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元警部の事件一覧

双子 解答編

作者: 尚文産商堂

この作品は『双子 問題編』の続編として作られた作品です。

上記作品をお読みいただかないと、分からないと思います。


投稿者の失敗によりこのようなことになってしまったことを、お詫びいたします。

翌日、私は再び犯行現場にいた。

問題は、どうやってここに入り、父親を殺し、どこに潜んでいるか。

それにどうして凶行に及んだかだった。

そのことを解決したくて、リーダーとともに遺体がいなくなった血染めの部屋にいた。

「ここからドコに逃げたかが、一番の問題だな」

「そうなんですが、カメラで大体の方向は割れてるんですよね。でしたら、そちらの方向を重点的に調べたらどうでしょうか」

「そうもいかんのだよ。すでにそれは行った後だし、反対方向に向かっても調査は完了している。八方ふさがりというのはこういう状態のことを言うんだろうな」

さっきから疲れた表情しか浮かべてないリーダーは、私に向かってさらにもう一回溜息をついた。

「…トイレは調べましたか?」

「ああ、そのはずだが。どうかしたのか」

藁にもすがりたいという感じがひしひしと伝わってきた。

「いや、少し思いついたことがありまして。前日の電話記録で、この周囲から発信された携帯電話の番号は分かりませんか?」

「それなら、もう取り寄せてある。どの時間のがほしい?」

「式の開始30分ほど前の前後15分間でいいです。この近隣からの携帯電話やそれに類する通信機器に関する記録です」

「本部へ戻ろう。そこにあるはずだ」

部屋の扉のわきに立っている警官が私たちが通ってから再び部屋を閉めた。


書類が昨日よりも増えている本部で、リーダーが一番上に置いてあった紙を渡した。

「これだね」

「見たい時間はさっき教えた通りです」

「わかった」

リーダーが紙を何枚かめくると、目的のものを見つけたようで、私に見せてきた。

「これだよ」

「ありがとうございます」

私が受け取ると、目に付いた一つの電話にかけた。

「これ…」

記憶が正しければ、兄の携帯電話の番号そのものが載っていた。

「ここで携帯をかけてもいいですか」

「ええ、かまいません」

私は自前の携帯電話を取り出すと、目の前に書かれている携帯の番号にかけた。

わずかに隙間があくと、どこからかうっすらと音が聞こえてきた。

「こっちですね」

音を頼りに探すと、なぜかトイレにたどりついた。

私たちの耳の良さを議論するよりも先に、私たちで音が鳴るところに踏み込んだ。


「お前を家宅侵入の容疑で逮捕する。君には黙秘権があり……」

お決まりの言葉である『ミランダ警告』を聞き流している横では、双子の兄がトイレの便座の上に座らされていた。

床には一抱えぐらいありそうなスポーツバックと小さなリュックサックが置かれている。

明らかに舌打ちと思う"チッ"という音が聞こえてくるが、二人とも無視をした。

応援の警官も駆けつけ、そのまま簡易取調室に連れ込まれた。


「弁護士を呼んでほしい」

その一言だけを言って、それきり黙りこくった。

「やれやれ、当番弁護士を送ってくれるように弁護士会に電話をかけたよ。裁判所にも逮捕令状を発行してもらうように頼んできた」

「じゃあ、この数時間は、証拠調べでもしておきましょうか」

弁護士を呼んだ時点で、警察署に連れて行こうとしたが、車が途中で自損事故を起こしてしまい、替えの車を持ってきているところだった。

「証拠調べといっても、何が残ってる?」

「DNA検査は?」

「彼が自分で提供すると思うか?すでに彼に対して言ったが何も言わなかったよ。目も合わそうとしない」

「彼とは無理でも、彼女とはどうでしょうか」

私はざわざわして忙しそうにしている警官を見ながら、リーダーに聞いた。

「双子の妹か。すでに提出してもらっている分は使い果たしたし、何回繰り返しても瓜二つの答えしか出てこなかった。一卵性双生児でもない限り、彼ではなく彼女が犯人ということになるだろうな」

「指紋は出てこなかったんですよね」

「ああ、だが、どうして血痕がナイフの柄についていたかは、いまだにわからない。指紋が付いていなかったというのは、きっと手袋でもしていたんだろう」

「右手をさすっていますが、どこかでこけた拍子に云々と言い逃れは出来ますから、確固たる証拠にはなりませんね。検視報告では、ナイフによる心臓への一突きが死因とされてましたね」

