オオカミ少年
今日は金曜日
金曜“昭和デカ”シリーズです!(^_-)-☆
生活安全課の暢子巡査まで来ていて、珍しく全員揃っている刑事部屋、カモちゃんがお茶を淹れ、おのおのタバコに火を付けたり談笑したりしている。
と、黒電話が鳴り一番下っ端の柴門刑事が取った。
「はい!強捜係!」
『ボク、犯人を見たよ!』
「犯人?! ボウヤ! 誰を見たんだ?!」
身を乗り出すチノパンを尻目に鳥刑事は壁時計をチラッ!と見て石原刑事に目配せする。
ムリさんは頷いてチノパンに声を掛ける
「電話、代わってくれ!」
「ボウヤ! ちょっと待って! 今、担当の人に変わるから……お金、大丈夫?」と声を掛けながらチノパンは受話器をムリさんに差し出す。
「電話ボックスから掛けている様です」
ムリさんは頷いて受話器を受け取る。
「もしもし!刑事の石原だが……」
プリンスから裾を引っ張られ、振り返ったチノパンは腑に落ちない顔で質問する。
「あのボウヤ、強捜係の直通番号を知っています。どういう事でしょうか?」
「イタズラだよ!」受話器を置いたムリさんが代わりに答える。
「ワルガキめ! オレが出た途端、受話器を放り出して逃げやがった!」
「今までにも何度か掛けて来てるんだ。 だいたいこの時間……おそらく学校帰りだろう」
チノパンは電話の向こうの状況を思い返してみる。
「声の響き方と周りの雑音が聞こえない事から推察して電話ボックスだと思います。それに……ムリさんに代わる直前にボックスのドアを開ける音がしました」
「今日は電話ボックスからか……この前は外置きの公衆電話から、『弥生町で爆弾事件の島崎を見た』なんてぬかしてたよ」
「どこかで強捜係の直通番号を聞きつけてイタズラを繰り返してやがる!」
「子供のいたずらにしても少し度が過ぎてるな」
プリンスやその他の面々が顔をしかめる中、チノパンは疑問を呈する。
「でも、このいたずらは10円玉を使います! オレだったら駄菓子の1個でも買いますよ!」
「どこかのボンボンじゃねえのか?!」と言うムリさんの言葉に谷山警部補はちょっと首を傾げる。
「確かにチノパンの言う事にも一理ある! 子供のいたずらにしては……強捜係の直通番号を知っている事も引っ掛かる」
「よ~し!」と
デスクで皆の話を聞いていた渡警部が口を開く。
「カモちゃん!今空いてるか?」
「ハイ!ボス!」
「悪いがこの件を調べてくれ!必要だったらチノパンを使ってもいいぞ!安全課の河さんにはオレから話を通して置く」
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南公園でヤクザ風の男の射殺死体が発見された。
司法解剖が行われ、体内に残された38スペシャル弾は施条痕の鑑定の結果、ニューナンブM60……つまり警察官が携帯する拳銃から発射された物と分かり、その日のうちに大々的に報道された。
そして翌朝、派出所に勤務中の南原巡査が制服姿のまま縊死した。拳銃を固定するための革帯は刃物で切られ拳銃が無くなっている状態で
遺書にはひと言 『すべての責任は私にあり、死してお詫び申し上げます』と書かれており、その頃には身元が判明していた射殺死体『元十川組組員 内藤保志』との関係が取り沙汰された。
“本店”の捜査本部では内藤に私怨を持つ誰かが、南原巡査を襲い奪った拳銃で内藤を射殺したとみていたし、世間の報道も犯人のあぶり出しよりも縊死した南原巡査の“責任”がクローズアップされていた。
淀橋署の強捜係も“本店”の方針に従い内藤の交友関係を調べ上げていたが、本当に殺したいと思っていそうな“関係者”は逆に銃器の入手が容易な輩ばかりで、わざわざ警官の銃を奪う必要が無く……捜査はなかなか進展しなかった。
そんなある朝、宿直明けのチノパンは刑事部屋で一人、インスタントコーヒーを啜っていた。 そこへカモちゃんが入って来る。
「あら、チノパンくん一人?」
「ああ、暢ちゃんも早いな!」
「うん、ちょっと気になる事があってボスに……」
「例のヤマの事?」
「ええ、私……あれからずっと調べているのだけど弥生小4年の南原正雄くんって子が浮かび上がって来たの」
「南原って、ひょっとして」
「ええ、亡くなった南原巡査のお子さんで……『お父さんに手柄を立ててもらい』って常日頃言ってたそうなの」
「手柄? どういう事だ?」
チノパンはコーヒーカップを置いてモジャモジャの頭を掻き、暢子は少しため息をついて話を続けた。
