第二話 加速する悪意
「で、それを私に話してよかった訳?」
「うん。南ちゃんにいいよって言われているし」
オフィス内にあるカフェにて同僚であり友人の一人である山澄紅葉に昨日会ったことを話した。
茶髪のショートヘア、色白で花がデザインされたイヤリングをつけている。
本人曰く、ピアスが怖いと言う単純な理由でイヤリングにしているのだと言う。
彼女は私の事情も分かっていて、この頃起きている怪奇現象のことにも理解をしてくれる友人だ。
「でも、本当に大丈夫なの?あんた、本家の奴らとはあまり仲良くないじゃない」
「まあ、あまり近寄りたくはないけど今のままだと危ないって言われた」
あの後、南からのお守りを貰って解散しようとしたがなんか怖くなちゃって二人とも泊まってもらった。そしたら、朝起きたら二人とも起きていて朝ご飯とか用意してくれててなんだか申し訳なくなった。
出勤の時も一緒に来てもらって会社の玄関前で別れたけど、退勤時間になったら近くのカフェで待っているねと言われた。
「ふーん。まあ、怪奇現象が起きていて、それも解決できるならいいと思うけど」
「そうなの。だから休日は本家に行くのと念のために二日間有休を取ったの」
まあ、気を付けて行ってきなさいと言われた。
やはり、彼女に話をしてよかった。あの二人にこんなの曖昧な話できないし。
そう思っていると後ろから声を掛けてくる。
「天井利。お前、今週末は出かけるのか?」
「あら、気になるの?不動君」
振り返った先にはこちらも同僚であり、上司の不動晴見が立っていた。
ビシッとスーツを着て、長身に鍛えているのか体格がいい。黒髪の短髪は整えられ、強面であるが面倒見がよく容量がいいので会社でも一目を置かれている存在だ。同僚である為かよく話しかけてくれる。
「まあ、この頃のお前の周りっておかしなことばかりだろ?」
「ああ。成程」
「何かあったら気が気じゃないからな」
成程、同僚として気に掛けてくれているのか。そういえば、植木鉢が落ちて来た時に不動と一緒にいて心配されたっけ。
「大丈夫。休日は実家に行くだけなの」
「実家?」
「うん。呼び出されちゃって」
そんな話をしていると誰かに呼ばれる声がしてくる。
上司が仕事を頼みに来たようだ。
「はあ、今日は残業かな」
やれやれと溜息を付いて席を立つ。
そんな姿を見送った二人。
「……………あの子、大丈夫かしら?」
ボソッとそう呟く彼女に晴見はそのことを問う。
「大丈夫っていうのはどういう意味だ?」
「ここ最近のあの子の周りでおかしなことが起きているでしょ?しかも、植木鉢が落ちてきたって言っていた。一歩でも間違えれば大怪我だったのよ。しかも、上を見ても誰もいなかった」
怪奇現象が続いていてしかも悪化している。
「……………本当に守ってよね」
「何か言ったか?」
「何でもないわ。さて、仕事に戻ろうっと」
紅葉もそう言って席を立った。
そして、夜の20時。
日は下がり、月の光が辺りを照らしている中で外は帰りの人が街を歩いている。
そんな人達とは別にデスクで仕事をしている私。
周囲の社員はもう退勤しており、何故か上司も帰っている。
部下に仕事を押し付けて自分は帰るとはひどい上司だな。ハゲてしまえばいい。
そう思いながらも書類を処理していく。
スマホの中では無料通信アプリであるロインにIDを交換した南からメッセージが届いており、その中身には。
『決してお守りを手放さないようにして下さい。何かありましたら助けてと叫んで下さい。後、明衣さんがオススメしてくれたカフェのイチゴのミルフィーユが絶品過ぎて感動してます。他にもオススメ教えてください。お願いします!』
そして、土下座する兎のイラスト付きできた。今どきの女子高生だなぁとほんわかになる気持ちになった。