73. キャスティング
〈太陽王プロジェクト〉の物語と音楽、そしてダンスがついに完成し、配役もほぼ決まった。
タイトルはレオト自らが名付けた。その名も『太陽王に跪け!』。本人としては、わざとダサくつけたつもりだったので、反対が出ると思っていたが、意外にも全員が快く賛成した。
物語のあらすじはこうだ。若く、麗しく、しかも聡明な王が治める平和な王国に、王を妬む〈闇の勢力〉が襲いかかる。敵の首領・暗黒王に、美しい王妃をさらわれた王は、ついに立ち上がる。
数々の危険と不思議な冒険を乗り越えた末、王は〈太陽王〉として覚醒し、闇の王を討ち、王妃を取り戻して王国の平和を取り戻す、というものだ。
しかし、王妃役のキャスティングだけは難航した。出番こそ多くはないものの、皆が「自分がやりたい」と名乗りを上げ、争奪戦のようになっていたのだ。
最終的には、皇后イステルが自らその役を引き受けると言い出し、ようやく決着がついた。
だが、ルカイアが加わったことで新たな提案が浮上する。
太陽王に立ち向かう敵の首領、〈暗黒王〉の役を、アンリカからルカイアに変更してはどうか、という案だった。総監督のケイトリンをはじめ、元俳優出身の妃たちが特に積極的だった。理由は単純で、レオトとの身長差が一番少なく、ルカイア特有の強く堂々とした雰囲気が敵役にぴったりだというのだ。
アンリカ本人は、もともと周囲の推薦で役を引き受けただけで、特に執着はなかった。ルカイアも「どうせ〈大将〉なら、やれと言われりゃやります」とあっさり受けた。
そこで、まずは彼女を男装させて、実際に敵役としての雰囲気を見てみることになった。
そして、レオトは、男装したルカイアを見て息を呑んだ。化粧をし、胸を布で固く巻き上げ、黒衣をまとったその姿は、まさに見事な美丈夫だった。
(……今さらだが、体のバランスが完璧だな。まるで宝塚のトップスターみたいだ)
小さな顔に、長い脚、すらりと伸びた手足。鍛え上げられた体は、プロのモデルのように均整が取れていた。
「やっぱり身長があると、見栄えがしますね。……完璧ですわ!」
総監督ケイトリンがルカイアを上から下まで眺め、感嘆の声を上げた。
隣の衣装監督ジュイナも同意する。
「本当ですね。その上に軽鎧を着せたら、完璧な悪役の騎士に見えますわ」
「すっごく格好いいです。惚れちゃいそう……!」
メイリンの言葉に、ルカイアは少し照れくさそうに笑った。
「外見で褒められるの、初めてですよ。いつも〈巨人〉ってからかわれてたのに」
身長180センチを超える体格から出たキャスティング案だったが、彼女の圧倒的な存在感に、皆が満足していた。残る課題は演技とダンス、そして、歌だった。舞台はミュージカル形式のため、敵の首領にも歌唱シーンが多々ある。
だが、ルカイアは壊滅的な音痴だった。リズムはずれっぱなし、音程は上下にふらつき放題。ルカイアが歌い出すたび、あちこちから笑いが漏れた。
「どうせ笑いを誘う作品なんだし、多少ヘタでもいいんじゃないか?」
レオトが提案すると、ケイトリンは首を横に振った。
「それはいけません。喜劇の真髄は、演者が真剣に演じているからこそ笑いが生まれるのです。最初から〈笑わせよう〉という意図が透けてしまっては、作品の趣旨に反します。
それに、敵の首領がある程度の〈格〉を持っていなければ、陛下のカリスマも引き立ちません」
「うーん……確かに、ルカの歌は笑いのチート級だけどな」
レオトは横目でルカイアを見ながら、つい吹き出した。笑ってしまったのが気まずくなり、慌てて言葉を添える。
「すまん、つい笑ってしまった。でも時間はある。練習すればきっと良くなる」
ルカイアは気にした様子もなく、肩をすくめた。
「子どもの頃から歌は苦手なんです。誰だって得意・不得意があるのが普通でしょ? 陛下みたいに何でも完璧な方が、むしろおかしいんです」
「ははっ、それって……褒め言葉か?」
「ちがいますってば」
二人のやり取りを見ていたマビナは、意味ありげに姉を見つめた。〈ルカ〉という愛称で呼ばれるのは、家族やごく親しい人だけ。それを皇帝が呼ぶようになった。その意味を、マビナは理解していた。
ともあれ、壊滅的な歌唱力にもかかわらず、ルカイアの持つ圧倒的な存在感を捨てることはできず、〈太陽王プロジェクト〉の制作陣は、最終的に彼女の起用を正式に決定したのだった。




