの、魔法だよ。

 僕たちが、キラキラの宝石を渡しにいく。

 それが合図。


 あ、君はもう来ないでね。

 あんまりしつこいし、そろそろリリーも帰らなきゃいけないから一度だけ開けただけだから。

 

 ここに入れるのはリリーだけ。

 次来ても、追い返すから。」


 わかった?って指さされたカミルが、口がぽかんと開いている。意味が分からないって書いてある間抜けな顔。


「何で僕はダメなんだよ?」

「なんで君が来るんだよ。

 せっかくリリーが来るのに、邪魔だろ。

 君たちが傷つけてボロボロだったリリーを、ここまで守ってあげたんだ。

 これからはちゃーんと守りなよ、王子様」


「らしいわよ、王子様。

 守ってくれるの?頼りない王子様?」


「うるさいな!守るよ!言われなくたって!」


 ぷんぷん怒る表情は昔と変わらない。

 6年間、彼は探し続けてくれたのだろう。


 それだけで、少しは信じてみても良い気がする。

 だって、彼はお義母様の息子なのだもの。


「帰るわよ、カミル」

「待ってよ!リリー!」

「みんなー!荷物は置いていくわね!また来るわ!」


「待ってるよー!!幸せにね!リリー!」


「大好きだよっ!」そう口々に叫ぶ小人たちに元気に返す。


「私だって大好きよ!ありがとう!守ってくれて!」


 白雪姫のお話はこれでおしまい。

 

 これは、七人の小人に優しく守られた、

 白雪姫のお話──

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


現在は長編ファンタジー 【妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む 】も毎日連載中です。


亡国の王女が少年として身分を隠し、軍で生き抜く物語です。

シリアスと成長、仲間との絆を描いた長編作品となっていますので、 雰囲気の違う物語も楽しみたい方はぜひお立ち寄りください。


改めまして、本当にありがとうございました。

ブックマークやいいねしていただけると励みになります!

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