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朝は忙しい


 高校二年になった俺は、進学をどうするか悩んでいる。

大学へ進学するか就職するか。


 正直なところうちは貧乏だ。

進学するにしても、私立なんて無理。

今年高校受験する妹もいる。やっぱり就職する方が……。


「おはよっ」


 パジャマを着崩した妹が台所にやってきた。

時計を見るとそろそろ五時十分、起きるにはまだ早い。


「なんだ、まだ寝ていてもいいんだぞ?」

「んー、大丈夫。お兄ちゃん、今日も新聞配達でしょ? 洗濯、私がやっておくからさ……」

「あのなぁ、お前は今年受験なんだ。そんなことする時間があるなら単語の一つでも覚えろ」

「でもさ……」

「いいから。それに、寝不足は敵だ。ほら、もう少し寝てろ。後で起こしてやるから」

「ん、そうする。おやすみ……」


 部屋に戻っていった妹を背中に、俺は家を出る。

毎朝新聞配達をする。今年で五年目だ、もうベテランの域だな。


「おはようございます!」

「おはよっ! 準備はできているよ、気をつけてな」

「はい! 行ってきます!」


 販売店の社長さんとも付き合いが長くなった。

小一時間新聞を配達し、販売店に戻る。

六時四十分。いつもと同じ時間だ。


 この時間、俺は嫌な奴に会う。

配達のルートは変えられない、帰りは絶対にこの道を通らなければならない。


「おはよ。今朝も一緒だね」

「……」

「また無視するの?」

「仕事中」

「そっか。隣で走っても?」

「勝手にしろ」


 自転車と同じくらいの速度でついてくる彼女。

長い髪をなびかせ、毎朝同じ時間に同じ場所で会う。

いつの頃からか彼女は毎朝ジョギングをするようになった。

雨の日も雪の日も、いつでも走っている。


「今年で五年目だね、まだ続けるの?」

「……」

「そっか、仕事中だもんね。ごめんね邪魔して」


 俺の住んでいるアパートの隣。

一軒家に住んでいる彼女はいわゆる幼馴染だ。


 小さい頃は同じ幼稚園だったからよく遊んでいた。

妹もなついていたし、小学校に入っても多少遊んではいた。


結良ゆらちゃん、今年受験だよね? 唯人ゆいとと同じ学校に?」

「多分な」

「そっか。ま、一番近い公立高校だし、そうなるのか」


 だけど、だんだんと俺は現実を見てしまうようになった。


 うちは貧乏だ。

俺もこうしてバイトをしないと生活がもっと苦しくなる。

両親は朝早くから遅くまで仕事をしているが、一向に楽にはならない。


 彼女はお嬢様だ。

一軒家に住み、おしゃれをしていつも身だしなみを整えている。

持っているものもきっと高いんだろう。

俺とは住む世界が違う。


 付き合う友達は選ばないと。

彼女と俺は、生活の水準が全く違う。

俺は彼女から距離をおくようにした。


 しばらくすると販売店が見えてくる。


「じゃぁね。仕事、がんばってね」


 バイトをしたことないだろ、お前。

自分の収入を家に入れたことないだろ?

毎日うまいもの食べて、ほしいものは何でも手に入って、いつでも好きなことができて。


 どうして生まれたときから差があるんだ?

神様は不公平だ。


「戻りました」

「お帰り。ほい、いつもの」

「ありがとうございます」


 社長からもらう牛乳瓶。

いつも四本くれる。

俺と妹、それに両親の分まで。

どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうか。


「学校、がんばってね」

「はい、ありがとうございます」


 販売店から急いで商店街にあるパン屋に向かう。


「おはようございます!」

「おはよっ。いつものでいいかい?」

「お願いします」


 買ったのはパンの耳が大量に入った大袋。

毎朝新聞配達の後に買って帰る。


「今度新作のパンを出すんだ、これ試食品な。後で感想聞かせてくれ」

「わかりました。いつもありがとうございます」

「なーに、こっちも毎日助かってるよ。帰り、気を付けてな」


 家族に、街の人に助けられて俺は生活している。


 でも、一つだけ嫌なことがある。

毎朝あいつに会うこと。それだけはどうしてもいやだった。


  ※ ※ ※


 もらったパンの耳を砂糖の入った牛乳につけ、フライパンにバターを乗せる。

中火でコトコト、すぐに出来上がる。


 しかし遅い。そろそろ起きてこないと遅刻するんじゃないか?


「結良ー、そろそろ起きろー。朝ご飯できるぞー」


 声をかけてから数分後、肩を片方だし、おもいっきりパジャマを着崩した妹現る。

髪が朝見たときよりもよりもさらにボンバーになっている。


「しっかり寝たか?」

「ふぁい、おかげさまふぇ」


 洗面所で身支度を整え、準備した朝食に手を出す。


「お兄ちゃん、ちょっと時間がやばいかも」

「目覚ましは?」

「自動でオフになった」

「自分で止めたんだろ……。いつものでいいか?」

「いつものでいい。助かるよ」


 椅子に座った結良ゆらの後ろに立ち、髪をとかす。

黒く長い髪。この髪を見ると夢叶ゆめかを思い出す。

幼馴染のあいつと同じような長さの髪。


「一つ? 二つ?」

「二つ」

「はいよ」


 髪を後ろで二つに分け、それぞれを三つ編みに。

結良が小さな頃からしてきたので、すっかりと慣れてしまった。


「ほい、終わり。これでいいか?」


 手鏡で髪をチェック。

微笑む結良は満足そうだ。


「さすがはお兄様。いつも助かりますわ」

「その口調なんなんだ? ほれ、早くいかないと遅れるぞ」

「あっ、こんな時間! じゃ、行ってきます!」

「いってらー」


 今朝もバタバタ。

単身赴任で父さんは不在。

母さんも朝早くから遅くまで働いている。


 できるだけ俺も家の事をしないと……。


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