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「さてと、親友。剝ぎ取ってくれる?」
「うん」
その言葉を聞いた犯人が暴れ出すが、そんなのお構いなしにがしっと面を掴んで容赦なく引っ張る。
べりべりとまるで皮が剝がれるような不穏な音がするが、お構いなしに北斗はそのまま剥ぎ取った。すると、お面が見る見るうちに毛皮へと変わっていく。
黒がかかった茶色の毛。どう見ても動物の毛皮にしか見えない。
そして、その面の下の顔に皆が驚愕する。
「平安時代、鵺を討伐した際に作り出された死物。姿かたちを変えることが出来、化け物のような力を手に入れる」
しかし、それはリスクを伴う危険なモノでもある。
「さて、ミステリー小説の探偵のように推理ショーをしましょうか?」
ねえ?鶫キヨガさん?
そこには苦しそうに藻掻くキヨガの顔があった。
「き、キヨガ!?」
「嘘でしょ!?あんた、義子の婚約してたじゃないっ」
二人の動揺が広がる。しかし、それは私もだった。
警察署内では犯人は明かさずに罠を張りたいと言ってきて、今に至るのだが。
まさかの犯人に驚きを隠せない。
「……………いつから気づいていた?」
恨めしそうな顔をしてキヨガが南に問うと彼女はあっさりと答える。
「うーん。怪しいなと思っていたのは最初からです。会ったときの貴方はこう言いましたよね?」
『黒翼』の?って。それから貴方のことは疑っていました。
「そ、それがどうした?だって、お前たちは『黒翼』から来たんだろ?」
「おー、墓穴を再度掘ってくれましたね。実はですね。ここに来てから私も親友も一度も『黒翼』とは名乗ってないんですよ」
「…………………………は?」
その言葉に目を見開く彼。
「た、確かにボディーガードだって」
「てか、『黒翼』って何よ」
兄妹の言葉に目を瞠った。……そういえば、彼はあの場にはいなかった。
私も気づいていなかったが、確かに二人とも黒翼とは名乗っていなかったな。ボディーガードというだけで誰も突っ込んでこなかったのが不思議ではあるが。
「まあまあ。あまり、組織のことを言うのも変に刺激するかもってことで言わなかったんですよ。でも、おかしいですねー。初めて会ったのになんで貴方が私たちを『黒翼』の一員と知っていたのか」
答えは簡単。聞いていたから。
「明衣さんに許可を貰って部屋を確認してもらったら案の定、盗聴器が見つかりました」
「~~~~~~~~~~っ!!」
「購入履歴を辿ると君であることが分かった。まあ、物的証拠は出てきたから言い逃れはできんが」
砂守がそう言うとぐっと歯を食いしばって黙り込んでしまった。
そんな中で猿彦が口を開く。
「で、でもよ。動機は何だよ」
「そ、そうよ!」
「まあ、お二人にしては訳分からないですよね。答えは簡単です」
復讐。そして、天井利家の莫大な財産を手に入れるため。
「ざ、財産?」
「キヨガは天井利家のモノじゃないのよ!?」
「まあ、そうですね。でも、彼はとある血を受け継いでいるんですよ」
「…………………………とある血?」
「はい。それは前当主に婿入りした大尊さんの血。貴方は」
大貴さんたちのご兄弟ですよね?
