〜プロローグ〜
周囲に響き渡る応援歌なども含んだ喧騒、大歓声。
観客で埋め尽くされたドーム会場の中心にて
赤帽を被った青年とゴーグルを首から下げた青年が対峙していた。
「──行くぞ、"始原の火竜"」
赤帽の青年がカードを突き出す様に構え、呟く。
すると、カードが輝きを放ち、徐々に巨竜のシルエットを形取っていく
──現出した巨龍を表す言葉は荘厳であった。
夕焼けが如く橙色の鱗、紅宝と見紛う程の輝きを宿した灼眼、背には蝙蝠の様な両翼。
その名に相応しいと誰もが認め、見惚れる火竜が其処に現れる
「グルオォォォォォォォォォォォォ!!!」
火竜は赤帽の青年へ応える様に翼を広げ、雄叫びを上げる。
それに呼応する様にドーム内の大気は振動し、大地までもが震え、あれほど騒がしかった観客達が示し合わせたかの様にピタリと静まり返る
「へへっ、流石、頂点の"始原の火龍"だ…すっげぇー迫力」
「…まだ現出させただけだ、怖気付いたか?挑戦者」
対峙するゴーグルの青年、勇者と呼ばれた者の額から冷汗が流れ落ちる。
今から戦う相手、赤帽の青年…頂点と呼ばれた彼の実力を良く理解しているからこその気圧…だが
「まさか!俺も相棒もやる気満々だよ!さぁ、やるぞ"機械仕掛けの聖騎士"!」
それで終わるというならば彼も"勇者"などと呼ばれていない
負けじとカードを胸に掲げ、己が相棒の名を呼ぶ
頂点と同じ様にカードが光り輝き、騎士のシルエットを映し出す。
──現出した騎士は表す言葉は清廉であった。
英雄の象徴と言うべき紅きマント、角の生えた白馬を思わせる兜に其処から覗かせる瞳、そして、幾何学的な紋章が刻まれた純白の甲冑に身を包んだ…否。甲冑に身を包んでいる様に見える機械仕掛けの聖騎士。
彼が現出してから口を開くまでの一挙一動は洗練されており、静かで美しく、人々の目を惹きつけるモノであった。
「了解した、我が王。この剣に賭けて…勝利を約束しよう」
騎士は片腕を剣へと変形させ、主を守る様に前へ進み、火竜と対峙する。
対峙するモンスター達を眺め、観客達は今から始まる激闘に胸を躍らせ、息を飲む。
──コイントスの結果を待つように、額から落ちる汗が地面に吸われるのを持つように、2人と2匹は動かない
緊張感は伝播していき、会場は時が止まったかの様に静かさを保ち続ける
そして…緊張が張り詰めに張り詰めた時
クシュン
何処からか聞こえた少女の可愛らしいくしゃみが合図となって、頂点と勇者の時間を進める事になった