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呪い

「死体は鳥に、ついばまれたようにひどいありさまでした。あれは、前の灯台守の人ですか?」

 私はおもいきってしゃべった。

 蓮豆さんの目をしっかりと見る。

 うそを見逃さないようにするためだ。

 

 なのだけど、私のほうが目をそらしてしまった。


 

 蓮豆さんのニヤけた目が、とてつもなく恐ろしかったから。


 

「槿花ちゃんさ。どうして警察に通報しないの?」蓮豆さんは机に肘を置き、手にアゴをのせながら、


 

「できないんでしょ? 電話がつながらないから」


 

 蓮豆さんは口の端が切れるぐらい笑う。

 

 

「死体を見て警察に通報しようにも、灯台の黒電話はつながらない。外に助けに行こうにも、ここは絶海の孤島。船もないから出られない。なによりも――どうして『私がこの無人島に閉じ込められている』のかが、記憶にない」


 

 蓮豆さんは確信犯だ。

 私は言ったことを後悔。

 だが遅い。

 

「野菜スープを飲まないのは、右手にナイフを持ってるからだよねぇ? 私が犯人だったら殺すつもりだった? 刺すつもりだった?」

 

 何もかもお見通しな蓮豆さん。

 

 私はガタッと、イスから立ち上がり、ナイフを彼女に向けながら、


 

「あなたは、なんなの!」


 

 精いっぱい威嚇してみせた。

 

 だけど蓮豆さんのニヤけ顔は収まらず、

「槿花ちゃん。緊張してると、胸を手で押さえる癖あるよね? かわいい」

「あっ、あなたは……」


 

「ねえ――今日はいつだっけ?」





 私は部屋から飛び出した。

 

 レンガの壁にはめこまれた小さな窓から、月の明かりが差し込んでくる。

 いつのまにか夜になっていた。

 どこからかサイレンが鳴り響き、耳の鼓膜を破ろうとしてくる。

 窓枠にアホウドリたちが並んでいる。

 それが一斉に鳴いているのだ。

 

 パニックを起こし、灯台内の廊下を走っていると、階段そばで黒い影が見えた。

 軍服を着た男性だ。

 

「待って! お願い!」

 

 私は叫んだけど、黒い影は階段を上っていってしまう。

 私は影を追いかけて、らせん階段を上りはじめた。

 

 階段の上にあるのは回転灯だ。

 

 こもった空気が私を押しつぶしてくる。

 セーラー服のスカーフが空気になびく。

 懸命に階段を上りきり、灯室にすべりこんだ。


 

「……えっ?」


 

 黒い影がいないどころか、そこには『灯』がなかった。

 灯台の『灯』だ。

 あったのは真っ黒な闇。

 

 闇の中でサイレンが鳴り響いている。

 

 私はあぜんとして、口をポカンと開けたまま、闇を見上げている。


 

「『灯』なんてなかったのよ。もともとこの『灯台』にはね」腕を組んで、蓮豆さんが壁を背に立ち、



 

「何もないの。ここにはね。短い間だったけど、槿花ちゃんとの生活は楽しかったわよ」


 

 

「……待って」


「じゃあね――ぼくは『呪い』にかかってしまったけど、君はまだここにはきちゃいけないよ」

 

 灯室から外へ出て行ってしまう。

 蓮豆さんと軍服を着た男性が重なっていく。

 最後にしゃべってくれたのは――やっぱりあの人だ。

 

 


 

「待って! お願い! 私を置いていかないで! お願いっ!」


 


 

 私が手を振り上げたと同時に――固い扉が閉じられた。

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