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44. 変化

 成婚の儀から数日後。

 アンリカは離宮護衛隊に復帰すると同時に、レオトを訓練へと招いた。彼女の纏う洗練された美しい鎧には、もはや皇室の紋章が刻まれていた。


 鍛錬場の一角には華やかな天幕が設けられ、レオトはそこに腰を下ろして訓練の様子を見守った。左右にはアンリカとアイランが並んで座している。アンリカが皇帝の妃となったことで、アステイン家から新たに選抜された女武者たちが護衛隊に加わり、隊の数は以前より増していた。


 その訓練は、レオトの目から見ても苛烈であった。巧みにこなす者もいたが、必死に食らいつく者も少なくはない。やがて、叱咤が鋭く飛ぶ。


「どうした、まともにできぬのか! さっさと立ち上がれ!」

 涙を滲ませる者すら出る。


「ここは陛下の御前だぞ! 何たる醜態(しゅうたい)! このような姿を晒してなお離宮護衛隊の一員と名乗れるか? この程度に耐えられぬ者は、この場に居る資格はない!」


 容赦なく浴びせられる冷厳な叱責に、見ているレオトがかえって気まずくなるほどであった。そんな彼に、アンリカが身を寄せ、小声で囁く。


「使える者は残し、そうでない者は退ける――今は水替えの時期です。苛烈な訓練を課すことで玉石を見極めるのです。耐えられぬ者は自ら退くでしょう」


「なるほど、そういうことか」

 レオトは得心して頷いた。



 二人の隔たりのないやり取りを眺めながら、アイランは不思議な心地にとらわれていた。アンリカの変貌ぶりは驚きでもあり、不可思議でもあった。


 初めて出会った頃のアンリカは、小奇麗な顔立ちの青年と見まがうほどで、離宮護衛隊に男子がいるのかと錯覚するほどだった。誇り高く自信に満ちてはいたが、任務に熱意は見られず、稽古に外部の自分たちが立ち入ることさえ頓着しない。


 いずれは自ら身を引くか、こちらから外すことになる――そう判断していた。離宮護衛隊が役割を果たす上で、彼女は障害にすぎぬと思えたからだ。


 ところが、そのアンリカが思いがけず皇帝の新たな妃となった。ランシアからその家柄について聞かされれば、理由は理解できた。必要に迫られた政略、いわば結婚同盟。皇帝の地位と立場からすれば、いくらでもあり得る話である。


 だが、その成婚はアンリカを根底から変えてしまった。3日後に離宮護衛隊へ戻ってきた彼女は、もはや別人であった。自信に溢れ、意欲に満ち、何よりも生気に輝き、美しくなっていたのだ。


(何があの人を、ここまで変えたのだ……?)

 これまで武術以外に興味を示すことはなかったのに、今は妙に気にかかる。あの皇帝レオトという男は、今まで出会った誰とも違う。


 さらにアイランを惹きつけたのは、武人としてのレオトの力量だった。彼がどこまで成長できるのか、その極限を知りたいと思わされたのだ。アイランとレオトは互いに武術を教え合い、日々鍛錬を重ねていた。レオトの上達は信じがたい速さで、目に見えて力を増していた。


 かつての試合では怪我を懸念して途中で止めたため、彼の潜在力を正しく量ることはできなかった。レオト自身も、自分の限界をまだ掴んでいない。武器を用い、全力を尽くしてぶつかり合い、その境地を確かめてみたい。


(あの時は多少、油断もあった。もう一度、真の実戦を申し込んでみるか……?)


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