天才vtuberの苦悩は元カノしか知らない。
天才って言われて苦しくない?
『いつ配信を再開しますか?』
入ってくるメッセージ。
『大丈夫ですか? 全く反応がありませんが生きてますよね?』
返事をしない。
「はあ」
ため息を吐く。
そして、少年はスマホをいじる。
SNS。
『天才vtuberいつ復活するん?』『また天才ぷりを見せて』『襲われてない? 天才vtuberだから』
「アカウント消したい。この世界からいなくなりたい。vtuberになるんじゃなかった。
もう、配信したくない」
どうしてこうなったのか、16歳の彼は思い返す。
天才vtuber。
平凡なのに、なぜ天才vtuberになってしまったのか。
「僕たち、別れよう」
あれは、中学校の卒業式前日だった。
図書室で、別れないかと彼は言う。
長い黒髪、眼鏡、地味な雰囲気。そんな少女に。
「別れる?」
少女は、そう返す。
悲しみはなく、怒りもない。なぜ別れるのか、見当はついている。けど一応聞く、そんは感じの。
「うん。僕、考えたんだ。
vtuberになるからさ、僕。君は高校生になるだろう? 離れるし、君には、高校生活を楽しんでほしい。
勝手だけど」
微笑んで、少年は言う。
「受験はしてないし、vtuberの企業とは、明後日、東京でする予定だから。前にも言ったけどね。ドッキリではないらしい」
vtuberの大企業、そこと彼は契約をする。
少年は、少女、彼女をじっと見る。
許してくれるだろうか? 恋人なのに、勝手にvtuberになったりして。自分は、この子が作家になるという夢を叶えるまで応援したかったけど。たまたま送ったら、vtuberになることが決まって。何がよかったのか、自分にもわからないけど。平凡すぎることが逆によかったのか。vtuberは個性のある人がなろうとするものだから。
などと思っていると、
「私のことは気にしないで。あなたはあなたの夢を追って。私は私の夢を追うから。平凡すぎるのは個性だよ」
「…やっぱり」
何でも悟られるなあ、と彼氏。
そして、
「うん。僕、頑張るよ」
「頑張ってね」
「別れよう」
「別れよう」
そうして、2人は別れた。
だが、そこで、彼は思った、思ってしまった。
『別れたし、どうせ努力をしても平凡だ。なら、全力で頑張ろう。
天才と言われないかなと思うまで、いや、それ以上の努力を』
そして、『平凡』は『天才』と言われ、それが『当たり前』と思われるようになってしまった。
天才の苦悩は誰も知らない。
その天才は、努力をして成り立っていることを、誰も知らず。
「vtuberやめたい。
僕は、そもそも平凡なんだ。
勉強だって、運動だって、平凡だった。学校では、平凡だった」
学校では。
だが、vtuber界では?
「天才、とか」
『天才と思っていたのに』『見損なった』『ただの平凡じゃん、つまんね』『キャラ崩壊』
毛布の中で、ガクガク震える。
自分の部屋で引きこもっている。鍵は閉め、毛布の中に。
『天才vtuber』として活動していたのに『ただの平凡』とばれ、批判される自分を想像し、恐怖で震える。
「うう。せめて、せめてあの子と別れていなければ。けど、メッセージはもう入らない。別れたんだから」
スマホが、震える。
彼も、震える。
びくびくしながら、手を伸ばす。
『天才って言われて苦しくない?』
彼女、元カノからの、メッセージ。
絵文字も、顔文字もない。
だが、そのメッセージは、直接、あの子から聞いてるようで。
涙が、流れる。
溜まっていたものが、全て出るように。
滝のような。
「ひっく。
やっぱ、何でも悟られてるなあ、あの子には」
『天才』のまま進むか?
『凡人の自分』をさらけ出すか?
それは、まだ考えていない。
だけど、溜まっていたものを全て出そうと、涙を流すのであった。
『天才vtuberの苦悩は元カノしか知らない』
ありがとうございました。




