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エルヴン・シュート

§ 氷のダンジョン 第4領域 『琥珀遺跡』 §


俺はテナと共に、広々とした遺跡群の中を滑雪板(スキー)で滑っていた。


ちなみに、シルヴィアとそのメイドのスーシーはというと――


「このお爪、快適ですわー!」

「奥様ー! お待ちになってー!」


――二人して足に鉄猫爪(アイゼン)をつけて、俺たちの後ろを走っていた。思った通り、かなり運動能力が高い。シルヴィアに至っては余裕といった表情で走っているし、スーシーもなんとかついてきている。


つまるところ俺たちは、シルヴィアの弓を取り戻すべく危険を冒して外に出たのである。


『わたくしの愛する弓の一張(ひとはり)です』


シルヴィアはそう言っていたが、

『愛する弓ならなんで放置したんですか!』

と尋ねると、


『つい遺跡探検が楽しくなって~!』

などと弁明していた。楽しいのは分かるが。


それにしても、『光輝の大長弓(ウルスラークス)』……一体どんな弓なのだろうか。それを扱うシルヴィアさんの実力やいかに。


『お二人は戦闘経験がおありなんですよね』


『地上ではぶいぶい言わせておりましたわ! ……ほんの少し昔のお話ですが』

『奥様ほどではありませんが、私も少々』


二人は妙に強そうな気配を漂わせていた。氷漬けの時はみじんもそんな感じではなかったのに。能ある龍は牙を隠すといったところだろうか。


と、その時。

第4領域の広大な空間に大きな叫びが轟いた。


〈ギュゥゥルルルルッ!!〉


ダンジョンが震える。

龍だ。龍の姿が遠目に見えた。暴れているが、苦しんでいるようにも見える。こちらにはまだ気がついていないらしい。


「ルウィンッ!!」

「え……」


テナの声と共に、俺の身体が何かに突き飛ばされた。


(何が起きた……?)


テナだ。テナが俺を突き飛ばした。何のために? 決まっている。俺のためだ。


巨大なつららが、俺を押し出したテナに頭上に落ちようとしていた。ダンジョンが揺れたから? 今はそんなことはどうでもいい。


(何だ……ぜんぶが、遅い)


冒険者の多くは、死に近づいた瞬間に世界が止まったかのような錯覚を覚えるという。俺には縁がないと思っていたが、これがそうなのだろうか。


そんなことを考えながら、俺は手に持っていた雪上細剣(ストックレイピア)を手放した。


「テナッ!!」


俺はほとんど無意識で背負い箱に手を伸ばし、長縄を取り出す。投げた縄をテナが掴むのを確認し、俺は思い切り引っ張った。


「……ッ!」


俺たちは見事につららを回避し、崩れ落ちるように白い地面に倒れこんだ。すぐに後ろからエルフたちが追いついてくる。


「お二人とも!」


シルヴィアが駆け寄ってくるので、俺は「無事です」と伝える。と、「わたくしも今のやってみたいですわ!」という見当違いな回答。


「だめです」

「いけず!」


一方、テナは「ルウィン……だいじょうぶ?」と心配そうに俺の腕に触れた。


「大丈夫だ。ありがとうな。だがテナ……そういうのはだめだ。お前自身も助かるような方法じゃなきゃ」


「じっとする方がこわかった」


「なら仕方ないか」


俺とテナは支え合いながら立ち上がり、取れた滑雪板(スキー)を足につけ直した。


「奥様!」とスーシーの声がしたので振り向くと、そりを引っ張ってきたノーム3体がそこにいた。そりの中には、一際目立つ大長弓が見える。


大きい……俺二人分の長さはあるな。


「わたくしの光輝の大長弓(ウルスラークス)!」


シルヴィアが子どものようにはしゃいで取りに行くと、再び大きな振動がダンジョンに響いた。


〈ギュゥゥルルルルッ!!〉


今度は何だと再び振り返ると、首を持ち上げた蛇のような動きをする巨大な龍がいる。


「「近ッ!」」俺とテナは同時に叫んだ。


一歩間違えば気づかれてしまう距離……そして、俺は一瞬目を疑う。


(えらがある……水棲の生き物の特徴だ。長い背びれもまるで魚のものに見えるが……)


「…………ん?」


今度は別のことに目を奪われた。見間違いかと思ったが、どうやらそうではないらしい。テナも「にゅん」とその姿を見つけたようだった。


「キャルさんなんで!?」


凶刃――キャルライン=アバレストが長大な龍の背に剣を刺し、張り付いているのが見える。全身凍って動けないようだがなぜだろう、ぜんぜん死んでいるようには見えない。


「ともかく、遺跡の影に隠れましょ……なッ!」


それは初めて見る弓の構え方だった。


(弓って、手で構えるよな……?)


クリーム色の長髪をした美しいエルフが、大きな長弓に片足をかけ、後ろ蹴りを入れるような姿勢で弓を引いている。


(凄まじいバランス感覚……それに矢も長い……まるで槍だ!)


片足立ちの奇妙な姿勢、なのにどうして様になる……それはきっと、これまで何度も繰り返してきたからなのだろう。


「ゆきます――」


シルヴィアは龍に狙いを定め、弓を引き絞る。弓の弦が張り詰めると、弓は唸るように低い音を出した。


「――エルフの蹴撃(エルヴン・シュート)!!!」


極限まで張り詰めた力は解き放たれ、冷気を切り裂く音と共に矢が空中を駆け抜ける。それは龍の喉元めがけて真っすぐ突き進んだ。


「「刺さった!!」」


俺とテナは二人して叫ぶ。と、同時に龍も悲鳴を上げて倒れていく。逆鱗(急所)に刺さったのだ。


〈ギュァァゥゥゥルルッ!!〉


龍の鱗を突き破るほどの威力を出せるなんて――


「――どう見積もってもA級以上だ」


龍が倒れたのを見届けて、俺はすぐさま振り返る。


そこには、(くう)を蹴る姿勢で残心する歴戦のエルフの姿があった。

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