最終話 カエル物カエス者の本来の意味
「蛙石というのは、生き物のカエルの形をした自然石のことをいいます。その姿から幸運がかえるや若かえる、無事にかえるなどと言った縁起物なんですよ。これは円佳さんが特注した。そうですよね?辰見さん」
「……………はい、おっしゃる通りでございます」
ここまで口を閉ざしていた辰見が話し出す。
「円佳様がお嬢様に遺すために準備をなさっていた時のことでございます。蛙石が運び込まれた際に庭師に指示をしてあの庭になりました」
「……………もしかしてですけど、あの庭って何か思い入れがある場所ではないですか?」
「はい。あそこは円佳様と冬紀様が一緒にお過ごしになった場所です」
「確かによく冬紀さんと一緒にいたな」
壮馬も頷く。
「カエル物の意味がもしかしたら違うのではないかと思うんです」
「意味が違う?」
「まあ、これはあくまでも私の考えですけど遺言状の言葉を交換するとカエス物カエル者になる。変換したらこんなになります」
いつの間にか持っていたスマホの画面を見せてくる。
「返す物、帰る者」
返すは愛人の子どもたちが天井利家の全てを明衣に返すこと。
帰るは明衣が本来の場所に帰ってくると意味ではないだろうか。
先ほど言ったように蛙石には無事にかえるという意味がある。
何にも煩わせることのないように、本当の家に帰ってこれるようにということではないだろうか。
「本来はどういう意味であれ、明衣さんのことを最期まで心配した円佳さんが遺したものなんでしょうね」
「…………………………っ、わたし」
知らなかった。母が自分のことをずっと思っていたなんて。
「壮馬さんはこのことを?」
「いや、蛙石に関してだけだ。もし、期限が迫ったときは石を割ってくれと言われた」
「保険はかけていたんですね」
流石、天井利家のご当主さまだ。抜け目は無いと南はその手腕に舌を巻いた。
こうして、天井利家で起きた事件は幕を閉じた。
壮馬が入ったことであっさりとあの二人は天井利家から出ていった。
色々とグタグタと言っていたようだが、彼が二人に何かを話すと青褪めて素直になったのだ。やはり、何かやましいことでもあったようだ。
また、鶫家とも縁を切った。母が遺した書類やこの事件が決定打になった。
そして、これからのことを話した。
遺産のことも壮馬が頼んだ弁護士とともに色々と相談して、私は壮馬と分けることになり、母の想いも分かったから相続することにしたのだ。
「…………………………お母さん」
人形の帯に入っていた紙に書かれていた銀行に行くとそこの支店長と会い、母が遺したものを目にした。
そこには私のアルバムや父である冬紀との思い出の品ものが保管されていた。
母が遺してくれた手紙もあり、こう書かれていた。
『明衣へ
これを読んでいると言うことは、私はもうこの世にはいないのでしょう。
まず、母親のくせになにもできなくてごめんなさい。壮馬から送られてくるあなたの写真を見るたびに嬉しい気持ちでいっぱいになっていました。
本来であればあなたの成長をこの目で見ていたかった。あなたとおしゃべりをしたかった。もう言葉にすればどんどんとあなたとのことを想うばかりです。
明衣と言う名はあなたの本当のお父さんである冬紀さんが考えた名前です。明るく生きてほしいという意味が込められています。どうか、あなたはあなたらしく生きてください』
日記には。
『〇■年▲月□日
……………本当は死にたくはない。明衣に会いたい。話をしたい。でも、あの悍ましい何かが無くなったことで明衣に何かあったら死んでも死にきれない。冬紀さん、神さま、どうかどうか明衣をお守りください』
母の想いが籠ったものばかりだった。
これらの品は全て私の手元にある。
そして、部屋も引っ越しをした。壮馬が盗聴器の件を聞いて直ぐに手配をしてくれたのだ。
セキュリティが万全な目が飛び出るような金額のマンションに。
壮馬もそうだが、叔母に当たる知美も心配していつでも近くで来れるようにと色々と考えてくれたようだ。




