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シャーロットのダンスパートナー

 クレイグ伯爵家令嬢シャーロットのお誕生会まで、残り五日。

 昼のダンスレッスン後、エレナが大きな衣装箱を部屋に運んできた。

 誕生会の衣装を用意されないシャーロットを見かねた家庭教師のマーガレットが、子供部屋の調度品を適当に売り払った金で仕立てたドレスだ。

 花を飾れない代わりにレースとリボンをふんだんに使い、踊るとき裾を踏まないようにスカートは足首が見える長さ、布をたっぷり使用したフレアスカートでダンスの片足立ち34回転すると美しく花のように広がる。


「アタシの一番弟子、シャーロット様の可愛らしさと清らかさが引き立つようなデザインにしたわ」

「マーガレット先生、ありがとうございます。庭師のじいやが持ってきた、お部屋で咲いている薄桃色のお花みたいに可愛いドレス」

「シャーロット様、まるで花の精のように愛らしいです。さすがマーガレット様の見たてたドレスですね」

「それにしてももったいないわ。こんなにシャーロット様は可愛らしいのに、ダンスを踊るパートナーが居ないなんて」


 大喜びではしゃぐシャーロットのドレスをエレナが着付けていると、なにかを思い出したようにマーガレットが声をかける。


「ところでエレナは、そのクソダサいメイド服姿でシャーロット様の誕生パーティに参加するつもり?」

「えっ、この服装ではいけないのですか?」

「聖女シルビア様に仕える使用人にもドレスが必要だと、奥様は言っていたわ。エレナはドレスの話を聞いてない?」

「そう、ですね。私はこの屋敷に勤めて、一回しか奥様とお話ししたことありません」


 素っ気なく答えるエレナに、マーガレットは大げさにため息をつき、シャーロットは心配そうに見つめる。

 

「伯爵家務めのメイドなのに、ドレスを一枚も持っていないの?」

「私は騎士学校中退後メイドになったので、普通の娘とは違うかもしれません」  

「学校辞めてメイド、それなら仕方ないわね。えっ、ちょっと待って、本当に騎士学校に通っていたの?」


 とつぜんマーガレットの声が裏返り、好奇心で瞳がランランと輝く。


「確かにエレナはエルフの祖先返りで線が細くて、女の色気が無い。中性的な雰囲気があるから、騎士姿が似合いそう」

「マーガレット様、私を褒めているのですか、貶しているのですか」

「アタシは褒めているのよ。野暮ったいメイド服でシャーロット様の側に立つより、騎士の姿で居た方がマシ。それではエレナ、今すぐ騎士学校の服に着替えてきて」


 マーガレットに有無を言わせぬ強い口調で命じられたエレナは言い返そうとしたが、シャーロットの気遣うような視線にしぶしぶ了承する。

 子供部屋を出て三十分後に戻ってきたエレナの姿に、マーガレットは言葉を失う。


「えっ、ちょっと待って、騎士学校四聖を示す赤紫色のベストにシルバーのチェーン。それに胸の紋章は、君主直属の近衛兵を育成するグリフォン騎士学校の証」

「ああ、そうですね。下級騎士の娘が四聖に選ばれたので、出来の悪い貴族子息に随分と妬まれました」

「グリフォン騎士学校は実力主義。いくら身分が高くても弱い役立たずは騎士になれないからね」


 騎士学校の正装をしたエレナは、メイドとして目立たぬように少し前かがみだった姿勢を正し、顔をあげ胸を張る。


「エレナ、絵本の中の勇者様みたいにカッコいいわ」


 凛々しい男装の麗人に変身したエレナを見たマーガレットは、嬉しそうに手を叩く。


「これでシャーロット様のダンスパートナーが決まったわ。騎士学校四聖なら、ステップの一つくらい踏めるでしょ」

「私のようなメイドが、シャーロット様のダンスパートナーなんてつとまりません」

「アタシはメイドじゃなくて、騎士学校四聖の貴方にお願いしているの。騎士が主人の姫様をひとりで踊らせるつもり。誕生会までほとんど時間がないわ。エレナ、シャーロット様の手を取りなさい」


