表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おねえちゃんは熟睡中

作者: ピッチョン

【登場人物】

萩坂はぎさかえみな:高二の妹。姉の熟睡ぶりを見てよからぬことをたくらむ。

萩坂せりな:高三の姉。寝付きがよく一度寝たらなかなか起きない。


 もしもあなたがとても空腹で、偶然迷い込んだ民家の机の上に美味しそうなおまんじゅうを発見したらどうするだろうか。

 渇しても盗泉の水は飲まないとその家をあとにするのか、それとも欲望のままに食べてしまうのか。

 ただのおまんじゅうなら我慢することもできよう。しかしおまんじゅうではなくあなたが目にしたこともないごちそうだったら? グルメ漫画に出てくるような美食を追求した料理だったら?

 それでも躊躇をする人がいるのは、『もし食べたことがバレてしまったら』と考えてしまうからだ。では『食べたことは絶対にバレないし、食べた後にまたその料理が机の上に出現する』となったらどうだろう? それならば、と食べてしまう人がほとんどなのではないだろうか。

 つまり何が言いたいかというと。

 もしも目の前に美味しそうなおねえちゃんの唇があったら誰だってキスしたくなるだろう、ということ。

 …………。

 待った待った私は別に変態でも異常者でもない。

 ただちょっとおねえちゃんが好きな可愛い妹というだけ。

 考えてもみて欲しい。好きな人と毎日一緒に生活して、その無防備な体や寝顔を間近で拝見して、多少なりとも劣情をもよおさない人間がいるだろうか。いやいない(私調べ)。

 むしろ寝ている間にちょっとばかりのスキンシップをするくらいで済んでいる私を褒めてほしいくらいだ。

 え? いくら姉妹でも寝ているときにキスをするのは犯罪じゃないかって?

 そこはご安心を。

 私のおねえちゃんは眠りが深く、一度寝てしまえば滅多に起きることはない。近くでサイレンが鳴ろうが地震がおきようが眠ったままなのは私がよく知っている。

 そしてこれが最も大事なことだが――『バレなきゃ犯罪じゃない』。

 キスをしてもバレない。バレなければ犯罪じゃない。A=B、B=C、よってA=C。QED。

 というわけで家族が寝静まった深夜2時。私は抜き足差し足でおねえちゃんの部屋へと向かった。

 音が鳴らないようにドアを開ける。おねえちゃんは今日もぐっすり眠っているようだ。そぉっと部屋の中へと侵入し、帰るときのことを考えてドアは完全に閉めないでおく。

 常夜灯の薄暗い橙色の明かりの中、おねえちゃんの元へと近づいていく。おねえちゃんは寝ているときの姿勢もいい。布団を乱すことなく安らかな寝顔を天井に向けている。

 耳をすませるとすぅすぅと可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 長居は出来ない。泥棒と同じで犯行時間は短ければ短いほどいい。いや別に今やってるこれが犯罪行為だと認めたわけではないのであしからず。

 まずは枕元にしゃがみ、おねえちゃんの耳たぶに触れる。白玉のごとき柔らかさに私の頬がだらしなく緩む。ストレス解消用におねえちゃんの耳たぶキーホルダーが発売されたらとりあえず1ダース買う。

 十分堪能させてもらい、ほくほく顔でひたいをぬぐった。おねえちゃんに起きる気配はまったくない。そろそろメインディッシュをいただくとしよう。

 ぷっくらとしたおねえちゃんの唇に視線を向ける。薄暗いせいで色がはっきりと見えないのがもったいないが、私レベルになると脳内で色調補正ができるので問題はない。すでに私の目にはおねえちゃんの唇は艶やかなピンク色に見えている。

 胸の上下に合わせて唇から息が漏れている。かすかにあいた唇と唇の隙間を私は『魅了の吸引孔シスターズブラックホール』と呼んでいる。命名の由来はずっと見つめているとそこに吸い込まれそうになるからだ。

 私は両手を合わせて一礼したのち、『魅了の吸引孔』に唇を付けた。

「ん……」

 おねえちゃんが小さく呻くが大丈夫。これで起きたことは一度もない。私はまず唇全体でおねえちゃんの体温を感じてから上唇を吸い、下唇を吸い、最後にまたキスをしてから唇を離した。

