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公私混合


──コンコン


『しつれいしまーす』


 いいタイミングで戻ってきた。


「会長、意見箱にこれが」


 渡された紙一枚。生徒からの目安箱。

これも生徒会の仕事だな。


「なになに……。職場見学が毎年つまらない。もっと、身になるところを選んでほしい」

「身になるところですか……。確かここ近年は自動車工場、新聞社、サポートセンターとかでしたね」

「候補を探して顧問に伝えてみるか……」


 書記の方から熱い視線をいただく。


「会長、暇ですよね? 書類にハンコいただきましたし、候補地探してください。あと、副会長も一緒に」

「なんでだ? 俺一人でもいいだろ?」

「男女混合で考えた方がいいと思いますよ? 一人だと、偏りますから。よろしくお願いしますね」


 めんどくさいことになった。


「唯人、しょうがないから一緒に探そうか」

「……」

「嫌でも仕事。仕事はするんでしょ?」

「わかったよ。探せばいいんだろ」


 こうして、夢叶と一緒に放課後は候補地を探すことになった。


 ※ ※ ※


「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。これも仕事でしょ?」

「仕事だけどさ……」


 電車賃、バス代、入場料。

経費という名のもとに夢叶といろいろなところを下見に行く。


 事前にネットで調べて、問い合わせをして、現地を確認。

はっきり言ってめんどくさい。思ったよりも時間がかかる。

一日に二か所、回れるかどうか……。


「今日はここだね」

「魚市場か……」

「さすがに早朝のセリは無理だけど、解体や販売、市場の中は見ることができるよ」

「普段こんなところには来ないから、楽しそうといえば楽しいのか?」


 施設を見て回り、実際の解体、加工、販売するところを見て回る。


「どうでしたか? 思ったよりも広いでしょ? ぜひ皆さんでお越しくださいね」


 一通り見て回り、担当の方と別れる。


「わかりました。検討してみます」


「これ、お土産ね。先生には内緒よ」


 帰りがけ、お土産をもらってしまった。

電車の中、隣には夢叶が座っている。


「唯人、中身は何?」


 紙袋を開いて少しだけのぞき込む。


「魚缶、昆布、真空パックの貝。それと、カニ缶だ……」


 なんとも高級食材。もらってうれしい、食べ物ゲット。


「なんだ、おやつじゃないのか。だったら唯人にあげる。私はいらない」


 この生活水準の違い。

だから嫌なんだ。


「じゃ、ありがたくもらうな」

「うん、良かったら結良ちゃんと食べてね」


 俺の事を見下したセリフ。

そして、その余裕そうな笑み。

そこが嫌いなんだよ。

でも、今回はありがたくいただきます。


 ※ ※ ※


「で、今日は農家?」

「そ。ビニールハウスの栽培とか。ほら、この自動散布の機械制御とかすごくない?」


 二人で下見に何度も出かける。

夢叶は学校では言葉使いは丁寧で、キリっとしているが俺の前では適当な態度。

それは、俺に対してはちゃんとした態度を見せないということ。

どうでもいい扱いなんだよな、お前に取って俺は。


「あぁ、すごいな」

「唯人、あれ! イチゴだ!」


 夢叶は俺の袖をつかみハウス栽培をしているビニールハウスに走っていく。


「あっ、そんな引っ張るな!」

「ほら、見て! こんなに沢山の──」

「あ、危ない! う、うわぁっ─」


 ビニールハウスの中で盛大にこける。

全く、痛いじゃないか。


 俺は夢叶をかばって彼女の下敷きになり、自らの後頭部を地面に直撃。


「ご、ごめん……。頭、打たなかった?」

「打った。激しく打った。全部お前が悪い、なぜ走る?」


 腕の中の夢叶は思ったよりも小さかった。

昔と比べて、しっかりと女の子になっていた。


「えっと、答える前に離してもらってもいいかな?」


 のぅぅぅおおあああ!


「悪い」


 起き上がった夢叶は俺の手を引いてくれた。


「制服、汚れちゃったね」

「洗えば落ちる。気にするな」


 背中に着いた土を夢叶は払ってくれた。

そして、話し始める。


「あのね、唯人と一緒だと楽しかったの。ほら、昔みたいに遊んでいる感じがして、さ……」

「遊びじゃない。これは仕事だ」

「わかっている。でもね、でも、私にとっては、唯人と同じ時間を過ごせる、話もできる唯一の時間だったの」

「公私混同だな」

「それでもいい。私は、唯人ともっと話がした」

「俺は話したくない。帰るぞ」

「待って! なんで? なんでなの? どうして、私の事避けるの!」

「避けてない。お前の事が嫌いなんだ。しょうがないだろ」


 日が傾き、そろそろ日が落ちる。

ビニールハウスを出て外の空気に触れる。


「待ってよ。私が納得できる答えを言ってよ」

「納得? なんで納得させる必要があるんだ?」


 夢叶は何かに気が付いたのか、何か慌て始める。


「納得したい。ただそれだけ。私たち幼馴染でしょ? だったら話してよ、昔は仲良かったじゃん」

「必要ない。お前には関係のないことだ。ここの下見も終わったな、帰るぞ」

「待ってよ、まだ話は!」


 ハウスを離れ、一人で受付に戻る。


「すいません。見学ありがとうございました」

「はいはい。どう? うちのイチゴおいしそうでしょ」

「そうですね、あの大きさであの色。まさに姫王って感じでした」

「でしょ? これ、お土産。よかったら食べて」

「いいんですか?」

「いいのよ、次はお店でもここでもいいから買ってね」

「ありがとうございます」


 日が落ち、帰路に就く。


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