69. 逸脱者ルカイア
レオトが一歩、また一歩と進み出る。
それに合わせて、ルカイアも動いた。『大火山の怒り』の刃が、いつの間にか烈しい炎をまとい、唸りを上げていた。
二つの武器が激突した瞬間、轟音とともに閃光が弾け、衝撃波があたりを飲み込んだ。結界が張られていなければ、見物していた者たちはひとたまりもなかっただろう。
さすが〈逸脱者〉。ルカイアの速さも力も、常軌を逸していた。直接叩きつける一撃はもちろん、燃え盛る炎を自在に操り、身を包んで防御にも使えば、火流となって敵を焼き尽くす攻撃にも変える。
ゲームで見たあの動き。だが、実際に受けるのはまったく別物だ。
アイランやフィリンの時とも違う、桁違いの圧。
事前に彼女の情報を知っていなければ、序盤で致命打を食らっていたに違いない。
レオトは最初、守りに徹した。幸い、『闘神の眼』は荒れ狂う炎をきれいに断ち割り、あるいは風のように散らしていく。ルカイアの戦斧が叩きつける恐るべき威力も、滑らかに受け流しては弾き返した。
戦いのさなかも、『闘神の眼』の柄に埋め込まれた黄金の瞳がじっと動いていた。それは飾りではなく、実際に相手の動きを〈読む〉ものだった。ルカイアの一挙一動を半拍早く察知し、自然とレオトの脳裏に映し出してくる。
この感覚に慣れるにつれ、レオトの戦い方が変わった。受けるだけではなく、攻撃の隙を突いて反撃し、さらにその返しを回避してから死角を狙う。
防御から攻勢へ――流れが変わった。不意を突かれたルカイアが、ほんの一瞬だけ目を見開く。だがすぐに冷静さを取り戻し、しなやかな反射神経で攻撃をかわし、距離を取った。
その唇を舌でなぞり、彼女は戦斧をさらに握り締める。目がきらきらと輝き、心の底から楽しそうだった。次の瞬間、ルカイアが動く。
轟音とともに、視界を覆うような炎の渦がレオトを飲み込もうと押し寄せた。
レオトがそれをかわすと、炎の渦はまるで意思を持つ生物のように背後へ回り込んできた。『闘神の眼』の瞳が強く光り、黄金のオーラがレオトを包み込む。炎の奔流も、灼熱の熱波も、もはや彼を焼くことはできなかった。
レオトは炎を切り裂いて突き抜け、ルカイアの目前に躍り出た。そして剣を振り下ろす。
『大火山の怒り』がそれを受け止め、閃光と爆音がほとばしった。吹き飛ばされながらも、ルカイアは体勢を立て直し、地面へ戦斧を叩きつけた。
大地が裂け、亀裂の奥から真紅のマグマが噴き上がる。それがまるで触手のようにレオトへと襲いかかった。
レオトはすばやくそれをかわしながら距離を詰め、再び斬り結ぶ。闘神の眼と大火山の怒りがぶつかるたび、耳をつんざく轟音が響いた。
終わりが見えない。
レオトは、決着がつかないと悟るや否や、剣に大きく力を込めた。
闘神の眼に闘気を流し込み、渾身の一撃でルカイアを大きく弾き飛ばす。
そして片手を挙げて言った。
「今日はここまでにしておこう。お互い、血を流すまでやる必要はないだろう」
ルカイアは戦斧を収め、素直に頭を下げた。
レオトが剣を鞘に納めて戻ると、メイリンとアイラン、ランシアらが一斉に駆け寄ってきた。
「すっごい……本当にすごいです、陛下!」
メイリンが目を輝かせ、アイランも興奮気味に言った。
「まさに神域の域です。『闘神の眼』をここまで扱えるなんて……。後で、私にも手合わせの機会をください」
ランシアはハンカチを取り出して、そっとレオトの顔をのぞき込んだ。
「汗を拭こうと思ったのに……全然かいていらっしゃらないのね」
女たちが皇帝を取り囲み、口々に称賛の声を上げる。
その少し離れた場所で、イステルは静かに一礼し、皇宮へと戻っていった。
レオトがその背中を目で追うのを、ユステイアは黙って見つめていた。




