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66. ルカイア

 マビナの家族がついに帝都へやって来た。ようやくルカイアとも連絡がつき、家族全員そろって同行してきたのだ。


 離宮の応接室でマビナを待つ間も、父メルフィンは何度も同じ言葉を繰り返し、ルカイアに念を押していた。

「絶対に騒ぎを起こすんじゃないぞ。お前がマビナを危険にさらしたらどうする」


「はいはい、わかってるって。もう耳にたこだよ。百回は聞いたわ」

 うんざりしたように返すルカイアの脇腹を、母イナがつねった。


「ほら、言葉が乱暴すぎるでしょ。そんな調子じゃ、誰もあなたをもらってくれないわよ?」


「もらう? 誰が? 私は結婚なんてしないってば」

「しないんじゃなくて、できないのよ。男の人たちを殴り倒してばかりで、結婚なんてできると思う?」


 母娘が言い合っているところに、扉が開いてマビナが入ってきた。

「マビナ!」

「姉ちゃん!」


 家族は一斉にマビナに駆け寄った。母は彼女を抱きしめ、涙声で言った。

「無事だったのね……。体も弱いのに、どうしてるかずっと心配で……」


「見てのとおり元気だから大丈夫。もう心配しないで」

 ルカイアはマビナの体を上から下までじろじろ見て、ようやく肩の力を抜いた。


「よかった、骨折とかアザとかもなさそうだな」

「もうそんな心配はいらないわ」


 晴れやかに微笑んだマビナは、家族を自分の居室へと案内した。そして侍女に命じて末の弟を連れ出し、離宮を見学させに行かせた。残ったのは両親と姉ルカイアだけ。そこでマビナは切り出した。


「今回どうしてもルカ姉にも来てもらいたかったのには理由があるの。これから話すことは、絶対に外に漏れてはならない秘密だから、そのつもりで聞いてね」


 マビナは家族に、レオトと宰相ザモフにまつわる秘密を打ち明けた。

「今、陛下には少しでも力になってくれる人が必要なの。だから姉を呼んだんだよ」


 ルカイアはしばらく黙っていたが、そっけなく言った。

「でもさ、無理やりここに連れてきて閉じ込めたの、あの人でしょ? 解放してくれるなら、私たちと一緒に家に帰ればいいじゃん」


 それを聞いた父メルフィンが眉をひそめた。

「魔族の妖術に囚われてのことだろう。なら当然、陛下を助けて魔王の脅威を防がねばならん」


「妖術にかかっていたとしても、やったことが消えるわけじゃないでしょ」

「むう……個人的な恨みを言っている場合か。男に生まれたからには大義のために……」


「いや私、女だし」

 言葉に詰まったメルフィンは、慌てて言い直した。

「……人として生まれた以上、大義のために……」


「だからそういうのが重いんだって。自分の身守るだけで手一杯なのに、なんでわざわざ大きな荷物背負って苦労したがるかなぁ」


「な、なんという口を! 父がそんなふうに教えた覚えはないぞ!」

「違うよ。人生から学んだってやつ」


 一歩も引かず言い返すルカイアと、負けじと怒鳴るメルフィン。言い争いは止む気配がなく、マビナが割って入った。


「その件は後で陛下に会ってからまた話そう」

 そう言って立ち上がると、ルカイアの腕を引いた。


「ちょっと外で話そう。お父様、お母様はここでお茶でも飲んで休んでてください。すぐ戻るから」


 マビナはルカイアを連れて外へ出て、離宮の鍛錬場へと向かった。

「ねえ、陛下が最近タパラムの第3王女を妃に迎えたって知ってる?」


「ああ、噂なら聞いた。東北の武神の娘を二人も奪うなんて、マジでやりたい放題の皇帝だって評判じゃん」


 歩みを止めたルカイアが、じろっとマビナをにらんだ。

「何よ、その話。まさか私を脅すつもり? 『皇帝に逆らうと痛い目見るぞ』って?」


「似てるけど、ちょっと違うの」

 マビナはルカイアの手を取って鍛錬場の前へ連れて行った。そこでは護衛隊員たちが実戦さながらの剣術訓練をしており、場は殺気立っていた。その脇にはアイランとアンリカが見守っていた。


「見て。あの方がアイラン様。タパラムでも英雄級と認められる強者よ。彼女が妃になったのは、決して強制じゃないの。陛下の強さに惹かれて自ら望んだの。実際、陛下との実戦稽古で圧倒されたんだから」


 ルカイアの顔色が変わった。

「英雄級をねじ伏せたって?」


「そうよ。私もその場にいたけど、ほんとすごかった。最初は素手で、後は剣でやり合って……アイラン様の鎧は砕けるし、血まで吐いたんだから。幸い大事には至らなかったけど、あれで心奪われたのは間違いないわ」


 ルカイアは無言でじっとアイランを見つめていた。そんな姉を横目で見ながら、マビナはわざと心配そうに言った。


「変なこと考えないでよ。姉さんが怪我でもしたら困るから、先に言っとくんだからね」

 ルカイアは聞いているのか聞いていないのか、ぼんやり考え込んでいた。


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