2
……………それにしてはやけにオフィス内が静かすぎる。
私以外にも残っている社員もいるはずなのに、それに、警備員の巡回とかで声かけてくれるはずなのにまだ来ていない。
とりあえず、頼まれた仕事は片づけたし早く彼女達と会わないと。
パソコンの電源を落とし、帰り支度をする。
恐る恐る出ると廊下は不気味なぐらいに暗く静かだ。
いつもなら廊下の電気がついているはずなのにおかしい。
ロインにメッセージを送ろうとした時だ。
ひたひたと足音が聞こえてくる。
警備員かなと見ていると暗闇の中から出てきたのは……………。
「……………え」
黒ずくめの………、いや、黒子と言った方がいいか全身真っ黒の衣装を纏い能面を付けているモノ。手には暗がりでも分かる鋭利な鉈。
明らかに不審者だ。しかも、狙いが私だとすぐに分かる。
「……………あっ」
逃げないと頭の中では分かっているのに体が動かない。まるで金縛りにあっているかのようだ。
ひたひたとこちらにゆっくりと近付いてくる。
「……………あっ、あっ」
唇が震えて上手く言葉が出てこない。
早く助けを呼ばないと早く、早くはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく。
「た、た、たす、けて」
なんとか振り絞ったように発した言葉。
目の前まで来たナニカが鉈を振り落とそうとする。
もう駄目だと思ったその時。
「はい、助けます」
ガキンと鈍い金属音が鳴り響くと共に倒れこんだ。
固い床に倒れた為、頭を打ったが先程の金縛りは無く直ぐに痛みで頭を抱え込んだ。
「明衣さん、大丈夫ですか?」
いつの間にか傍にいた南が心配そうに見てくる。
……………いや、本当にいつの間にオフィスに入ったの?
セキュリティがあったはずだけど??
「それよりもあれ、かなり厄介ですね」
怪我がなさそうなのを確認した南が違う方向を見る。
そちらを見ればそこには鉈を振り回すナニカと対峙する北斗の姿があった。
……手には金属バットを持って。
「ありゃ、ハズレを引いちゃったか。親友、大丈夫?」
鉈を回避したりいなす彼女の顔は余裕そうで面倒くさそうな顔をしている。
壁には鉈で作られた傷が作られていくのをチラッと見る。
「大丈夫だけど、オフィスの壁の修理代って経費で落ちるっけ?」
「うん。大丈夫だね。経費は京華さんに相談しよー」
とこんな時まで呑気に会話する彼女達の方がよっぽど変ではないか?
ナニカと対峙する北斗は相手の隙を狙って脇腹に強烈な一撃を入れた。
ドゴンととても痛い音がしたと共にゔっと呻き声が響き渡る。
「え、手応えあり??」
北斗は戸惑いの声を上げた。
感触があるのは良い。だって、これが妖であれば別に問題ないのだけどこの感触は……………。
一撃を喰らったナニカは後ろによろめいて、そのまま消えてしまった。
廊下の電気がついて、やっと危機が去ったと確信した南が私に語りかけてくる。
「はーい、明衣さん。ちゃんと呼吸しようか。ずっと息止めちゃっているから」
はっと我に返り、ごほっと咳をしてしまった。
そう、さっきまで無意識に息を止めていたようだ。
はい、深呼吸深呼吸と背中をさすってくれる南の指示に従ってゆっくりと呼吸をする。
「うんうん。上手ですねー」
「き、君たち」
「無事で良かったです。助けるのが遅くなってすみません」
北斗も歩み寄ってくる。先ほど持っていた金属バットではなく、最初に持っていた紫に包まれた物を持っていた。
「助けてくれてありがとう。だけど、君たちどうやって入ったの?」
「それはなんやかんやしてですよ!」
すっごくはぐらかされたが、助かったので追及しないでおこう。