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22. ご褒美

 この暮らしにも、ある程度は慣れてきた。夜ごと、美しい女たちを目の前にしながらも背を向け、ベッドの端で独り眠りにつく苦行は相変わらずだが、自分でもよく耐えていると思う。


 午後、いつもより少し遅れて離宮に戻ったときのことだった。


「陛下!」

 張りのある声が響いた。メイリンが庭の片隅で、ずっと待っていたらしい。


「帝国の文字を全部覚えました! それに、陛下に教えていただいた九九も全部暗唱できるんです!」

 レオトのもとへ駆け寄ったメイリンは、胸を張って大声で言った。


「もう全部覚えたのか? すごいじゃないか。では、試してみようか」

「はい! 自信あります!」


 得意げに前に出るメイリン。その姿は、ご主人を待つ子犬のようで、レオトの口元に自然と笑みが浮かんだ。


 カティルによれば、メイリンは以前よりずっと明るくなったという。幼い身で遠い異郷に連れられ、頼れる者もなく、挙げ句に酷い目に遭った彼女は、いつも怯え縮こまっていて、外に出ることもほとんどなかったらしい。今では、レオトと会って一緒に菓子を食べたり過ごしたりする時間を、大きな楽しみにしているのだ。


 帝国の文字は、アルファベットのような音素文字だった。メイリンはその場で帝国文字の本をすらすらと読み上げ、澄んだ声で九九を間違いなく唱えてみせた。


「本当に全部覚えたんだな。大したものだ」

 レオトが褒めると、メイリンは花のように笑顔を咲かせた。


「約束通り、ご褒美をあげなくてはな。何が欲しい?」

 メイリンは少しだけ迷うように目を伏せ、そして大きく息を吸い込むと、決意を込めて言った。

「……お父さんとお母さんに会いたいです」


 そして、慌てて言い添える。

「ここに、お父さんとお母さんを呼んでいただけませんか?」


 小さな顔いっぱいに宿る切実さが痛ましい。レオトは静かにうなずいた。

「分かった。そうしよう」


「ありがとうございます!」

 メイリンは歓喜のあまりぴょんと跳ね上がり、レオトに抱きついた。


「私、手紙を書きます!」

 今すぐにでも書き始めそうな勢いだ。


「明日の朝、招待状と一緒に送るといい。その時までに用意しておきなさい」

「はい!」


 あまりの喜びに舞い上がり、大好きな菓子もほとんど手をつけずにいる姿を見て、レオトはもっと早く思いつかなかったことを悔やむほどだった。


(……両親か)

 レオト――ユタカは、自分が高校時代に交通事故で亡くした両親を思い出した。だから、あのとき、無意識のうちにトラックに突っ込むようハンドルを切ったのかもしれない。


 元の世界に戻ろうという考えを持たなかったのは、事故で既に死んでいると思っていたことに加え、帰ったところで待っている人がもういなかったからだ。


 メイリンの部屋を出たレオトは、カティルに命じて、彼女の家族に宛てた皇帝の招待状と必要な費用を十分に送るよう指示した。


「どのくらいで着けるだろう?」

「向こうへ届くまでにひと月はかかります。そこからこちらへ来るなら、いくら急いでも2か月は必要でしょう」


「そんなに遠いのか?」

「帝国の辺境で、山岳の険しい土地ゆえに」


「きっと指折り数えて待つだろう。明朝、なるべく早く送るのだ」

「はっ、承知しました」



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