「南原巡査は“うだつが上がらなくて”……直属の上司からいじめられてたらしいの、ホラッ!昭和44年に底を打ってからここ2、3年は検挙率、右肩上がりでしょ! 『実績上げろ!!』って何かにつけて言われていたらしいの。 だけど勤務中に近くで事件が起これば“本店”からの現状確認の要請に応えられる。それも実績になるから……」
「なるほど、警察官の家族なら一般の人間よりは強捜係の電話番号を知るチャンスがありそうだ! オレ、この後、非番だから正雄くんの“面通し”できるぜ」
「それが、正雄くんは居ないのよ。学校へは『お父さんの事で今は田舎に避難している』って事になっているけど、田舎にも居なくて……どうやら消息不明になったのが22日」
「22日って、オレが電話を取った日じゃねえか!」
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ボスの指示でタニさんも応援に入り、三人で正雄くんの消息を追った結果、正雄くんの失踪は一連の『ニューナンブ殺人事件』に関係があるとの判断で未亡人(正雄くんの母)に事情徴収の要請を行った。
そして、指定された時間に家を訪ねて行ったところ、呼んでも返事のない家のドアの鍵は開けられていて
二つの白い箱と畳を赤い血で染め、奥さんは突っ伏しており、ダイニングテーブルには遺書が残されていた。
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。。。。。。。。
きっかけは、主人が上司の釜口さんから叱責されているのを息子の正雄が見聞きしてしまった事です。
正雄にとって強く正しいと信じていた父親像が打ち砕かれ、あの子なりの解決策として嘘の電話で皆様にご迷惑をお掛けいたしました。誠に申し訳ございません。
ところがあの22日の日……どこから嗅ぎ付けて来たのか十川組の連中が電話ボックスから息子を連れ去りました。
息子に自分たちに都合の良い嘘を言わせようとしたに違いません。
でも、その意に沿わなかった息子は……主人は駆け付けた時には既に……冷たくなっていました。
逆上した主人は、その場にいた“組員”を携帯していた拳銃で撃ち殺しました。
そして、息子の名誉や私を守る為に、主人は拳銃を処分し自らも……
遺体は、思いの外早く私に返されました。
きっと温情で、詳しくは調べられなかったのでしょう。
でも、結局……私一人が取り残されてしまいました。
だから私は私が知っている事を書き記して、息子と主人の元へ参ります。
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読み終わった暢子は目頭を押さえ、チノパンは拳を壁に叩き付けた。
タニさんは無言で、見えない空を仰いだ。
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南原巡査の上司への“裏取り”に向かったチノパンは上司の心無いひと事に激高して手が出てしまい、1週間の謹慎処分となった。
1週間後……
謹慎明けのチノパンを伴ってボスは署の屋上に出た。
「吸うか?」
「いただきます!」
差し出された箱から1本抜いて咥えたチノパンはボスのタバコに火を点けてから自分のタバコに火を移した。
「ああなる事は分かってはいたんだがな」
「抑えが利かなくて申し訳ございません」
チノパンの謝罪に頷いてボスは言葉を続ける。
「親になった事のあるタニさんを行かせたくは無かったんだ」
その言外にあるものを感じてチノパンはため息の代わりに煙を吐いた。
「……そうなんですか……」
会話はそこまでで……
タバコの煙が二条、スモッグの空へ立ち昇って行った。
昭和デカ オオカミ少年 完
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この作品における人物、
事件その他の設定は、
すべてフィクションで
あります。
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今朝、思い付いて、大急ぎで書いたのでめちゃくちゃ端折りました(^^;)
いつもいつもスミマセン<m(__)m>
この物語は
『昭和デカシリーズ』となります。
関連作
『昭和デカ』
https://ncode.syosetu.com/n9518hw/
『昭和デカ -死に染まる手-』
https://ncode.syosetu.com/n9839hw/
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