籠の鳥
はぁ、とため息をついてクラスメイトは言った。
「カオル先輩たちを見て、あぁ、きっとこの世には私たちの知らないもっと楽しくて面白いものがあるんだろうなぁって思うの。カオル先輩たちっていう存在そのものもそうだけど、あの人たちが見ている世界も、きっと私たちとは違うんだろうなって。」
悲観じみている訳ではなかった。
年頃の少女は勘が鋭く、理解が早い。自身の立ち位置をよくわきまえていた。その上で許される娯楽の範囲を見極めている。
「だから! 甘んじておもちゃになるのよ! 雪風! さぁ、今日も先輩たちのエピソードを教えなさい!」
「教えなさーい!」
きゃらきゃらとふざける少女たちに、雪風は少しの切なさ噛み締めながら微笑んだ。それから彼女たちに近づいていって、近くの机に腰掛ける。
「今日はそんなに面白いことはなかったの。うーん。あ、でも、カオル先輩が私には奢ってくれたんだけど、ナオミ先輩には自腹切らせてて、ナオミ先輩が拗ねてた」
「かわいー」
「あとナオミ先輩がダルゴナコーヒーのことをゴルゴダコーヒーって言って珍しくカオル先輩から訂正されてた」
「ブフッ」
雪風はできる限り二人の話を話す(広めても怒られないだろう話のみ)。これはいつもの日課だった。彼女たちの慰めになるような何かを、自分が少しでも与えられるならそうしたいと思っていた。あの物悲しい御伽噺に取り憑かれてしまうよりは、きっと健康でいられる。雪風はそう信じていた。クラスメイトたちも入学した当初こそ、生粋のお嬢様らしい立ち居振る舞いと言葉遣いだったのだが、カオルとナオミに感化されたこともあり一ヶ月で年相応の少女らしいものに砕けてきていた。お嬢様学校ではまずありえない、そこそこ自由な校風も少女たちの精神を健やかに解放することを助けた。
(でも、ちょっとミーハーになっちゃったんだよなぁ)
雪風はカオルとナオミの動向を聞いて逐一きゃーっと悲鳴をあげてコロコロ笑う少女たちを見て、内心苦笑した。年頃の少女たちの想像力……もとい妄想力には凄まじいものがあった。自身がその対象に少しでも入っているというのがかなり雪風的には恥ずかしい。けれども、この学園にいる間ぐらいは、少女たちがのびのびと朗らかに笑っていてくれたら良いと雪風は思った。
一瞬のきらめきの中で幸せそうに笑うそんな少女たちを、教室の外から眺める女生徒がいた。彼女はきゃらきゃらとはしゃぐ少女たちの話を聞きながら、じっと雪風を見つめていた。ふわりと微笑んだその少女は、雪風たちの雑談を最後まで聞かず、その場を立ち去った。