 ハンカチでおねえちゃんの口元を拭き、ほっぺを撫でてから立ち上がる。

「……おやすみ」

 聞こえるか聞こえないかの声で囁いておねえちゃんの部屋をあとにした。

 おねえちゃんとキスをしたあとは気分が良い。実際おねえちゃんとキスをするようになって(無許可)、私もぐっすり眠れるようになった。これはおねえちゃんからエネルギー的な何かをもらっているからに違いない。さすがはおねえちゃん。

 意気揚々と自分のベッドに戻り、私は安らかに眠りについた。



    ◆   ◆



 ドアがほとんど音もなく閉められてから私は目を見開いて胸中で叫んだ。

(おやすみとか言って起こしてるのはそっちやろがい!)

 思わず普段と違う口調になるのもしょうがない。寝ているところを妹にキスされて動じない姉なんているだろうか。いやいない(私調べ)。

 妹のえみなが私にキスをしだしたのは多分一カ月くらい前からだ。多分、とつけるのはもしかしたら私が起きなかっただけでそれ以前もされていたかもしれないから。

 私は基本的に一度寝たら朝が来るまでほとんど起きないほどの安眠体質だ。じゃあ何故妹の悪行に気付けたのかというと簡単な話で、呼吸を止められたから。

 意図してのことではないのだが私は寝ているときたまに口呼吸になっているようだ。そしてそのとき唇を塞がれて息苦しくなり目が覚めた、というわけ。

 最初に起こされたときは夢だと思った。だって普通に考えて深夜に目覚めたら妹にキスされてましたなんて色々とぶっ飛びすぎている。

 だったら何故そのとき起きて妹を注意しないのだと思われるかもしれない。そこには昨今の情勢を鑑みた深い事情があるのだ。

 もし仮にえみなを叱り付けてキスしないように言い聞かせたとしよう。

 おそらくえみなはこう考える。『おねえちゃんにバレた。生きていけない』、と。

 そうなれば次に妹と会うのは富士の樹海かもしれない。それよりも最悪なのはヤケになって暴れるパターンだ。通り魔的犯行に及び逮捕されたあげく犯行動機に『姉への想いが拒絶されたから』と新聞の一面に書かれるのだ。町を追われた私達家族は離散、今後の人生をずっと日陰で怯えながら過ごすことになる。

 まぁそこまでは考え過ぎだけど、出来ることならえみなへのダメージを最小限に抑えて注意したいと思う姉心。結局どう注意したものかと考えているうちに一カ月経ってしまった。

 今はキスだけだがさらにエスカレートする可能性もある。……具体的に何がどうとかは言いたくないし、妹が無理矢理そんなことをする人間だと思いたくないが。

 よし決めた。次の休みの日に罠をしかけよう。そしてえみなが罠に掛かったらそのときにきちんと注意しよう。

 そして休みの日。お母さんが用意してくれていたお昼ごはんを食べて少しリビングでテレビを観たあと、近くにいるえみなに聞こえるように呟いた。

「ねっむ……ちょっと部屋で寝てこようかな」

 自室に戻るとそのままベッドに仰向けに倒れ込んで目をつむった。

 さすがに露骨過ぎてえみなも怪しむかもしれない。それならそれで私が感づいていることに気付けば夜に忍び込むこともなくなるだろう。

 そうして待つことしばし。

 ――カチャ。

 ドアノブが回る小さな音。細心の注意を払っているのか足音はほとんど聞こえない。かすかに聞こえる衣擦れの音が人の存在を確かに示している。

(本当に来るなんて)

 自分の妹ながら思考が単純すぎやしないだろうか。

 まぁいい。あとはえみなが私にキスをしてきたら捕まえて、いかにも今日初めて気付いた風を装って『イタズラでもこういうことしたらダメだよ』と優しく注意する。初犯扱いにすることとイタズラとひとまとめにすることでえみなへの心的ダメージを減らそうという魂胆だ。

(さぁこい)

 キスをされるのを待つというのも変な話だが、まぁ最初から変なのだから仕方ない。

 けれどえみなはなかなかキスをしてこなかった。気配的にベッドの近くに立っているはずなのだが――。

(動いた!)

