語られなかったもう一つ物語──童話のプリンセス達の隠された物語──
捨てられた亡国の姫は森で愛を知る──白雪姫と優しい魔法──
童話もの、シリーズ化しました。
長編の息抜きで色々と書いていく予定です。
よろしくお願いします。
「白雪姫を、森に連れて行きなさい」
可愛い可愛い白雪姫。可哀想な女の子。
使用人や国民の、そして最愛の息子の口から聞くのはもう沢山だ。
亡国の姫。隠された宝石。
お義母さま。
可愛らしい声で呼んで、花のように笑う彼女を見るのは、もう沢山。
あなたには何の罪もない。
それは、分かっているけれど。
──彼を奪ったのは貴方の母なの、白雪姫。
彼女にそっくりな貴方の顔は見たくない。
だからごめんなさい、白雪姫。
私の目の前から⸻消えて。
⸻⸻
「姫様、森へ参りましょう」
「え、いいの!?やった!」
「少しだけですよ。」
ちょろちょろと流れる小川。たえず囀りを交わす小鳥たち。王城から遠く離れた、深い深い森の中。
──最高だわ!
花畑に座り込み、昔お母様に教えて貰った花冠を作る。お義母は喜ぶかしら。
お義父さまにはキラキラの石ね。透き通っていて綺麗だわ。
よく見ると、キラキラした宝石は、点々と落ちている。
スカートの裾を裏返し、一つ一つ集めていく。
進んでいくと、小さな可愛い家を発見した。
もくもくと立ち上がる煙は暖かそう。
そういえば、案内の狩人とも逸れてしまったし、ここで休憩させてもらいましょう。
「ごめんくださーーい」
「誰?ひと?なんでー?」
「少し休ませて貰えるかしら?」
「いいけどさー。」
中にいたのは可愛らしい子供たち。女の子が二人に、男の子が五人。
「お腹減ったんだけど、何かないかしら?」
「この子、突然来た割に図々しすぎない?」
「まぁまぁ。抑えて抑えて。まだ小さいんだから。君、何歳?名前は?」
「私の名前はリリー。皆からは白雪姫って呼ばれてるわ。可愛い名前でしょ?年は6歳よ。」
「ふーん。リリーね。呼びやすくていいじゃん。」
「リリーは何でこんなところに?迷子?」
「なんか逸れちゃって。帰れるかな?」
「どうかな。ここは遠い世界だからね。迎えがくるまでここにいたら?」
「用事もないし、それもいいわね。きっと誰か、探しに来てくれるわ。」
それから、リリーは小人たちと楽しく暮らした。
小人たちは不思議な力を使って、植物や果物を大きくしたり、キラキラした宝石を出す。時々、可愛い服もどこからか持ってきてくれた。
だけど、全然誰も迎えに来てはくれなかった。
とても楽しかったけれど、誰も人は訪ねては来なかった。
きっと、私は捨てられたんだわ。
だって、みんな言ってたもの。
亡くなった国のお姫様。
可哀想な女の子。
あの子のせいでまた戦争が起きたら。
そう、囁いていたのを知っている。
優しい顔して、陰ではいうの。
可哀想な白雪姫、居なくなってしまえばいい。
⸻⸻
リリーは、12歳になっていた。
すっかり大きくなったリリーは、小人たちに勉強も教えて貰い、何故かマナーまで叩き込まれている。
小人たちはとても優しくて、賢くて、何でも知っていたけれど、甘やかしてはくれなかった。
「小さい君の仕事は勉強すること!学んだことは裏切らないからね!」
そう言って、遊んで、勉強して、ご飯を食べて、眠る。毎日毎日、繰り返し。幸せな日々、幸せな時間。
その幸せな日々は、突然破られた。
⸻⸻
「リリー!迎えに来たよ!やっと結界が解けたんだ!」
「結界?なんのこと?っていうか、誰?」
「誰!?僕のことわからないの!?あんなに遊んだのに?」
「はぁ?私はあなたみたいな人と…ってカミル!?」
「覚えてるいるじゃないか。」
「覚えてはいるけど、こーんな小さかったのに。」
「そんなに小さくなかっただろ!どれだけ小さいんだよ!その時の僕!」
「お義母様に怒られて、泣いてたくらい」
「それはリリーが悪いんだろ!」
「私は悪くないわ!カミルのために、全部お義母様に教えてあげただけよ!
そういえば、お義母様はお元気?」
その言葉に、カミルの返事が詰まる。なんだか、悪い予感がする。
「…母上は、三年前に亡くなったんだ。」
「え…どうして?」
優しい優しいお義母様。
みんなが腫れ物に触るような手で触れる中、お義母様だけはちゃんと私を見てくれた。
そんなお義母様は、もういない…?
