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飛行中の災害

その少女は、草のダンジョン第1領域『深緑回廊(しんりょくかいろう)』を歩いていた。


彼女の名はアルメリゼ=レゾン。

ダンジョン冒険者としてはまだ日が浅い。


彼女の燃えるように紅いショートヘアが歩くたびにふわりと揺れている。耳の上あたりに添えられた4枚の羽飾りは、紅を薄めた淡い色で、その髪をささやかに彩っていた。


「むぅ……」


アルメリゼは短槍を持った手で頭を押さえては離すことを繰り返す。が、何度やっても頭のてっぺんで髪の毛がぴょんと跳ねてしまうのだ。まるで触角のようである。


「寝癖とは、どうしてこうもままならないのです? そもそもこれは寝癖と呼ぶべきものなのですかね……?」


他人がその姿だけを見れば、ただの少し変わった少女に見えるだろう。しかし、その背中に生えた大きな翼を見たならば、誰もが彼女を翼人(つばさびと)だと知ることになる。


「言うことを聞かない髪の毛ですね……」


そう言いながら、彼女は回廊を進む。



「せやぁッ!!」


アルメリゼはその手に持った短槍を振っては、時折襲い掛かってくる植物系の魔物を穂先の刃で切り払っていた。


「抜け道は……もう少し先でしたか」


近くにいた魔物を一掃すると、翼の少女は地面を蹴り、その勢いで地面すれすれに飛行。そのまま、複数湧いていたモンスターたちを振り回す槍で切り刻んでいった。


飛行中、アルメリゼは奇妙な違和感を覚える。


「なんです……?」


少し前の方に見える地面に生えているなんてことはない草――その根元あたりに、長い縄がくくりつけられているのだ。縄はピンと張り、今にもその草は引き抜かれようとしていた。


「罠……!?」


少女がその草から少し離れたところで止まった瞬間――


ずぽっ


――その草は引き抜かれた。


「ひぃ……!」


アルメリゼは思わず小さく悲鳴を上げる。


その草の太い根っこには、人のような顔がついており、その口はわなわなと震え、今にも叫びそうな表情をしていた。


というか、叫んだ。


「ペギゥイウ゛ェア゛アァウエオォ゛ォオ゛オ゛オオヴェアイ゛エェェ゛ッ!!!!」


草は泣いた。いや、悲鳴()いた。

その悲鳴を喰らったアルメリゼは――


「きやあ゛あ゛あぁぁぁぁぁ!!!!」


――絶叫した。



§ 冒険者ギルド §


いつものように冒険者ギルドに足を運ぶと、ギルド内にも関わらずテナが歌い始める。どうやらご機嫌らしい。


「あっつあっつエッルフ♪」

「どうした、その歌」


俺が聞くと、テナは急にすんと視線を落とす。


「わかんない。夢に出てきた」

「ああ、かわいそうに」


いや、他人事ではないか。

熱々エルフの二人や凶刃キャルは、既に俺たちの住み家を特定している。今後、夢ではなく現実で現れることも増える気がしてならない。


「今度、ミリアさんとネリスさん、あとウォロクおじいちゃんも一緒にお茶でもしようか」

「いいねーそれ!」


テナがあからさまに上機嫌になるので、俺は思わず苦笑した。



ギルドの受付まで行くと、受付嬢のニーナが笑顔で手を振ってくれている。


「こんにちは。ルウィン君、テナちゃん。最近大活躍中ですね」


嘘偽りのない賛辞にテナが「うん!」と元気よく返事した。


「でもこわいのやだ」

「そうですよね」


ニーナがちらと俺の方を見てくるので、俺も後ろを振り返ったが誰もいない。


「ルウィン君、そういうのはいいですから」

「あ、はい」

「テナちゃんを守ってあげてくださいね」

「もちろん。命に代えても」


まあ、二人まとめて龍の吐息(ブレス)を受ければ守りようもないが。そんなことを思っていると、ニーナが「こほん」と咳払いする。


「そういうセリフをためらいもなく言わないでください。もう……」

「え? いや、テナがいないと俺も何度死んだことか分かりませんし」


「はあ」深くため息をつくニーナを見て、俺はテナと一緒に首をかしげた。何がいけなかったのだろうか。


「初めの頃はもう、どうなることかと思いましたが……二人ともこうして元気でいてくれるのが、私は嬉しいです――」


【ダンジョン警報発表中】


・地:平常

・水:平常

・火:警報(A級以上推奨)

  ―『小鬼の火祭』

・風:平常

・雷:平常

・草:注意報

  ―『マンドレイクの春』

・氷:平常

・毒:平常

・光:平常

・闇:平常


「――火のダンジョンにて火を扱うゴブリンが大量発生していますが、そちらは専門性の高いB級冒険者の方とA級冒険者複数名で対応に当たっています」


テナが「それなら安心、安全だね! うんうん、任せよう!」と首を縦に振った。


「それでいいのか、テナ」

「いいに決まってるもん」


まあ、火のダンジョンはそれで大丈夫なのだとして――


「――草のダンジョンって、まだ注意報が続いてるんですね」


最初に発表されてから、かなりの日数が経っている。

いったいどういう状況なのか。


「それが、マンドレイクが大量発生しているだけで、それによる被害が報告されているわけではないんです。マンドレイクは人を襲ったりはしませんし……ただ、行方不明者は平常時よりも若干多いので注意が必要、といった状況です」


テナが「マンドレイク?」とはてなを浮かべていると、ニーナが詳しく説明し始める。


「マンドレイク――引き抜くと世にも恐ろしい悲鳴を上げて、聞いたものを死に至らしめると言われている植物なんです。見える部分は普通の草花みたいに見えますが、地面の中には小さな人のような姿をした本体が埋まっているんですよ」


「こわい」テナは自分の耳を折りたたんだ。


「うふふ。でも、必ず悲鳴を聞いて死ぬわけじゃないんです。聞いた人が発狂したり幻覚を見ているすきに、他の魔物に襲われたりして死んじゃうそうです」


「こわい」今度は尻尾を俺に巻きつけてきた。


……それにしても、大量発生している理由は何なのだろうか。

もし、何か良からぬことが起きる前兆だとすれば、俺に何ができるだろうか――

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