「は……………。キヨガが兄妹!?」
「う、嘘よ!だって」
「調べたところ、三女の義子さんは実は双子でその一人が……、あなただった」
鶫靖巌。愛人が産み、鶫家で育てられた子ども。
「は?はあ!?」
「あ、有り得ないわ!だって、ママはそんなこと!!」
「まあ、言えるはずないでしょうね。鶫家と天井利家の圧力がかかっていたのだから」
そして、これまでのことを説明する。
天井利円佳との血縁関係が明衣だけのこと。そして、天井利家と鶫家の取引。
子どもたちの名前に遺言状、遺していったモノのこと。
「最初は昔話とからなぞらえていると思っていました。でも、蛇がどうにも引っ掛かった。まあ、全部が嘘、偽りという意味があること。そして、分かったのは貴方の名前だった」
「靖巌という名前がか?まあ、確かに珍しい名前だとは思ったが」
「昭牙さん。この名前を付けたのは円佳さんではなかったですか?」
不意に後ろに立っている昭牙を見る。もう、彼の顔が真っ青になって、カタカタと震えている。
それもそうか。隠していた真実を暴かれているのだから。
「はい……………。その通りです」
「靖巌………。この靖の字には青、巌は大きな岩、険しい岩という意味があります。……そして、鶫。これらを連想するのがあるんです」
「青と岩と鶫で?」
「ええ、とある鳥の英名の意味で『青い岩のツグミ』。和名で言うとイソヒヨドリ。まあ、これだけではよく分からないかもですけど別に『トラツグミ』っていう鳥がいるんです」
「……………そうか。だから、鵺か」
そう。トラツグミのさえずりは独特で不気味な鳴き声から鵺のモデルとなったともされている。
「四人の名前を合わせると鵺を表していると分かりました」
「なるほど。しかし、何故こんなことを?」
坂又は納得したように頷くが、動機がいまいち分かっていないように呟く。
「まあ、鶫家での不当な扱いを受けていたようですし。そんな中で天井利家の兄妹は苦労せずに生きているのを見て、劣等感を覚えた。で、その中には明衣さんも入っていた。天井利家の正当な血統であり、大人に守られていた。嫉妬もしたんでしょう」
その言葉に琴線が触れたのか靖巌が口を開く。
「ああ、そうだよ。ガキの頃から愛人の子どもっていうだけで見下されて、こき使われて。あの女は一人だけ逃げやがって。天井利家に行けばどうだ?俺と同じ愛人の子どもの癖にいい生活しやがって」
「成程。ちなみに何で死物の存在を知ったの?」
「……………蔵の中で仕舞われているのをたまたま見つけた。最初はそれで恐怖心を煽って天井利家から追い出し、響子を操って家を乗っ取ろうとした。けど」
「その存在に気づいたのがいた」
「天井利円佳か?」
「そう。円佳さんは死物が無くなっていることに気づいたけど、誰が盗んだか分からなかった。まあ、疑うのが多かったから。そして、明衣さんに危険が迫っていると考えて黒翼に依頼した」
まあ、死物を使用時に基本的には使用者は即死するんだけど今回は運がよく、適用してしまったってのもあるかもと南は続けて言う。
「……………俺は殺してない」
「そうでしょうね。円佳さんは病死で間違いない。けど、彼女の遺した遺言状がこの事件のきっかけになってしまった」
「ああ、遺言状からしても俺達のことを言っているのが分かったんだ」
靖巌はカエル物カエス者の意味を換える物、帰す者と考えた。
換える物は交換する。つまり、この家や財産を本当の後継者に渡すと言う意味。
帰す者は自分を含めた愛人の子どものことを示し、天井利家から出て本来あるべき場所に帰れという意味。
それが分かり、もしかしたら探していたモノの中に愛人の子どもたちのことや天井利家の血が流れていないことなど自分に不都合なことが書かれているかもしれない。だから、明衣を脅迫し、遺産相続の放棄を促すことにしたのだがここで思わぬアクシデントが発生した。
それが大貴である。彼はキヨガが自分の弟だと何かで知ってしまい、脅迫してきた。次に義子に関しては死物を見つけてしまったから二人を殺した。
それに死物を使えば、自分が犯人だと分かるまいと計算していたのだろう。
「なんということだ……………」
自分勝手すぎる。遺産の為にこんなことをしたのか。
考えられない犯行理由に立ち尽くしてしまった。
「まあ、話は署で聞こう」
拘束を警察に代わってもらい、北斗は死物である鵺の毛皮を南の方へ差し出す。
「親友。これ、しまっちゃおう」
「はいはーい」
何処から取り出したか分からないアタッシュケースに仕舞う。
よし、封印完了と言って南は私の方を見る。
「折角ですし、遺言状の答えを見ませんか?」
「え?」