 怒鳴るように告げると、マーガレットはピアノの鍵盤を叩き、ワルツのリズムを奏でる。

 呆気にとられているエレナにシャーロットが駆け寄ると、フレアスカートをつまんで腰を落とし挨拶をする。

 エレナはシャーロットに向き直ると手を差し出し、少し大人びた表情でシャーロットは手を取るとステップを踏みながらクルクルと回る。

 子供の手習いと侮っていたエレナは、シャーロットの速くてリズミカルなステップに慌てて合わせた。

 気を抜けばダンスのリードをシャーロットに奪われそうだ。

 

「ふたりとも、初めてとは思えない息ピッタリのダンスだったわ」


 一曲躍り終えたエレナに、マーガレットは満足げに声をかけた。

 自分のダンスは合格点らしい。


「シャーロット様のお誕生会には、王族の方も招待されているわ。もしかしたらエレナの同級生も王族の護衛で参加するかもね」

「マーガレット先生、本物の王子様もいらっしゃるの」

「聖女候補のシルビア様に会うために第三王子と、珍しく末席の第五王子が参加すると聞いたわ」



 *



『ワルツワルツれぼりゅーしょん・世界ランカーTOP30の僕に、エレナはよく付いて来れたな』

「やはり、あのワルツを踊っていたのはゲームオ様ですね」


 僕が音楽ゲーム【ワルツワルツれぼりゅーしょん】で培った超絶ステップ・リズム感。

 どうやら昼間は僕の意識は無くても、身体が覚えていることをシャーロットは使いこなせるらしい。


「あれほどのワルツが踊れるとは、ゲームオ様のパートナーはさぞかしダンスが上手いのでしょう」

『僕のダンスパートナァ、あははっ、そうだな……』


 言えない、ぼっちで出来る音楽ゲームで、美少女ゲームキャラ抱き枕がダンスパートナーなんて言えない。

 何とか笑って誤魔化しながら、僕はとある疑問を口にする。


『それにしてもエレナは魔力持ちで無いのに、よく騎士学校の四聖に選ばれたな』

「魔力持ちは、敵の属性によって得手不得手がありますから、苦手を持たない魔力無し騎士は重宝がられます」

『そういえばシャロちゃんがエレナのことを勇者みたいと言っていたけど、騎士のトップと勇者では、どっちが強いかな』

「勇者はこの百年間出現していません。勇者は魔王がいなくては現れません」

『えっ、聖女はいるのに、勇者や魔王がいない?』


 ゲームの世界では、魔王と勇者と聖女が存在する。

 勇者ハーレムゲームのシナリオは全て女性キャラがらみ、男性キャラ設定は十文字以内と清いほど手を抜かれていた。

 確か魔王は、とある青年が姉妹を殺した王族に復讐を誓い、魔王が封印された核を手に入れたが逆に取り込まれてしまう設定だった。

 悪ノ令嬢シャーロットが魔王側に付くのは、十三才で政略結婚の後、未亡人になってから。


『つまり今はまだ魔王も勇者も存在しない、ゲーム以前の世界。彼らが現れるのはこれから』


 思わず呟きが漏れてしまい、エレナが怪訝そうな顔で僕を見る。

 そうだ、僕がこの異世界で目覚めてもうすぐ二ヶ月が経つ。

 しかし部屋に軟禁されて一度も館から出られず、窓から見える景色しか知らない。

 僕はなんとしても、この館の外の世界を知りたい。

 誕生会に参加する王子と関わりを持てれば、知りたい情報を入手できる千載一遇のチャンス。


『シャロちゃんの愛らしさなら王子を手玉に取れると思うけど、トド母に邪魔されそうだ。ここは確実にお誕生会計画を遂行、成功へ導かなくては』

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