 えみなの衣擦れの音に私は身構えた。唇に意識を集中させる。今日唇が乾燥してたからリップクリームでも塗っておけばよかったかな。そっちの方がえみながキスしやすかったかも。

(ん?)

 ふとお腹のあたりに違和感を覚えた。お腹の上を服がめくれていくような感覚。

(めくれていくようなじゃないよ! めくられてるんだよ!!)

 目をつむっているので見て確認は出来ないが、確かに私の服がめくられていっている。服は私の胸の上のあたりまでめくられて停止した。

(そ、そうかっ、いつもは掛け布団があって服を脱がしたり出来ないけど今私はなんの布団もかぶっていない。だからこそえみなは未知の領域へ足を踏み入れたんだ)

 それこそまさしく私が危惧していたことだった。

 家に姉妹二人きり。ベッドで無防備に眠る姉。姉への情欲を抑え切れない妹。

 これはもう危機なのでは。私の貞操の危機なのでは。

 えみなの指がつぅと胸の下からおへその辺りまでなぞっていく。体がびくんと反応しそうになるのを必死で耐える。

 心臓がばくばくと脈打っている。えみなの次の行動次第では抵抗しようと覚悟を決めた。

 そのときえみなが呟いた。

「……なるほど」

 めくれた服が戻されていく。服が完全に戻る直前に私の脇腹にキスをされた。

 最後に私の頭を優しく撫でてからえみなは部屋を出て行った。

 …………。

(なにがなるほどなんじゃい!)

 私の生肌を見て何を納得したのか。ダメだ。妹の思考がさっぱり読めない。何で今回は唇にキスせずにあっさり引き返したのだろう。

(まさか今の私の唇にはキスをする価値がないと!? やっぱりリップクリームを塗るべきだった!?)

 鏡で自分の唇を確かめている間、形容し難い寂しさを感じていた。



     ◆   ◆



 せっかく明るい時間に寝てくれたからおねえちゃんの裸体を見ようと思ったのだがブラジャーという高い壁に阻まれてやむを得ず撤退と相成った。

(フロントホックならなぁ。でもおねえちゃんってそのタイプの持ってたっけ)

 こっそり下着入れに忍ばせておけば着てくれないだろうか。いや無理か。買った覚えのない下着とか怪しすぎる。

 それでも明るいときに見るおねえちゃんの肌は最高だった。指でなぞったときの感触はしばらく忘れられない。本当はもっと堪能したかったところだが、いつもよりおねえちゃんの眠りが浅そうだったので早々に切り上げた。

 成果はあまり無かったがバレたときのことを考えればやむをえまい。

(……せめてブラの隙間からつつくくらいすればよかったかな)

 寝ている姉の胸をつつくなんて変態だと思う人もいるだろう。それは誤解だ。これはある種の実験も兼ねている科学的探求心に基づいたものなのだ。果たして胸の柔らかさに姉妹でどれほどの差があるのか。また姉の胸に触れたとき私はどういう心境になるのか。

 もちろんいやらしい気持ちだってある。それは否定しない。けれど逆に聞きたい。目の前に大好きな人が横たわっていて裸にタオルが掛けられた状態だとして、そのタオルを剥ぎ取らない人間がいるだろうか。いやいない(私調べ)。

 なおかつその体の上には見事なごちそうが山ほど乗っかっているのだ。食べようとしない人間などこの世にいない(断言)。

 しかし、私は千載一遇のチャンスを逃してしまった。これは由々しき事態だ。

 次のチャンスが来るのを気長に待つしか方策はないのだろうか。そんなことはない。

 いつだって困難は自分の力で切り開いていかなければいけない。

 ときにはリスクだってある。努力が報われないときもある。それでも私達は進む道の先に光があることを信じて歩み続けるしかないのだ。



     ◆   ◆



 妹が私の就寝中に掛け布団を剥ぐようになった。

 そして服をめくって上半身を(あらわ)にさせるとお腹や脇腹を撫でた後、つつくように胸を触り、服を戻したあと唇にキスをして布団を整えてから部屋に戻っていく。

(悪化しとるやないかーい!)

