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怖い話

作者: 菊田よしお

疲れているときって取り止めもなくどうでも良い事を考えてしまうね

私は怖い話というやつが好きだ。

特に話者が実際に体験したとか、体験者から直接聞き取ったとかの所謂「実話怪談」というやつが大好きだ。

大好きだからその系統のやつは沢山読んだ。それ系の本や雑誌を山の様に買ったし、ネット上の掲示板に投稿されたものも貪る様に読んだ。小学生の頃から今までだから思い返すと膨大な量になるだろう。


だが、それだけの量読んでいるといつしか気づいた事がある。

それは、話の中の体験者というやつが、大体の場合普段の日常と違う状況、或いは精神的に平常では無い時に「体験」しているという事にである。

例えば、夜道で幽霊を見た、という奴は大抵、会社の残業で夜遅く帰宅の途中であったり、友達と飲んで盛り上がり、肝試しに向かった先でとか。

殆どの話が仕事上のストレスで疲れている、人間関係に悩んでいる、アルコールが入っている、テンションが高い、若しくは低いとか、仕事が変わったばかり、キャンプや旅行に行った先、引っ越した先など、本人達の自覚の有無を問わず精神的な負担が生じて居るであろう状況ばかりだ。


話の主人公達はそんな精神にテンションが掛かっている状況である種の情報が加えられる。ここの部屋では前に自殺者が出た、戦時中空襲で沢山亡くなった、前にここで幽霊を見ておかしくなった奴が居る、などの「いわく」というものだ。


そうしてその「体験」をするのだ。

思うにオカルト的体験というやつは精神的に不安定な時に脳が見せる幻覚なのでは無いか?精神に負担が掛かったときに「いわく」という情報に補強されて脳が無意識に見せる幻覚。


無論、「実話系怪談」と銘打ってはいるが事実かどうか確認出来ないのだから作者の作った完全創作なのかも知れないし、それにリアリティを付ける為にそんな状況設定をしているのかも知れない。


私自身がこれまでオカルト的体験などしたことなかったのだから霊の実在など本当かどうかわからない。

だが実話系怪談が事実であったとしても、私にはそれがオカルト的なものではなく、精神病理的な物理現象に思えてしまうのだ。

ただ、それでも私は怪談話が大好きだし、これからもそういったものを読み続けるのは変わらない。その程度では失われない魅力があるのだ。実話怪談には。


そんなつまらない事を考えながら私は事務所に居た。

10時49分、地方都市のオフィスビルの6階、ささやかな役職と引き換えのサービス残業である。年度末の様々な雑事が私にそれを強いていた。事務所には私だけ、明かりもほぼ消され、ぼんやりとパソコンのディスプレイだけが光っている。


脳が無意識に見せる幻覚。


ならば。


あの窓の外に立つ頭のひしゃげた女もまた、ただの幻覚なのだろうか。


私もまた、実話怪談の主役の一人になれたという事なのかな。あはは。

疲れているのかね

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