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77. 魔物の大量発生

「師匠! 向こうで大変なことが起きているようです!」


 山腹を抜けようとしていたクラインが遠くを指差して叫んだ。彼の指した先には異様な光景が広がっていた。


 爆発音――何かが激しくぶつかり合う音が連続して響き、森のあちこちから火花と炎が吹き上がっている。空からは蝙蝠のような翼を持つ大きな黒い怪鳥が次々と降りてきた。だが、すべての攻撃は地上を取り囲む透明な半球状の防壁に阻まれていた。防壁を壊さんと、外側から魔物たちが凄まじい勢いで襲いかかっているのだ。


「魔物の大量発生だ。しかも、かなり大規模だな」

 司祭戦士インボンが深刻そうに呟いた。


「あんなに大きくて強力な防壁を、いったい誰が?」

 魔法使いルトレクは目を見開いて結界を見つめる。


「すぐに助けに行きましょう」

 クラインは今にも駆け下りそうな勢いだった。


 ジーフリートの息子シラードがルトレクに問う。

「大量発生を止めるには、根源となる『ロード』を討ち取らねばなりませんが、見つけられますか?」


 ルトレクは額に皺を寄せた。

「あれだけ広範囲だと簡単じゃない。もっと近づいて防壁の周囲を丹念に探るしかないが……」


 ジーフリートは落ち着いて言った。

「探し回る必要はない。こちらが魔物を退けていれば、奴が自ら姿を現すだろう」


 そしてルトレクに(たず)ねた。

「先に言っておいた魔法の準備は済ませてあるな?」


 ルトレクは頷き、両手を開いた。右手には小さな種子がいくつか、左手にはいくつもの小さな巻物が浮かんでいる。巻物はそれぞれ異なる魔紋の蝋で封印されていた。


「おっしゃった通り用意してあります」


「よし。行きながら対処法を説明する。降りるぞ」

 ジーフリートが先頭に立った。


 ***     ***


 距離が詰まるにつれ、魔物たちの咆哮(ほうこう)喚声(かんせい)が耳を引き裂くように鳴り響き、特有のむっとした不快な臭気が辺りに立ち込めてきた。


「敵の数が多い。隊形を崩すな。一人で深く入り込みすぎるな。適切な地点を見つけるまで、敵を倒しながら前進するぞ」


 ついに魔物の姿が見えた。こん棒や斧を振るう大柄なオークの群れ、小柄なゴブリン、ハイエナのような獣型の魔物が混じり合い、防壁を叩きつけ、体当たりしては破壊を試みている。


「行くぞ!」

 ジーフリートを先頭に戦士たちが突進した。


 魔物が猛然と襲いかかる中、クライン一行は隊列を保ちつつ順々に魔物を倒していった。魔法使いルトレクを中央に、回復術師リシュラと弓手マレンカが左右に付き、ルトレクを守りつつ仲間を支援する。ルトレクはロードとの対決に備え、魔力の消耗を抑えつつ、オークやゴブリンの術師から仲間を庇い、敵術師に反撃を加える役に徹した。


 ジーフリートは戦闘中ずっと適当な地点を探り、足元が比較的平らで周囲に大きな障害物のない場所を見つけた。ジーフリートが手で合図をすると、それを受けた先陣の者が短く口笛を吹く。それを合図に戦士たちは進行を止め、列を整えた。


 ジーフリートがさりげなく振り返り、魔法使いルトレクに目で指し示すと、ルトレクは頷き、広域魔法を詠唱した。


 ルトレクの足元に明るい黄色の魔法陣が現れ、一行を囲んだ。続いて周囲から大きな爆音が轟き、地面の下で花火が弾けるような激しい破裂音とともに、複数の炎柱が同時に噴き上がった。強烈な炎の柱が魔物どもを一掃していく。


 周囲が一時的に片付いた隙に、ジーフリートは仲間を率いて先ほど合図した地点へと移動した。ルトレクは片手に火の玉を作って遠方のオーク術師を攻撃し、もう一方の手で地面に小さな魔法の種をこっそり撒いていく。


 ほどなくして魔物たちが再び押し寄せ、戦闘は再開された。ジーフリートやクラインたちは少しずつ位置を移しながら魔物を倒していく。


 そのとき、濃い紫色の霧が立ち上り、一行の前で黒い塊が形を成し始めた。大熊ほどの大きさの胴体に暗青色の毛を持つ狼の魔獣――その背に乗るのは、10代前半にも見える幼い少女の姿だった。暗い紫のドレスを纏い、頭には羊の角が二本生えている。


 ジーフリートが低い声で指示した。

「武器を替える。来る時に言った通りに動け。まずは必ず、あの狼の魔獣を仕留めるんだ」


 皆、緊迫した面持ちで頷き、刃物からメイスへと武器を替えた。


 魔族の少女が口を開く。


「小物ども、貴様らに用はない。大人しく退けば、見逃してやる。邪魔をするな、さっさと消えろ」

 冷たく高圧的な口調だった。


 ジーフリートが応じる。

「人々を傷つける貴様らをそのまま見逃せるか。全部、残らず討つ!」


 魔族の少女の唇が嘲りを込めて歪んだ。

「愚かなやつら、死を自分から招くのだな。死にたいというのなら望みどおりにしてやろう。久しぶりに、人間相手に少し遊んでやるか」


 少女の瞳が赤く光った。


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