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Five:自由を語る双眸

僕は蝉川博士と二人で向かい合いながら椅子に座っていた。なぜだかわからないけど、僕たちはいつのまにか「自由」について話していた。話していたというよりも、それは蝉川博士が一人で持論を展開しているようなものだった。


「大和くん、自由というのは追い求めすぎてはいけないんだよ」


「なぜです、蝉川博士」


蝉川博士はふっと息を吐き、言葉を静かに捲し立てた。


「自由は少なからずの制約があることで初めて成り立つんだ。これがしたいあれがしたい、といった欲望は誰にでもあるけど、全てが実現できるわけじゃない。それは制約があるからだ。金銭面、時間と距離、年齢...。挙げ出したらキリはないよ。それでも、今挙げた三つは破ろうと思えば破れる。そのときに人間は自由を噛み締めるんだ。そしてもう一度自由を味わいたくなって、何度も制約を破ろうとするんだよ。犯罪がこの世界から消えないのは法律という制約を破ったときの噛み締める自由を何度も味わいたくなるからなんじゃないかな。もちろん、理由はそれだけじゃないだろうけどね。怨恨や金銭、殺さざるを得なかった状況とか」


蝉川博士は一度、言葉を切った。僕は疑問をぶつけた。


「それなら蝉川博士、法律や憲法など守るべき制約を守った上なら自由を追い続けていいということですか?」


「そうだろうね」


蝉川博士はあっさり答えた。


「いろんな制約を破ってあらゆる自由と経験を積み重ねることで、独創的な発想も生まれる。だから、大和くんの言う通り、守るべき制約を守れば自由を追い続けていい。ただし、守るべき制約を破ってでも自由は追い求めるものではないし、求めてはいけない」


僕はそのまま蝉川博士の持論に飲み込まれそうになったが、敢えて更なる疑問を呈した。


「では、もしも制約がない世界だったら自由は存在しないんですか?僕らはなんでもできるということになりますが」


我ながら意地悪な質問だと思い、声に出さず笑っていた。これで持論を崩せるかと思った矢先、蝉川博士は言い返してきた。


「いいや、自由はあるよ、大和くん」


僕はたちまち真顔に戻った。蝉川博士の奥底にある灯火まで消えてしまったような双眸を見て笑っている場合ではなかった。


「守るべき制約が法律は憲法だとは言っていない。人間が人間の限界を超えてはならない。天気だってもちろんだ。神様を創ってもいけない」


その三つが何を指しているかは研究者である以上もちろん分かった。


───禁忌の三大研究。


それは、人間クローン・気象操作・神の創造の三つを指す。これらは世界中で研究競争が激化する中でも絶対に避けられてきた三つの研究であり、人間が神に近づかないようにするために禁忌とされているというのが通説だ。この三つの研究に手を出した人間の末路を書いた詩のような文章が起源であるそうだが、僕自身は読んだことがなかった。それを本気で信じていたわけではなかったからだ。そもそも神の存在を信じていない。だけど、僕だって人の信仰心にとやかく言うつもりは一切ない。神を信じてるならそれはそれでその人の生き方の一つだと思う。だから僕は神を信じてる蝉川博士に対して何も言えなかった。神を信じてる人に何を言えばいいのか分からなかった。返答を考えている間にも時間は刻々と過ぎていきそろそろ返答しなければ怪しまれるというとき、遠くから「京介さん、ちょっと来てください」と聞こえた。蝉川博士は何事もなかったように微笑みを取り戻して呼ばれた方向へと歩き始めた。僕は助かった。ありがとう同僚。

それから僕は、蝉川博士の虚な双眸を忘れることはなかった。できなかった。

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