「そうだ。花嫁が父親を殺すことができたとは考えられない。あいつのDNAさえ取れれば……」

リーダーがいくら歯噛みしようが、DNAを取ることは事実上不可能だった。


殺人罪で逮捕状を請求することは、まず却下されることがわかっていたので、不法侵入罪で請求していた。

弁護士と警察車両が到着すると同時に、逮捕状も届いた。

令状には『住居侵入等罪』と書かれていた。

「これで捕まえることは可能だからな」

「住所欄が空白になってますし、氏名欄も……」

「ああ、被疑者の本人確認ということで、DNAを提出……」

ここにきて、一つの考えが浮かんだようだ。

「そっか、その時提出したDNAを…」

私も考えたことをほぼ同時に口にした。

「でも、別に令状が必要になるんじゃないですか。今回の提出は『刑事訴訟法第64条』や『刑事訴訟規則第142条』などにかかわることで、証拠として採用されるためには『刑事訴訟法第218条』や『同法第219条』などが適応されるかと思いますよ」

「う…む……」

リーダーは腕組みをしたままうなり、考え込むように黙ってしまった。


警察車両に乗せられた彼は、パトカーに前後を挟まれて警察署へと運ばれていった。

弁護士は彼と同じ車に乗り込み、いろいろと話し合うようだった。

「やれやれ、やっかいなことになりましたね」

「弁護士を要求してきた時点で分かっていたことだ。気にはしてない」

ため息をつきながらも、どうやって攻めていくかを考えているようだった。

「DNAが取れれば、殺人のほうも進展することができるんですよね」

「そうだ。どうやってとるかが……」

「裁判所から令状を取る理由を…」

「仕方ない、申請してみよう。却下されるかどうかは判事が決めることだ」

背もたれに深くもたれかかりながら、電話をあちこちにかけ始めていた。


30分後、令状が届いた。

すぐにリーダーが取調室に弁護士と一緒にいる彼の元へと急ぐ。

リーダーが入ると、弁護士が立ち上がっていった。

「不法侵入のみで、勾留することはいかがなものかと思います。彼は謝って入ってしまったため、逮捕自体が不当であると思いますが」

「彼には現住所がありません。氏名も、すでに"死んでいるもの"として扱われている以上、法律上意味がないでしょう。それに住所がないものは法によって勾留するべしと書かれています」