「君には、辛い話になるよ。
それでも…聞くのかい?」
切なげに揺らす瞳の中に、いつもの楽しそうな光は見当たらない。きっと、悪い話なのだ。
だけど、それでも。聞かなくてはならない。
だって、私の、お義母様だから。
小さく、こくん、と頷く。
「そうか…」
小さく息を吐いたカミルは、息を吸い込み、一気に吐き出すように言葉を紡ぐ。感情を入れないように。そんな、話し方。
「君を、森に連れていくよう命じたのは母上だったんだ。
君が居なくなって、すぐに、父上に白状した…
そこから皆で探したんだ。
母上も一緒になって探したよ。
でも、見つからなかった。どこを探しても、君は居なかったんだ。
母上は、悔やんでいた。自分勝手な感情でリリーを傷つけたことに。暗く、深い森に置き去りにさせたことをずっと嘆いていた。
だが、それは、決して許されることではない。
母上は、孤独になった。
毎日、毎日、君のことを森へ探しに行っていたよ。
疲れ果ててしまったんだろう。
泣きながら、リリーの名前を呼んで、亡くなった。
─ごめんなさい、そう言っていた。」
一気に吐き出したカミルは、肩で息をし、顔を歪めている。だけど、そんな様子はリリーの目には入らなかった。
「そう…」
優しいお義母様だった。
私を見てくれた、唯一の大人だった。
何で、お義母様は私を捨てたのだろう。
邪魔だったのかな。嫌いだったのかな。
でも、リリーと優しく呼ぶ声は、
私のことを嫌ってなんてなかったと思う。
きっと、絶対。
そう、思いたい。
──いつか、聞けるかな。
また、どこかで会えるかな。
ね、お義母様。そのときは、教えてね。
どうして、私を捨てたのか。
なにが、嫌だったのか。次はちゃんと教えて。
──私は、お義母様が好きよ。
「リリー?」
気遣わしげにこちらを見るカミルの存在は、すっかりリリーの頭から消え去っていた。
そういえば、いたんだった。
「そういえば、居たんだっけ。」
「そういえばじゃないでしょ。どういうこと?
君。何?怒らないの?母上のこと」
「怒る?なんで?お義母様には理由があった。
それだけでしょ。その理由、言わないでよ。
私は、お義母様の口からいつか聞くんだから。」
青空を見上げ、この空のどこかにいるであろうお義母様に想いを馳せる。
きっとどこかで見ているの。
お母様がそう言ってたわ。
『ずっと見ているわ、リリー。
だから笑って――どんなときも。』
そう言った、お母様。
「リリー。」
優しく笑う、お義母様。
みんなみんな、居なくなった。
私が、大好きな、人たち。
笑わなきゃ。
一生懸命空を見上げ、歯を食いしばる。
頬をあげる。だけど、ポタポタ伝う雫たち。
雨だ。変だな。お日様はあんなに元気なのに。
「リリー。大丈夫ー?」
「リリー泣いてる。」
「泣いてないわ、雨よ。」
「そっか、雨か。洗濯物、入れなきゃね?」
「そうね、濡れちゃうわ。」
くるっと身体を翻し、家の中へ戻ろうとした。
だけど、空気を読まないバカが邪魔をする。
「リリー!僕とお城に帰ろう!結婚してくれ!」
「バカなの?私はここで暮らしてるの。邪魔しないでくれる?
ここの暮らしはいいわ。人の目もない。嫌なことも聞こえない。平和で、優しい世界よ。」
「うーん。リリー。それはダメー」
バッテンと七人の小人たちがお揃いのポーズをとっている。
「…なんで?」
「そろそろリリーは帰らなくちゃ。
ここは、僕たちの世界。
リリーの世界は、あっち。
お迎えが来たなら、ちゃんと帰って。」
「そんな…」
まだいたい。あなたたちと。
傷つける人のいない、この世界に。
「うーん。そうだなー。僕たちも寂しいからね。
リリーに良いことがあったら、枕元にこの石を置きにいくよ。そしたらさ、一回だけここに来れるから。
良いことがあったら、ここにおいで。
僕たちは、ここで、ずっとずっと待ってるから。」
「ここにいちゃダメなの?」
「ダメだよ。
リリーは、人の中で生きていかなきゃ。
人はね、一人では生きていけないの。
僕たちは、人じゃないから。
幸せだけど、幸せは、
幸せだけでは、生まれないんだよ。」
「そっか…ダメなんだ。」
今日は、沢山の感情がやってくる日だ。
嬉しい、悲しい、苦しい、会いたい、切ない。
ずっと忘れていた感情。
穏やかではないけれど、生きている。
「ん…わかった。ちゃんと帰る。
でも、会いにくるね。」
「うん、会いに来て。一晩だけの、魔法だよ。
僕たちが、キラキラの宝石を渡しにいく。
それが合図。
あ、君はもう来ないでね。
あんまりしつこいし、そろそろリリーも帰らなきゃいけないから一度だけ開けただけだから。
ここに入れるのはリリーだけ。
次来ても、追い返すから。」
わかった?って指さされたカミルが、口がぽかんと開いている。意味が分からないって書いてある間抜けな顔。
「何で僕はダメなんだよ?」
「なんで君が来るんだよ。
せっかくリリーが来るのに、邪魔だろ。
君たちが傷つけてボロボロだったリリーを、ここまで守ってあげたんだ。
これからはちゃーんと守りなよ、王子様」
「らしいわよ、王子様。
守ってくれるの?頼りない王子様?」
「うるさいな!守るよ!言われなくたって!」
ぷんぷん怒る表情は昔と変わらない。
6年間、彼は探し続けてくれたのだろう。
それだけで、少しは信じてみても良い気がする。
だって、彼はお義母様の息子なのだもの。
「帰るわよ、カミル」
「待ってよ!リリー!」
「みんなー!荷物は置いていくわね!また来るわ!」
「待ってるよー!!幸せにね!リリー!」
「大好きだよっ!」そう口々に叫ぶ小人たちに元気に返す。
「私だって大好きよ!ありがとう!守ってくれて!」
白雪姫のお話はこれでおしまい。
これは、七人の小人に優しく守られた、
白雪姫のお話──
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
現在は長編ファンタジー 【妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む 】も毎日連載中です。
亡国の王女が少年として身分を隠し、軍で生き抜く物語です。
シリアスと成長、仲間との絆を描いた長編作品となっていますので、 雰囲気の違う物語も楽しみたい方はぜひお立ち寄りください。
改めまして、本当にありがとうございました。
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