 先日の一件はなんだったのか。むしろあのせいでふっ切れたのかと思うほどえみなの行動が大胆になっている。

(欲望が理性に勝ち始めたのかもしれない。そうなるといよいよ私の貞操が危ない)

 だったら早いとこキスされたときにえみなを捕まえろと思うかもしれないが、行動がエスカレートしてきた今となっては夜に注意することは逆に危険だ。なにもかもを投げ出したえみなが最後の手段、『バラされたくなければ大人しくしてるんだな』をとるかもしれない。

 出来るだけ穏便に、また位置関係的に私が不利になっていないときに注意をするしかないだろう。

(注意するとして、『夜になにかしてるみたいだけど、私の睡眠の邪魔になってるからやめて欲しいな』みたいな感じかな。割と最近本当に寝不足になってきてるからどうにかしないと。えみなにも私のつらさが分かれば自重してくれるようになるかな)

 瞬間、天啓が降りる。

(――そうか。えみなが同じことをされてみればいいんだ)

 翌日の深夜、いつものようにえみなが私の部屋に来て、一通り済ませてから自分の部屋へと戻っていった。

 それから一時間後。今度は私がえみなの部屋へと忍び込んだ。やってみてわかったことだが音が出ないように歩いたりドアを開けたりというのは結構難しい。それを当たり前のように行う我が妹のスキルに驚嘆するとともに情けなく思う。

 無事えみなのベッドまで気付かれることなくたどり着けた。静かにぐっすりと眠っているえみなを見ていると無性に腹がたってくる。

(人の睡眠を妨害しておいて気持ち良さそうに眠ってらっしゃることで)

 薄明かりの中、私はえみなに顔を近づけた。唇が近づくにつれて本当にやるのか、やっていいのかと逡巡する気持ちが芽生えてくる。

(こういうのは勢いが大事――えぇい、ままよ!)

 ぴと、と私の唇がえみなの唇にくっついた。

(ど、どうだ――)

 …………。

 キスをしたままいくら待ってもえみなが起きる様子はない。鼻で呼吸をしているからか口を塞いだところで眠るのに支障はないようだ。むしろさっきより幸せそうな顔になっている。

(むか)

