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魔女と騎士との別れ、そして別れた後の話

ネリスは周囲を見渡して、申し訳なさそうに言う。


「――やはり、きちんと後で君たちに報酬を支払うべきだろうな」


いつの間にか銀色の炎は消え、闇のダンジョンの霧も晴れていた。薄暗いダンジョンの地面には、何一つ転がってはいない。


「いえ、『無償でアイテムを提供する代わりに、魔物の落とし物(ドロップアイテム)は俺がもらいます』、そういう約束だったでしょう?」


アイテム屋として、約束は破れません。

そう伝えると、ネリスは気まずそうに頭をかいた。


「すまないな。だが、ありがとう。この恩は忘れないよ」

「俺もいいもの見させてもらいました」


そんなやり取りの最中、ミリアがうろうろと歩いていた。


何をしているのかと見守っていると、彼女は突然しゃがむ。


「ちょっとあんたたち、来なさいよ」


何か見つけたに違いない。ミリアの真剣な様子に、俺の胸は期待で高鳴った。


俺は力尽きたテナを抱きかかえて急いで駆け寄る。


「これは……!」


それを見つけた時、俺は何とも言えない気持ちになった。

死線をかいくぐった果ての報酬としては、どうなのだろう。

いや、命さえあれば儲けものか。


「ルウィン、多分、一応、ドロップアイテムだが……」

「まあ、何かの役には立つんじゃない? 多分……」


二人は控え目にそう言って、俺に拾うように促す。

俺はありがたく頂戴することにした。


「では、確かに俺がいただきます」


まあ、俺だって腐ってもアイテム屋だ。

価値が無いなら与えればいい。



New !

(わら)しべ ×1


なんてことはない、一本の藁しべを手に入れた。実に感慨深い。


「それにしても、よくこんなものを見つけましたね」

「まあ、一瞬あの龍が何かを落としたように見えたから」

「なるほど、俺のために……」

「ば、違うわよ!」


急に、この藁しべの価値が跳ね上がったように感じた。


ミリアが俺のために探してくれた、たった一本の藁しべなのだ。


「でもまあ……あんたも頑張ってたからね」


ミリアがはにかんだ顔を、俺は初めて見た。


「決めました。絶対に売りません」

「いや、売れるものなら売ってみなさいよ」



§ 地上への帰還 §


地上に戻ってから、ネリスは「聖水とポーション代には足らないが――」と俺とテナに好きなだけごちそうしてくれた。

お値段以上の感謝の気持ちを受け取って、俺も大満足だ。


「ネリスさん、ミリアさん、ごちそうさまでした。

 またどこかでお会いしましょう」


食事を終え、二人に別れの挨拶をする。

ネリスは名残惜しそうにしていた。


「ルウィン、君のように勇敢でおかしなアイテム屋は初めてだった。また会えるといいな」


ネリスはそう言って、再び俺に手を差し出す。


「ネリスさんとミリアさんこそ、英雄に相応しい冒険者でした。今後ともごひいきに」


俺はその手の力強さを感じるのだった。

ネリスとの固い握手の一方で、テナとミリアは――


「気を強く持つのよ、テナ」

「にゃあ……」


――女同士の友情を確かめ合っていた。


「あんたのおかげで助かったわ。

 ネリスも怪我が少なくて済んだし」

「こちらこそ……ありがとにゃぁ……」


「あ、あんた……やっと喋った……!」


感極まったのか、ミリアはテナを抱きしめた。

二人を見ていると、友情とはいいものだと改めて考えさせられる。

さて、そろそろお(いとま)しなければ。


「テナ、そろそろ帰ろうか」

「はいにゃ」


俺は偉大なる冒険者二人に向き直り、いつもの適当な挨拶をする。


「死地へと歩みを進める限り、このアイテム屋、ルウィンがあなたを支えます」


生きていれば、また会うこともあるだろう。

願わくば、二人の英雄と再び会わんことを――



§ 後日談 ネリスとミリア §


「それにしても、警報中のダンジョンでアイテム屋に出会うとは思わなかったなあ、ミリア?」

「とんだ自殺志願者もいたものね」


アイテム屋のルウィンと別れた後日、ネリスとミリアは冒険者ギルド内で食事をしていた。


「そういう意味では私たちも変わらないだろう? 実際、今回のクエストは危なかった」

「並みのA級冒険者では手も足も出ないわけよ。

 放置していたら『魔王化』もあり得た――」


ミリアはネリスの目を真っすぐ見て続ける。


「――それぐらいヤバい敵だったのに」

「だったのに?」


ミリアは人差し指をこめかみに当てて、在りし日を思い出していた。


「ルウィンの奴、『サービスサービスぅ!!!』とか言って!」

「あっははは! 似てるぞミリア!」


「ばか……死活問題だったっての!

 惑わされないよう必死に詠唱してたわよ……あたしは」


「ははは……いや、すまない。だが、あれで彼も必死だったんだ。私もルウィンのサービス精神のおかげで、力が湧いたものだよ」


ネリスとミリアが冒険の中で出会った奇妙なアイテム屋との思い出を語り合っていると、一人の冒険者が歩み寄ってきた。


「なあ、あんたたちだろ! 闇のダンジョン警報を解いたの! 俺にも話を聞かせてくれよ!」


さて、一人が声をかけるとどうなるか。

当然我も我もと人は集まり、ネリスとミリアは袋のネズミだった。


「闇のダンジョンで死霊たちに囲まれたのを思い出すわ」

「あっはっは……縁起でもないな――」



ネリスとミリアは未来の英霊たちに語る。


騎士と魔法使いが出会った、奇妙なアイテム屋と猫人の物語を――。

ネリス「私たちの活躍もこれで終わりか」

ミリア「何言ってんの。まだまだ出番はあるわよ」

ネリス「本当か!」

ミリア「……あたしは、ね」

ネリス「なに!? くそ、なんとしてでも出てやる!」

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