「『刑事訴訟法第60条』のことを言われているのであれば、勾留してもいいという内容であって、勾留しなければならないという義務ではありません」

「それ以外にも、彼には容疑がかけられています」

「どのようなものですか」

弁護士は左まゆを上げてさらに反論しようとした。

だが、その口が開く前に、リーダーが言いきった。

「殺人罪です。彼は実の父親を殺したという容疑がかけられています」

「なっ…しかし、それは別の人であるということもあり得るのではないでしょうか」

「そうです。それで彼を容疑者から外すためにDNA検査をしたいと思うのです」

「外すもなにも、『無罪の推定』が働くと考えられますが。それに双子の妹がいるのでしょう。画像を見るだけでは彼女であるとも考えられないのですか」

無罪の推定とは、一般的には推定無罪と言われているものであり、有罪という判決が出ていない限り、その者を無罪として扱うという原則のことである。

「性別が違いますし、犯行時刻に彼女は多数の監視のもとにいました。彼女に犯行は不可能だと断定できます」

「本当に彼女でしたか」

「ええ、それは間違いありません」

「なぜそう判断できるのですか」

こちらが何か言えば、向こうがそれに反論を仕掛けてくる。

巧みな話術で相手を先に負かしたほうが勝ちなのだ。

ただし、理論が崩壊していてはいけない。

「胸がありましたから。彼よりも」

「ちなみに何カップなんですか」

「Cです…いやいや、そんなことよりも。DNAはもらいますよ。令状もとりました」

「どうか見せていただきたいんですが」

弁護士が急にまじめな顔に戻って、令状が入った封筒を見せるように手を差し出す。

「ええ、どうぞ」

リーダーが弁護士に令状を差し出す。

「……実父を殺した罪、証拠品に付着した血痕との照合用」

「理解していただけたでしょうか」

「理解はしました。DNAの提供に協力しましょう」

弁護士がうなだれるようにうなづくと、検査用の綿棒を持った人が取調室の扉を開けて入ってきた。

おそらく鑑識の人だろうと、一目で私は判断した。

「では、お願いします」

リーダーが鑑識を容疑者のもとへ連れてくると、口を開くように言った。

DNAを取るその間、重い沈黙が私たちの頭上に溜まっていた。


簡易検査をしてその結果は1時間ほどで出た。

今回はすでに検査が終わっている試料と合わせるだけだから、それほど時間がかからないのだ。

「で、結果は?」

私がファックスで送られてきた検査結果の用紙を私に見せてきた。

「まったく同じ…?」

「彼らは異性一卵性双生児ということらしい」

「しかし、それは可能なんですか」

「可能もへったくれも、目の前に現実として存在している以上、あるもんなんだろうさ」

「詳細検査が必要なんじゃないですか。ここまでくれば」

「2~3日はかかるな。もっとも、もう始めているらしいが」

リーダーがどうしようか思案している中、私も帰る準備を整えていく必要があった。

なにせ、新幹線の時間が迫っているのだ。


腕時計を確認して、ぎりぎりここに残れる時間を逆残する。

「残り、1時間です」

「そうか」

リーダーはおおざっぱにそういった。

「動機もわからない、犯人の目星は付いているが確証がない、DNA検査でも犯人を特定することができない。どうしろっていうんだよ」

「さて、一つ一つつぶしていきましょうか」

私はリーダーが吠えている真横で、何事もなかったかのように装い、作業を始めた。

「DNAが簡易検査で一致したということは、彼が犯人であるということを示唆していると思います。もう一方の一致した妹側は、結婚式にて衆人環視のもとにありました。犯行は不可能です」

「動機は?」

「さあ」

そればかりは私も推測するしかない。

「ですが、妹側に聞けば何かわかるのでは?」

「ああ、しっかりと聞いたが、なぜ殺されたかは分からないと繰り返すばかりだったんだ」

「…とりあえず、起訴はできるのではないでしょうか。DNA検査が一致しているのですし」

「あの弁護士がなんていうかわかるか?"DNAが一致したといっても、2名が一致しています。このような状況で、確実に彼が今回の犯行を行ったといえるのでしょうか。"ああ、そう言うに決まってる」

あの弁護士の声真似をしながら、どうしようもなくなったリーダーが私に聞いてきた。

「……今回は殺人だ。裁判員がどう考えるかも考慮に入れないといけない。どうやって攻めればいいと思う」

「最大の焦点は"なぜ"でしょうね。方法と犯人がわかっていても、どうしてしようと思い立ったのかということが謎では、裁判官もいいようにしないでしょうね」

「検察には、どうやって話せばいいか…」

「公訴事実には、防犯カメラに写っていた時刻を書いて、内容は今回の事件の大まかな筋書きでしょう。動機に関しては裁判までにどうにかすればよろしいのでは?」

「担当の検察官はそれで納得するだろうか……」

刑事事件の場合、検察官が起訴をすることができる制度になっているため、検察官が起訴できないとした場合は、裁判にできず、彼を釈放しなければならないということになっている。

だからこそ、ここまで検察官を納得できるかどうかで悩んでいるのだ。

「どうでしょうね」

その責任を私が負うことはできない。

検察官によって、起訴しようという人としないという人がいる。

「有罪にしたいからな。これで逃がすと、次は何をするか…」

「さあ」

私は肩をすくめて答えた。

その時、鑑識から電話がかかってきた。

「ああ、俺だ」

リーダーの携帯に直接かかってきたため、たったそれだけしか最初に言わなかったが、みるみる間に顔色が変わっていった。

「それは本当か!」

今すぐにでも小躍りしそうなほど喜んでいるが、私にはその理由がまったくわからかった。


電話を切って、すぐに私に伝える。

「動機がわかった。金だよ」

「お金ですか。捕まった時にあったあのカバンですか?」

「ああ、あの中には札束がぎっしり詰まっていたらしい。総額1500万弱にもなるそうだ。おそらくは、実父が金を持ってきていたのを聞きつけた彼が、金を奪いに来た。その時にもみ合いになってグサッと殺したっていうところだろう」

リーダーはそう言い切って、固定電話ですぐに電話をかける。

つながった先は、間違いなく検察だろう。


「公訴事実は、昨日、14時32分ごろ、実父を刺殺したことです。罪名は殺人未遂です。動機は、実父が持っていた1498万が入ったバックです。ええ、間違いないです」

電話を切ると、ファクシミリがすぐに作動できるように、付近のスペースを開けた。

「動機や殺害方法は分かりました。でも、バックはどうやって持って行くんですか」

私がリーダーに聞くと、あっさりといった。

「ああ、それなら大体わかってる。逃げるとき、どうしてあんな花嫁衣装をしていたと思う。あの下に多少大きなカバンを持っていても、誰も気づかれないだろう。トイレにいたのは着替えるためで、我々がすぐに駆け付けたのとホテルの警備が出入り口を封鎖したからデルに出られなくなったんだろう。これで、一件落着だな」

何か腑に落ちないような気がしたが、それは押し殺すことに決めた。


ファクシミリでブブブ…と紙が吐き出されると、ひったくるようにリーダーはすぐに留置室へ急いだ。

だが、私はリーダーについていくつもりはなかった。

時間が来たのだった。


再び新幹線に乗ると、車内前方にある文字ニュースに昨日の殺人事件の犯人が捕まったという話が流れていた。

「ヤレヤレ、これで、落着か……」

私は持ってきたカバンの中から読みかけの文庫本を取り出して、しおりが破産であるところから再び読み始めた。

なお、感想/批評などありましたら、問題編の方にお書き下さい。

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