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49. 褒賞

 すべての準備が整ったところで、レオトが手を挙げて合図を送ると、力強い角笛の音が響き渡り、狩猟大会の開始が告げられた。


 その時ちょうど、空高くから鋭い鳴き声が降り響き、一羽の鷹が上空を大きく旋回していた。


 それを見上げたアイランは、その場で軽やかに身体を回転させながら跳躍し、瞬く間に天へと駆け上がると、空中でその鷹を捕らえた。地へ舞い戻る姿は風のようにしなやかで、着地の瞬間も音一つ立てなかった。アイランは捕らえた鷹をレオトへと捧げた。灰色の羽毛に青が差した、美しい猛禽であった。


 人々はその神業にも等しい武技に息を呑んだ。常人の跳躍などとは次元の異なる境地――それがはっきりと示されていた。当のアイランは、周囲の驚嘆に満ちた視線を意にも介さず、平然と落ち着き払っていた。


 続いて本格的な狩猟が始まった。猟犬が放たれ、追い立て役たちが太鼓を打ち、笛を吹いて獲物を森の方へと追い込む。5つの隊は勢いよく森の奥へと駆け込んでいった。


 その間、レオトは5人の妃とともに周囲を散策したり、テントに腰を下ろして本を開き、静かな休息を楽しんでいた。



 狩猟大会は陽が沈むまで続けられた。やがて狩猟キャンプには、各隊が仕留めた獲物が山と積まれていった。鹿、狼、猪、熊といった数々の獣のほか、奇怪な姿の魔獣も混ざっていた。森に魔獣が出没するという話は真実だったのである。


 5隊の順位は明確に付けず、全員に十分な褒美を与えることとした。ただし、優勝隊のみを選び、特別な褒賞を下すことになった。


 レオトは、タパラム武士隊と灰色の狼団を共同優勝とした。両者ともに仕留めた獲物の数が拮抗していたが、アイランは開始早々の見事な鷹狩りが評価され、灰色の狼団は巨大な魔獣を討ち取った功が加点されたのだ。


 残る3隊の成果もほぼ互角であった。近衛隊は「離宮護衛隊にだけは負けられぬ」という一心で奔走し、最終的には辛うじて護衛隊を上回ったことに満足していた。


 レオトはまずアイランに、華麗で美しい宝剣を下賜した。黄金の装飾を施した柄と豪奢な鞘は、見守る者たちを感嘆させた。


 続いてセイツの番となった。


 緊張の面持ちで進み出たセイツに、レオトは声をかけた。

「もう少し近くへ」


 セイツが慎重に2歩ほど進み出ると、レオトはさらに告げた。

「顔を見せられるように、頭を上げてみよ」


 そしてセイツが顔を上げた瞬間――レオトは悟った。彼こそ、ゲームの中で見たあの人物に違いないのだと。


(同じ名の別人ではなかった……やはり、彼自身だったのだ!)


 明るい灰色の髪の下に輝く青い瞳。整った印象を与える細面の白い顔。セイツの鎧の肩に刻まれた鮮やかな灰色の狼の紋章を目にした瞬間、レオトは旧き友と再会したかのような懐かしさと喜びを覚えた。


 込み上げる感情を抑えながら、レオトは彼に用意した褒美を手渡した。それもまた皇宮の宝物庫から持ち出した名剣であった。



 セイツは恭しく剣を受け取り、仲間のもとへと戻った。箱にぎっしり詰まった金貨を見た団員は歓声を上げ、口をぽかんと開けていた。それ以上に皆の関心を引いたのは、セイツが授かった剣であった。


「さっきタパラムの姫君が下賜された剣は、一目で見ても凄そうな宝剣だったのに……これ、やけに平凡だな。差がありすぎじゃねえのか?」


 マクシムが落胆したように呟いた。実際、その剣は柄から鞘に至るまで素朴で飾り気のない造りに見えたのだ。


「やっぱり、そういう扱いか……?」

 誰かが小声でつぶやいた。


 セイツは黙ってゆっくりと剣を抜いた。


 すると、状況は一変した。刃に刻まれた魔法文字が仄かに光を放ち、淡い青のオーラを(まと)った刀身が冷たく鋭い輝きを放ったのだ。刃の表面には、鰐の甲羅のような鱗模様が浮かび上がった。


「こ、これは……!」

 魔導士ウォレンが目を見開いた。


 マクシムもごくりと唾を飲み込み、息を呑む。

「まさか……マシェト鋼か?」


 マシェト鋼とは、マシェト地方の鉱山ひとつだけで産出される特別な鉱石を、その地独自の鍛造法で打ち上げたものである。表面に魚の鱗や爬虫類の皮のような独特の文様が浮かぶのが特徴で、その鉱石自体が極めて希少なため、すべてが高価な至宝とされた。


 マクシムは顔を寄せ、刃元に刻まれた刻印を見つけ、はっとして顔を上げた。

「しかも……これはパジャイラフの作じゃないか!」


 パジャイラフ――マシェト地方で活躍した伝説の鍛冶の名匠。その手による剣は特別に珍重され、とりわけこの刻印は彼の全盛期に打たれたものだけに刻まれる。現存するのは30振りほどに過ぎないと言われていた。


 名匠の手による宝剣でありながら、目立たぬ質素な外観を保っているのは、それが徹底して実戦用に造られた証であった。


「……これ、売ったら、どれくらいの値がつくんだ?」


 マクシムが呟いた瞬間、セイツは剣を鞘に収め、即座に言い切った。

「これは俺が使う」


 そして仲間を見回し、静かに告げた。

「心配するな。お前たちには相応の報酬を必ず返す。この剣は、これから俺自身を象徴するものになる。金貨はお前たちで分け合え」


 唖然(あぜん)としたように彼を見ていたマクシムは、ふっと笑みを洩らした。

「……大した自信だな。まあ、お前がそう言うなら従うさ」


 副団長であるマクシムが頷いて受け入れると、他の団員たちもそれに倣い、納得して受け入れた。


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