67. 大火山の怒り
離宮の謁見の間でマビナの家族に会ったレオトは、ひときわ目を引く長身のルカイアを見て思わず驚いた。この時代にこれほど背の高い女がいることも驚きだったが、それ以上にマビナと実の姉妹だというのが意外だった。
(どっちかが養女なのか? まさか両親が同じってことはないだろう)
そんなことを考えていると、マビナがにっこり笑って言った。
「ルカイア姉さんと私は、ちゃんと同じ両親から生まれた姉妹ですよ。見た目は全然似ていませんけどね」
ルカイア。その名には覚えがあった。レオトは彼女をじっと見つめた。うつむいていたため顔までは見えないが、燃えるように赤い髪とあの背丈。どこか、かつてゲームで見た人物を思わせた。
レオトはまず、マビナの家族に彼女を強引に連れてきたことを詫びた。すると父メルフィンが恭しく答えた。
「これもひとえに魔族の邪悪な術策によって生じたこと。陛下がそのように仰せくださるだけで恐れ多いこと。微力ながら、大業にお力添えできるよう全力を尽くす所存です」
メルフィンはややふっくらした体型で、顔立ちはすべて大きく、特にぎょろりとした目が印象的だった。
「そう言ってもらえるとありがたい」
カティルから、メルフィンは清廉で剛直な地方行政官として広く評判を得ていると聞いていた。
メルフィンは後ろに立つルカイアを前へ呼び出し、紹介した。
「長女のルカイアです。取り柄といえば腕っぷしばかりで、辺りでは敵う者がいないと申します。どうか陛下のお役に立てばと願うばかりです」
「ありがたいことだ」
そう答えたところで、ルカイアが顔を上げた。その瞬間、レオトは自分の考え違いに気づいた。ゲームの人物と名前も性別も同じだが、印象はまるで違い、瞳の色も異なっていたのだ。
ゲームの中のルカイアは荒れた風貌に金色の瞳を持っていた。だが目の前の彼女は整った顔立ちで、赤褐色の瞳をしていた。
(同じ名前の別人ってことか)
そう思った矢先、ルカイアがいきなり口を開いた。
「マビナから聞きました。陛下はタパラムの英雄級、アイラン王女を打ち破られたとか。私とも一戦交えて、私がどこで役に立つのか見極めてください」
突然の申し出に、マビナ以外の全員が仰天した。マビナの両親は顔を真っ青にして固まった。
「何事にも順序というものがある」
カティルが冷ややかにたしなめたが、レオトは手で制した。
「いい。実戦訓練は歓迎だ」
その無鉄砲さに、かえってレオトの興味は引かれた。
父が必死で腕をつかんで止めようとしたが、ルカイアは無視して言い放った。
「ありがとうございます。どうせなら全力を出したいんで、私の武器を使わせてもらえませんか」
カティルが言葉を発する前に、レオトは快諾した。
「よかろう。その武器とやらを、この場で見せてもらえぬか」
「本当はそうしたいんですけど、今は離宮の護衛隊に預けてます」
レオトはすぐに取り寄せるよう命じた。やがて屈強な護衛隊員3人がかりで持ち運ばれてきたウォーアックスを見た瞬間、レオトの胸は高鳴った。
見間違いではなかった。レオトはルカイアを改めて凝視した。鮮烈な赤髪、挑戦的に光る瞳――瞳の色は違えど、ゲーム世界で最強格の一人とされた『逸脱者ルカイア』に他ならなかった。
ゲームで出会った彼女は、巨大なウォーアックスを軽々と振るう怪力の戦士で、胸元には亡き妹の遺骨を納めた小さな壺を下げていた。家族を皇帝に奪われた彼女は復讐に取り憑かれ、半ば狂気と化した復讐の化身だった。
初登場は、クエストのために兵士に変装した勇者を帝国兵と誤解し、問答無用で襲いかかってくる場面。倒すことはできず、一定時間耐えて誤解が解けるのを待つしかない強敵だった。
(セイツと同じで、本来はそんな人じゃなかったのか……)
レオトは横でにこやかに笑うマビナに視線をやった。セイツが仲間をすべて失い、自らを失ったように、マビナや家族の死がルカイアを狂わせてしまうのだ。まだ起きていない未来を思い、胸が締めつけられた。
「その武器の名は……『大火山の怒り』か?」
そう問うと、ルカイアの目が大きく見開かれた。
「はい! どうしてそれを……?」
「以前、話に聞いたことがある。なるほど……その武器を相手にするなら、普通の武器じゃ太刀打ちできぬな」
ルカイアの武器『大火山の怒り』は、ゲーム内で5大神器のひとつに数えられる究極武具だった。ごく稀なルートでは、ルカイアが死に、勇者がそれを手に入れる展開もあり、レオトもかつて使ったことがある。だが設定上、その真の力を引き出せるのはルカイア本人だけとされていた。
ルカイアの顔がぱっと輝いた。
「今のお言葉、最高の誉れです!」
思いがけない援軍に、レオトも心強さを覚えた。逸脱者ルカイアは、最後の戦いで確実に頼もしい味方となってくれるに違いない。
レオトは胸の高鳴りを抑えつつ、ルカイアに告げた。
「二日後に立ち会いをしよう。詳しい時刻は侍従長から伝えさせる。せっかく遠路はるばる家族そろって来たのだ、今は団らんのひとときを楽しむがよい」




