夢が叶う名前
『お前、夢叶の事好きなのか?』
『どうだろ、僕にはわからないよ』
『お前んち貧乏だし、近寄っただけで夢叶を不幸にするぞ』
『そ、そうなの?』
『当たり前だろ? 夢叶はお嬢様だからな、本当に夢叶の事が好きだったら、唯人は近寄らない方がいい。貧乏が移るからなっ!』
そっか、夢叶のことが好きだったら嫌いになればいいんだ。
そうしたら夢叶はきっと幸せになれるんだ。
そうだ、そうしないと……。
僕は絶対に夢叶の事を嫌いになって、夢叶を幸せにしてあげたい。
──
気が付くと頬に涙が流れていた。
なんで? なんで昔の事を思い出すんだ?
思い出さない方が良かった、思い出したくなかったのに……。
「なんで泣くの? そんな泣くくらいの事、私言ったかな?」
「いや、言っていない。昔の事を思い出しただけだ」
「本当の気持ち、聞かせてよ。聞いたらちゃんと帰るし、これからなるべく口もきかないようにするから」
俺は息を大きく吸い込み、夢叶に視線を向ける。
握った手は、小さくそして温かさを感じる。
「夢叶の事、好きだから嫌いになった」
これが本当の事。
俺の気持ち。
「……意味わからないんだけど? どっちなの?」
「矛盾しているな」
俺は子供の頃にあったことを、そのまま夢叶に話した。
「……バカじゃないの?」
「バカとは失礼だな」
「かなりの大馬鹿者だね。はっきり言って最悪」
「そこまで言う?」
お互いに落ち着いて、ベンチに再び腰を下ろす。
買ってきたジュースを飲みながら、少しだけ話こむ。
「それさぁ、私の気持ち全く関係ないよね?」
「ないな」
「なんで勝手に話を進めたかなー」
「子供だったからな」
「はぁ、なんなのもぅ……。いゃ……」
「どうした?」
「唯人、属性で鈍感とか持ってる?」
「は? なんだそれ?」
「まぁ、いいか。ちょっとそこに立ってよ」
言われたまま、ベンチから腰を浮かし立ってみる。
「で、どうするんだ?」
「ちょっと高いかな? 目、閉じて」
「やだよ、何されるかわかったもんじゃない」
「いいから。三秒でいいから」
「三秒な。 いーち、にー、さー」
肩に夢叶の手がのり、力がかかってくる。
そして次の瞬間、唇に何かが触れた。
ゆっくりと目を開け、目の前を確認。
「びっくりした?」
「何したんだ?」
夢叶の手には真っ赤なイチゴが握られていた。
「さて、問題です。唯人の唇に触れたのは何でしょうか?」
間違ってもいいのか?
しかし、あの感触は……。間違ったら悶え死ぬ。
だが、絶対の自信はない。
「ヒントをもらってもいいか?」
「ヒント? いいよ」
「じゃ、目を閉じて」
月明かりが照らす夜の公園。
二人だけの時間はゆっくりと流れる。
闇夜に浮かぶシルエットがゆっくりと重なる。
「な、何しているの!」
「問題です。夢叶の唇に触れたのはなんだと思う?」
俺は手に持ったイチゴを夢叶の口の中に放り込む。
「んっ、甘くておいしいかも。でも、ちょっと冷たいね」
「あぁ、ちょっとだけ冷たいな」
「でも、さっき目を閉じていた時のは、少しだけ温かさを感じたよ?」
「俺も同じだな。ほんの少しだけ、温かさを感じた」
真っ暗な公園の中、二人だけの時間。
そして、そこには──
「もう一度試そうか?」
「うん……」
すれ違った想い。
言葉でなければ伝わらないときもある。
好きだから、一緒にいたいから、声を聞きたいから、見つめていたいから。
触れていたいから、感じていたいから、その温もりを大切にしたいから。
「ねぇ、私の事嫌い」
「さぁな」
「もっと素直になりなよ」
「俺は昔から素直だけど?」
「だったら今の気持ち、はっきりと私に伝えてよ」
俺は息を大きく吸い込み、一息つく。
心の準備はできた。
「ずっと前から、夢叶の事好きだった。夢叶を世界で一番幸せにしたい」
微笑む彼女。
「その願い、いま叶ったよ。私は今、世界で一番幸せだよ」
願い、夢は叶えるためにある。
──
『あなた、女の子ですよ』
『この子は幸せそうな顔をしているなぁー』
『そうですね。名前、どうしますか?』
『名前か……。そうだな、この子には幸せになってほしいなぁ。そして、夢が叶う名前がいいな』
「幸せに……。夢が、叶う名前……」
『夢叶。そうだ、夢叶にしよう』
『夢叶。いい名前ですね。きっと、この子は夢をかなえますよ……』
こんにちは 自称ラブコメヒロインハッピーエンド確定作者の紅狐です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
こちらも長編作品を切り取り、短編にまとめてきました。
なので、妹とかがちょい役に……。
生徒会活動ももっとたくさんする予定でした。
長編も書こうか悩み中のひと作品でした。
『ヒロインは幸せに』が作者のモットー!
もし、よろしかったら下の☆を★にお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
他にも短編作品を投稿しておりますので、そちらも合わせてどうぞ~




