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第4話 マゾ、少女の頭の中で不名誉にシミュレーションされる

私はシャロン。

貧しい家に生まれた。

日々の食卓に並ぶのは硬いパンの欠片と、底の見えるスープばかり。

ひもじい思いを抱えて毎日を過ごしていたが、ここから更に下があるとは、当時の私はカケラも思っていなかった。


そんなある日のことだった。


私は夢の中で“未来”を見た。


最初に“それ”を体験したのは、何でもない夢だった。

夢の中で――夕食の硬いパンを落としてしまい、ころりと床を転がった欠片を拾い上げる。

それだけの、どうということもない場面。

……けれど翌日、同じようにパンが机から転げ落ち、夢と寸分違わぬ角度で床を転がっていくのを見た瞬間、背筋がぞくりと震えた。

偶然とは思えない一致。

初めのうちは偶然だと片付けて気にも留めなかった。

だけど、このようなことが何度も起きた。


そのときになって初めて、自分が“未来”を見ていたのだと理解した私は、その奇妙さが怖くてたまらなかった。

そして、震えながら両親に打ち明けた。


心配してくれたり、この不安な気持ちをなだめてくれる言葉をかけてくれると信じていた。


なのに、なのに……!


両親は、金に目がくらんだのか、あっさりと私を裏の市場に流した。

遥か斜め下の行動に頭がおかしくなりそうだった。


しかも、最後は見たこともないような晴れ晴れしい笑顔で「産んで良かった」と笑っていた。

その時のことを思い出すと、今でも胸の奥底からドス黒い感情が涙とともに流れてくる。

我が子を手放すその姿に、悲しみはひとかけらさえなかった。

悲しい現実ーー私は愛されていなかったんだ、と知った。


買われた先は、小さな地方の教会。

神父は目をギラギラとたぎらせ「これで私も大司教! 果てには枢機卿の仲間入りだ!」などと愚かしい夢を語った。

子供わたし道具りようして、成り上がろうとする魂胆。

この方は本当に神に仕えている身なのでしょうか?

誰かこの方の所業を神様に報告してくださいまし。

あの、神様、この方に天罰を下してください……はぁ、酷いところに売られてしまったみたいですね。


売られて数日、憂鬱な気持ちのまま毎日のように欲に塗れた神父の戯言を聞いていた時だった。


「えっ……」


ーー最悪な未来が視えた。


人々に囲まれ「救世の少女」と讃えられる私。

神父は後見人として権威を高め、目論見通りに信者は日に日に増えていく。

その一方で、教会内の権力争いの中心に立たされ立場が劣勢になっていく。

その後の私に待ち構えていたのは敗北。

そして「邪魔者は排除だ」と粛清へ。

最後は味方である教会の仲間から火を放たれ、惨たらしい死を遂げる自分の姿。


栄光と断罪が、わずか一枚の紙の裏表のように繋がっているとは……人々の信仰を集め、神父が地位を得ようとし、その果てに、私は道具として使われるだけ使われて、都合が悪くなり最後には消されるという末路。


……ふふっ、何という滑稽さ。

祝福の声が、そのまま弔いの鐘に変わるなど、喜劇と悲劇の区別すらつかないわね。

恐怖に震えるはずなのに、あまりの不条理さに薄ら笑いが漏れた。


だが、未来は皮肉にも別の形で崩れ去った。

その夜、教会を盗賊団が襲い、神父はあっけなく命を落とし、盗賊たちも通りすがりの冒険者に討たれ、私は巡り巡って孤児院――今の施設へと引き取られた。


皮肉なことに、そこで見た恐怖の未来は“なかったこと”になった。

けれども胸に残ったのは「お告げの力を口にすれば、必ず利用され、最後には処分される」という焼きつくようなトラウマ。

以来、この能力のことを誰にも語らずに生きてきた。園長だけが例外だが、それも必要最低限の理解に留めている。


それからは私はただ平穏を望んでいた。

未来など見えなくても、ただ静かに暮らせればそれで良いと思っていた。


……のに。


――あの男の子、イタロウ


私は視た。


熱々のスープが自分の身に襲いかかった瞬間、悲鳴を上げるかと思った。

なのに、まさか、苦痛に歪んだと思ったら、次の瞬間に、恐ろしく気持ちの悪い笑みを浮かべた顔をさらけ出していた。


その時、脳裏に雷が走るように、未来の光景が飛び込んできたのだ。

なんでこのタイミングで!? っと思う暇なく脳裏で未来が流れていく。


そこにいたのは、巨悪を前に雄々しく戦うすごくカッコいいイタロウ――けれど同時に、猛攻を受けるたび「もっと! もっとだぁ! ぶひぃぃぃ……ぎもぢいいいいいいいィィィィィ!!!」と悦びに身を震わせる、正気とは思えぬ姿。


 ――な、何を見せられているの、私!?


「救世主にして変態が台頭する未来」と「仲間に火あぶりにされていたトラウマな未来」を天秤にかけてどちらが勝つのかしら……うーん、ギリ前者かしら?


「……ふふっ、やっぱり世界は理不尽なんですね」


私は久しぶりに微笑みを浮かべながらも心の中で悲鳴を上げていた。

羨望と期待と、不安と疑念が入り混じり、胃の奥に鉛玉を抱えるような気持ちで、彼を見つめていた。


……そして、ふと思ったのだ。

これから先、きっと楽しいことがいっぱいある。

だけども何だか色々と振り回されている自分の姿が浮かんだ。

それでも、なぜか不思議と嫌な気はしなかった。

むしろ――悪くない、と直感的に思えたのだ。

次はアスタの回想シーン予定かな。

アスタの立ち位置どうしよかっなあ〜

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