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最終章 final‐stop

中国の広大な荒野を一台の汽車が弾丸のように走る。アヘンを警護する新撰組隊士の一人が仲間に中座を告げ、最後尾の展覧デッキへと出た。


隊士は息の詰まるような車内の空気から解放され深く息を吸い込んだ。遠くに緑の生い茂る山々が見えた。


隊士は懐から煙草を取り出すと口に咥えた。煙草に火をつけようとして、隊士は口から煙草を落とした。


荒野を横断する線路、その線路を汽車を猛追して駆ける一台の蒸気バイクが見えた。バイクを操るのは、金髪をなびかせた少女。――カラミティ・ジェーン。


隊士は火のついたマッチを放り捨てると、懐からリボルバーを取り出し構えた。ジェーンはバイクの前輪を持ち上げウィリーさせる。隊士のアイアンサイトいっぱいにバイクのタイヤが広がる。


タイヤが隊士の顔面にめり込んだ。背後の扉を破って、バイクが汽車の車内に乗り付けた。ジェーンは驚愕する汽車の乗客たちをよそに汽車の屋根へと上がった。そこにフォン・フェイフォンはいた。


「待ってたぜ、ジェーン。あんたとのケリをつけて、それから土方を平らげちまおう」


「あたいは前菜って訳か? なめてくれるね」


「それにしちゃあ、随分と脂ぎった前菜だ」


ドン!! 旋風を残してフォンが駆ける。


バン!! ジェーンの放った弾丸がフォンを迎え撃つ。

 

フォンが右拳を振るう。フォンの右拳がジェーンの弾丸に触れた瞬間、弾丸が金の粒子になって消えた。

 

そのままの勢いでフォンは左拳を振るう。ジェーンは手にしたリボルバーでフォンの左拳を受けた。拳の勢いを殺し、リボルバーの引き金を引いた。

 

弾丸がフォンの左拳を押し返した。その勢いでフォンのガードががら空きになる。無防備なフォンの顔面に、ジェーンはもう一丁のリボルバーを向けた。


ジェーンが引き金を引こうとした瞬間、フォンが目の前のリボルバーに噛みついた。リボルバーの銃身がフォンの顎に食い千切られた。


ジェーンはすかさず、反対のリボルバーをフォンに向けたが、リボルバーはフォンの裏拳によってジェーンの手からはたき落とされてしまう。


今度はジェーンが無防備になった。フォンが止めを刺そうとさらに距離を詰める。ジェーンは追い詰められて後に下がった。フォンは勝利を確信していた。フォンが拳を振るう。


ジェーンのたわわな胸が揺れて、胸の谷間から一丁のデリンジャーピストルが飛び出した。


宙を舞うデリンジャーをジェーンの手が掴む。フォンはガードしようにも、攻撃に移った手は止められない。


ジェーンがデリンジャーを構えた。フォンの口が動く。


「負けたよ」フォンが笑った。

 

銃声――フォンの額に風穴が開く。フォンの身体が宙を踊る。そのまま汽車の屋根から転がり落ちる。フォンの身体を荒野に置き去りにしたまま、ジェーンを乗せた汽車は走り続ける。


ジェーンは懐から煙草を取り出して、一口吸うと、煙草を放り捨てた。死者への手向けのような紫煙が白い線を引いて荒野に消えていく。


ジェーンはこれ以上汽車に乗っていても意味はないと思い、汽車を止めるために機関室に向かった。


そこでジェーンは予期せぬ現場に出くわす。機関士が床に倒れ、ブレーキが壊されていた。傍らにはボルサリーノ帽にトレンチコートの男。


ブレーキが壊されていては、汽車はこのまま駅に突っ込み大惨事になる。


「なにもんだてめぇ」とジェーンが訊ねる。


「南軍大尉……いやそうじゃなかったな。ピンカートン探偵社、所属、ジョン・カーター」

 

精悍な顔つきをした偉丈夫はそう答えた。


「ピンカートンの探偵が、ここで何をしている?」


「なに、うちのお得意先の合衆国政府がアヘンが余所に渡るのが嫌だって言うんでね。ちょっと破壊工作に」


「やけに舌が回るじゃねえか」


「なにせこれから君はこの汽車と共に荒野の塵になるんだからね。冥途の土産ってやつさ」


「おまえを道連れにしてやってもいいんだぜ」


「美人からのお誘いか。悩ましいが遠慮しておくよ。家で妻が待っているからね。なにせ彼女は火星のプリンセスだから。怒らせたら怖いんだ」


それじゃ、と手を振るとジョンは汽車と並走していた機械馬に飛び乗り去って行った。


「あちゃー、こりゃ一大事だ」


さして重要なことでもないと言うような軽い口調で、現れた土方が言う。


「おい、ありゃなんだ」


土方が指指した方向をジェーンも見る。


そこには汽車と並んで荒野を爆走する一人の男――フォン・フェイフォン。


「あいつ生きてやがったのか!!」ジェーンが嬉しそうに叫んだ。


フォンはジェーンの弾丸を気の力を使い脳に達する前に頭蓋で受け止めていたのだ。そして起き上がったフォンは自らの二本の足で走って汽車に追いついた。まさに超人技だった。


フォンは汽車を追い抜くと、汽車の進行方向に立ち塞がった。


「あいつ生身で汽車を止めるつもりか」土方が口笛を吹いて言った。

 

フォンは大きく開いた両手を前方に突き出した。


その手が汽車の鋼鉄の肉体を受け止めた。轟音が響く。汽車の蒸気機関が唸りを上げた。フォンの足が地面にめり込む、ブチブチと音を立てフォンの全身の血管が千切れる。フォンの身体は血まみれになった。


汽車の車輪が虚しく数度空回りした後止まった。


「フォン!!」


汽車を降りたジェーンがフォンに駆け寄る。


だが立ったまま動かないフォンの瞳からは光が消えていた。


「おまえ最高にかっこよかったぜ」


ジェーンはフォンの頬に口づけした。


「また、愛した男に、置いていかれちまったな。カラミティの名、返上しそこねちまった」


          * * *


 ジェーンは香港港の木箱に腰をかけ、新撰組隊士たちがアヘンを船に積み込むのを眺めていた。


「あんたこれからどうする?」


ジェーンの側に来た土方が訊ねた。


「なに、田舎に帰って酒場の女中でもやって、農園で働く旦那でももらうさ」


土方が目を丸くした。


「冗談だろ? なぁ、あんた俺の女にならないか。あんたみたいな女、田舎に腐らせるなんてもったいねぇ。新撰組はこれからアヘンを元手に世界を股にかける傭兵になる。俺はあんたに世界を見せてやれる」


「止しとくよ。あたいに惚れた男にろくな運命は待っちゃいない。あたいはなにせカラミティ・ジェーンだから」

 

ジェーンはそう言うと、土方を残しどこかへと去って行った。


          fin

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