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1-13 我々にはうってつけの人材ですな



 さて。銀行強盗やら妖精やらの騒ぎから約十日が過ぎた、至って平々凡々な一日になるはずだったある朝のことだ。


「――はい、ああ、そういうことですね。なるほど、年齢を考えれば仕方ありません。いえ……正直大丈夫、とは言えませんがこちらでも人を当たってみましょう。わざわざご連絡ありがとうございます、大尉殿。それでは失礼」


 朝っぱらから机に鎮座する魔導電話が鳴り響き、コーヒータイムを妨害してくれやがったのはいったいどいつだ、と受話器を取ってみれば、相手は第一警備隊長の大尉殿だった。

 相手が相手なので電話越しだというのに愛想笑いを浮かべながら用件を聞いていたが、次第に可愛らしい顔が渋面に変わっていったのが我ながらよく分かった。第一隊長殿直々の話ではあるから一応の理解を示しはしたが、舌打ちは禁じえない。思わず受話器をぶん投げるようにして電話を切り、天井を仰げばついため息が出てしまう。部下たちの視線を感じるが気にしてる場合ではない。ついにこの日が来てしまったらしい。


「お疲れですね、中尉。何か問題でも?」


 電話の様子からトラブル発生だと気づいたのだろう。アレクセイがカップにおかわりのコーヒーを手にやってきた。感謝を伝えつつ受け取り、気を鎮めるために一口熱々のそれを流し込む。うむ、うまい。アレクセイの一杯はいつも絶妙だな。ちなみに淹れ方を何度か教えてもらったが、未だにこの味には程遠い。


「ああ、曹長。非常に由々しき問題だ。全員傾聴しろ。貴様ら全員に関係する話だ」

「ずいぶんと大事(おおごと)そうですね」

「今度はなんだってんだ? どっかのバカが国境で魔導兵器でもぶっ放したか?」

「それも中々にユニークなジョークだ。だが、カミル。事態はもっと緊急を要するぞ」

「もったいぶんなって。んで、何がどうしたんだ?」

整備士(ヘルマンのジジイ)が引退するそうだ」


 ヘルマンはウチの隊の装備一切を世話してくれていた整備士だ。結構な老齢だが腕は間違いなく、彼のおかげで日々の任務を無事にこなせていると言っても良い。もっとも、気まぐれで出勤したりしなかったりするあのジジィにはかなり振り回されはしたが。


「……そうか。まあいつ辞めてもおかしくねぇとは思ってたが、とうとうその時が来たってわけか。で、いつから来なくなるんだ? 一ヶ月後か?」

「今日だ」


 詰所が静まり返った。ああ、そうだろう。私だって聞いた瞬間は気が遠くなったからな。


「ぎっくり腰で当分動けないんだと。歳も歳だからこれを期に引退するということだ」

「……後任は?」

「決まってるわけないだろうが」

「おいおい、んじゃこれからメンテはどうすんだよ!?」


 当分は自分たちで点検するしかないだろうさ。とはいえ、隊員ができるのは簡単な点検くらいだ。魔導銃の構造は複雑だし、魔法陣が十全に動作するかなどは本来専門家がチェックするものだ。前線帰りの私やアレクセイたち古参隊員は一通り本格的なメンテナンスはできるが、全員分をこれから毎日するとなるとかなり面倒だぞ。


「ともかく、私は私で後任候補を当たってみる。貴様らも誰か心当たりがあれば教えろ」


 とは言うものの、魔装具の技術者はただでさえ人手不足。どこだって人員確保に躍起だし、我々の様な末端の部隊に回ってくるのはヘルマンみたいな引退間近のジジイか、役に立たなさすぎる厄介者くらいだ。果たして、都合の良い人間をスカウトできるか――


「あ」


 頭の中で電話を掛ける相手をリストアップしているとひらめいた。そうだ、アイツならいける。というかアイツしかいないな。なにせ、あの日の事を「絶対忘れない!」と宣言したバカだからな。それを盾にすればマティアスも強引に引っ張ってくるしかないはずだ。


「どなたか、思いつきましたか?」

「ああ。しかもここにいる全員が知っている人間をな」

「そんな人物が……ああ、なるほど。確かに我々にはうってつけの人材ですな」


 私がニタリ、と笑うと、アレクセイも察したらしい。さすがだな。ま、思い当たる相手など限られてるからな。

 さてさて、我らが王子様に早速骨を折ってもらうとしよう。マティアスに苦労を押し付ける算段を頭の中で組み立てつつ、私はもう一度受話器に手を伸ばしたのだった。



お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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