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薔薇姫の学園  作者: 松野三鶴
第1章 秘密
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チェキ会

「だー! もう! じゃあこの中で薔薇姫のおとぎ話に詳しい奴はいるか⁉︎」


 そんなことしても意味ないわよ、とナオミが止めるのも聞かず、カオルはまた叫んだ。今度は誰も手を挙げなかった。次の瞬間、痺れを切らしたカオルがとんでもないことを言った。


「有力な情報をくれた奴はあたしたちとチェキ撮影できる! しかもサイン付き!」


 あわわわわ……と真っ青になる雪風と、押し寄せる生徒たちを横目にナオミはため息を吐いた。


「だから、SNSで書くだけで十分って言ったじゃない……本当に馬鹿」


 チェキ会の始まりである。

 すぐに、カオルとナオミと雪風のチェキ撮影会の情報が学園中を駆け巡り、カフェには生徒が殺到した。親衛隊による入場整理が開始され、3人はひたすらチェキを撮り続けることとなった。「チェキとスマホ、どちらにします? チェキならサイン入りです」「チェキでお願いします!」さながらアイドルのイベントである。


「あ〜、で君は何か薔薇姫について知ってる?」

「なんか何人か連れ去られてるって聞いたことあります! でも、薔薇姫はその子の周りの人間の記憶も抹消しちゃうから、誰も気付けないんですって」

「他には?」

「知りません!」

「あ〜分かった分かった。じゃあ、はい撮るぞ〜」

「あの! 指ハート作って貰っても良いですか!」

「はいはい」


 ノリノリでキメ顔を作るカオルとナオミに対して、雪風は完全に縮こまっている。本来の目的である情報収集はもちろん全く進まず、ただチェキ列だけが増えていく。その内騒ぎを聞きつけた教師が駆けつけ、チェキ会は無理やり解散させられた。チェキを撮れなかった生徒たちは呪詛を吐きながらカフェを後にし、カオルたちは教師にやはりこっぴどく怒られた。


「本当にカオルはお馬鹿さんなんだから……」

「お前だってノリノリだっただろーが」

「あら、そんなことないわよ」


 逐一生徒たちの要望に応えてポーズ取ってたじゃねぇか……と言うカオルの呟きは無視された。チェキ会の開催によって生徒たちが全く授業に来なかったため、学園中の5時間目の授業が大幅に遅れ、しかも3人は教師にまたみっちりとお叱りを受けていたため、解放されたのは6時間目の授業が始まる前だった。3人はまたいつものように職員室からそれぞれのクラスへ戻っていた。

 ナオミと雪風は移動教室で向かう方向が同じだったため、途中でカオルと分かれた。

 雪風には、短い二人の時間の中で聞きたいことがあった。


「あの、ナオミ先輩」

「なあに」

「なんでそんなに乗り気なんですか」


 雪風の言葉にナオミは少し黙った。

 それから微笑んで続けた。


「カオルが最近つまらなさそうにしてたのよ」

「……それだけ?」

「そうねえ。そうかもしれないわね」


 カラカラとナオミは笑った。分かれ道に差し掛かり、「じゃあね」と手を振るナオミに手を振り返して、その後ろ姿を雪風は見送った。


「……本当に、カオル先輩のこと好きなんだなぁ」


 雪風はナオミのいなくなった廊下をぼうっと見つめていた。


「そりゃ、かなわないよね」


 雪風は呟き、ポケットから手紙を取り出した。


『貴方の仄暗い欲望と秘密を知っています。

それらが叶うことがないと、心の奥底で絶望していることも知っています。

けれども、そんな貴方が心の安寧を手に入れる術がたったひとつ存在します。

この学園に取り憑く薔薇姫であれば、貴方の渇きを潤すことができるでしょう。

どうか、薔薇姫の秘密をほどいてください。』


「見せられる訳ないじゃないですか。こんなの」


 ナオミがもしもこの手紙を見ていれば、インチキ占い師がよくやる手だと一蹴しただろう。誰にだって人に言えない欲望や秘密はあるのだから、誰にでも当てはまるのだと。

しかし、雪風は手紙を一人で読み、己の真実を見出してしまった。そして、差出人がどこまで自分のことを知っているのか怖くなった。

雪風は痛みを堪えるように微笑み、手紙をポケットにしまって何事もなかったかのように歩き出した。



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