 鼻を摘まんでやる。一秒、二秒――。

「――んぁっ!」

 やっとえみなが起きた。目をしばしばさせた後、首だけ持ち上げて私の方をみた。

「……おねえちゃん?」

「おはよう、えみな」

「ふぇ、あさ?」

「そうだね、超早朝だね」

「へ……? なんで……」

「寝てるときに起こされるつらさをえみなにも分かってもらおうと思って」

「……?」

 寝起きで頭が働いていないようなので分かりやすく伝えてあげる。

「私が寝てる間にキスしてるでしょ? そういうのはしちゃダメだからね」

「――――」

 ぼんやりした表情が一変、えみなが起き上がり叫ぶ。

「おねえちゃんにバレた! 生きていけない!!」

「待って、こら待ちなさい!」

 四つん這いになって窓の方へ向かおうとするえみなを慌てて止める。

「だって、だって、おねえちゃんに嫌われたらもう生きていく意味ないもん!」

「嫌ってない、嫌ってないから落ち着きなさい! 騒いでたらお母さんたち上がってくるよ!?」

「…………」

 お母さんたちにまでバレたくないと思ったのか、えみなはしゅんとおとなしくなった。

 えみなを羽交い締めしたまま息を吐く。

「嫌われたくないなら寝込みを襲うようなまねするんじゃないの」

「だってぇ……おねえちゃんの唇が……シスターズブラックホールがぁ……」

 意味の分からない言葉を呟いているえみなを落ち着かせるように抱き締めてぽんぽんと頭を叩く。

「いいから、ちょっと落ち着きなさい」

 しばらくそのまま抱き締めていると、腕の中でえみながぽつりと呟いた。

「……ほんとに私のこと嫌いになってない?」

「なってないよ」

「ほんと?」

「ホントだって」

「じゃあ何に怒ってたの?」

「あのねぇ、寝てるときにキスされたり服めくられたりして起こされる私の身にもなってよ。最近寝不足気味なんだから」

「ご、ごめんなさい」

「分かればよろしい。これからは私が寝てるときに変なことしない。いい?」

「うん。………………それって起きてるときはしていいの?」

「睡眠を邪魔しなければ――え、なにが?」

「おねえちゃんが起きてるときだったらキスしてもいいの?」

 よくはない。よくはないが、すぐにそう返答できない理由があった。

 たったひとりの可愛い妹からチワワもかくやという懇願されるような視線を向けられて、それを無下にできる姉がこの世にいるだろうか。いやいない(私調べ)。

「ま、まぁ、時と場合によるけど、まぁ……」

「ほんとに? 同情で言ってるんじゃなくて?」

 何でこういうときだけ冷静に状況を見てるんだ。

「同情もちょっとはあるけど、えみながそうしたいって言うならおねえちゃんは別に嫌じゃないし……」

 最初からえみなのキスを嫌なものだなんて一回も思ってない。寝てる間にされてたことに驚いただけだ。

「おねえちゃん――」

 えみなが感極まった表情で私にキスをしようとした。ので片手で顎を掴んでそれを突き放す。

「――なんで?」

「今何時だと思ってるの。明日、じゃなくて今日も学校でしょ? さっさと寝なさい。私も寝るから」

「起きてるうちにキスしたい」

「TPOを弁える。じゃないともうキスさせてあげません」

「そんな~……」

「決まり事として、キスをする前に必ず私から同意を得ること。もし破ったら――家族会議ね」

「……わかった」

 しぶしぶ了承したえみなのおでこにキスをする。

「物分かりのいい妹にご褒美」

「お、おねえちゃんだけ勝手にキスしてずるい!」

「それがおねえちゃんの特権です。じゃあほら早く横になって。うん。おやすみ、えみな」

「おやすみなさい、おねえちゃん」

 えみなに布団を掛けてから自室へと戻った。

 思い描いていた解決とはちょっと違ったが、とりあえず私の安眠はこれで守られるだろう。起床時間まで短いが今日は枕を高くして寝られそうだ。

 私は約一カ月ぶりに穏やかな気持ちのまま就寝した。

 …………。

 ピピ、ピピ――。

 アラームの音で目が覚める。睡眠時間の割にここ最近では珍しく頭が軽く体調がいい。

(ん……? なんか横に固いものが……)

 こんな固い枕あったっけ、と手探りで確かめる。

「う……んん……」

 声がした。当然ながら私の部屋に声の出る固い枕なんて置いていない。

 布団をばさりとめくるとそこにはえみなが丸まって眠っていた。

「……えみな?」

「んー……」

 無意識の返事。完全に寝ぼけているので鼻を摘まんでやった。

「――んぁっ、な、なに……?」

「なにじゃなくて、なんでえみなが私の部屋にいるの? もう寝てるときに変なことしないって約束したよね?」

「うん、だから何もしてないよ。ただ添い寝しただけ」

「……なんで添い寝しようと思ったの?」

「朝起きて一番にキスしていいか聞きたかったから」

「…………」

「……いい?」

「はぁ……いいよ」

 やったぁ、と喜んで私にキスをするえみなを黙って受け入れた。えみなは私の言った決まりをちゃんと守ろうとしている。ならばそれに応えるのがおねえちゃんの務め。

 今後のことを考えると先が思いやられるが、ひとつだけ良いことがあった。

 えみなが横で寝てくれると私の睡眠の質が向上するみたいだ。

 だったらまぁ、これからも一緒に寝てもいいかなと思う。

 可愛い妹に添い寝をされて嫌がる姉がこの世にいるだろうか。いやいない。



            終


最近姉妹ものばかりですが書きたくなったので。


就寝中のキスは彩歌姉妹でもありましたがそれとはちょっと毛色を変えてみました。

相変わらずこういうキャラは書きやすい。ともすれば手癖で書いてしまいそうなくらい。

構図が『姉は妹に愛されたい』と似ているのもそのせいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 甘やかしの姉と甘えん坊の妹。 これで何もおきないわけが無く……。 「なんでもキスで~」もそうだけど、姉妹イチャラブの書き方がエロい。 ノクタじゃないからこその、制約の中でのエロさが良い感…
2019/10/31 12:13 快速窃盗団
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