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プロメテウスの火

「『プロメテウスの火』って知ってる?」



 私の雇い主の女性が突然変なことを言い出した。

 彼女の作業着からオイルの臭いがする。

 ポケットがふくらんでいるのは、工具を入れているからか。



「全知全能の神『ゼウス』から『プロメテウス』という男神が火を取り上げ、人類に与えたの。そのおかげで私たち人類の技術は発展したわけ。だけどプロメテウスはゼウスから罰を受けて、はりつけにされ、鷲に内蔵を喰われ続けた。神だから朝になれば、内蔵は再生してしまう。そしてまた鷲に内蔵を喰われ続けるという、永遠の苦しみを受ける拷問をされた。つまり、何が言いたいかわかる?」



「――貴重な『灯』を、消すなってことですか?」



「そのとおり。この灯台の灯を消しちゃいけない。そのために、灯台守である私のような整備士がいる。よくきてくれたわね槿花きんかちゃん。私の名前は蓮豆れんず。歓迎するわよ」





 私の仕事は灯台周りの草むしりだ。

 夏になると、必ずこのアルバイトがあることを知っていた。

 アルバイトの給料は高額だけど、募集に人が集まらないのは、灯台までの道のりが遠いことと、夏の暑いなか、草むしりなんてしたくない人の心理が働いていると思う。

 学校が終わったら、学生服であるセーラー服のまま、アルバイトに寄っていた。

 ちょうど家の近くにあったし、蓮豆さんと親は知り合いらしく、晩ご飯もいただけることになっている。

 親としては食糧難の時代、都合がいいんだろうけど、私にとっては苦行だ。

 

 ――暑い……。

 

 軍手で額の汗をぬぐう。

 鎌で草を切って、台車に入れる。

 台車の中に入った青々とした草が山盛りになったら、今度は海近くの捨て場に行く。

 

 これを永遠と繰り返す。

 

 時給が高くても人気のないアルバイトなわけだ。

 拷問みたいに感じる。

 

 ブォー、ブォー、ブォー。

 

 カエルが空高くで鳴いている。

 アホウドリだ。

 大きな翼を広げ、あわい黄色の頭部を光らせ、長いくちばしで海の魚を捕まえる。

 どこまでも青く、太陽の光で輝く海を、縦横無尽に飛び回っている。

「…………」

 アホウドリが灯台に近づくたびに、私は怒りがこみ上げていた。

 ひょうきんな鳥の面が憎くてしかたがなかった。

 私の殺意に反応したのか、アホウドリたちは人に近寄らなかったけど、とある一羽の鳥が私の前に降り立った。

 

 ブォー、ブォー、ブォー。

 

 そのアホウドリは台車に乗ると、挑発するかのように鳴きだした。

 私の中で何かがキレ、


 

「灯台の灯に近づくな!」


 

 鎌を振り上げると、アホウドリに切りつけた。

 刃物が当たれば死ぬだろうけど、かまわなかった。

 アホウドリは小ばかにしたように鳴くと、人間が届かない空へと飛び立った。

 憎々しげに空を見上げていると、灯台の窓に誰かが立っていた。

 

 蓮豆さんだ。

 

 私と目が合うと、ニヤリと笑って、暗闇に消えた。





 仕事が終わり、私は蓮豆さんと晩ご飯を一緒にしていた。


 灯台内にある食堂は小さく狭い。

 イスが2つあって、対面している蓮豆さんとの距離は近かった。

 机はせまく、皿を置けばいっぱいになる。


 ご飯と野菜のスープという簡素なものだった。

 ただ、野菜のスープはトマトを煮込み、豆や、トウモロコシ、ジャガイモが入っていて、ちょっと豪華な気分を味わう。

 蓮豆さんの料理の腕なのか、見た目は貧相だがうまかった。

 

 

「『老水夫行』って知ってる?」

 

 

 知識も豊富なのか、蓮豆さんはまた難しいことを聞いてきた。

 学校で聞いたことがあったけど、私の記憶はそんなことまでおぼえていない。

 首を横に振る。



「ある船の上で、アホウドリが飛んでいた。その鳥は船員たちを楽しませていた。だけど、老水夫がアホウドリを殺してしまった。理由もなくね。だから老水夫は『呪い』を受けることになった」



 蓮豆さんは持ち上げたスプーンに入った、血のように真っ赤なトマトスープを口に運ぶ。

 言いたいことはわかっている。

 アホウドリを見ておかしくなった私が悪い。



「アホウドリをいじめちゃだめよ?」

「はい。すみません」



 蓮豆に言われ、棒読みのように謝る私。

「あっ、そうそう」蓮豆さんはスプーンを皿に置き、


 

「今日って、いつだっけ?」

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