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「Sのことなんて全く考えとらん、おいの自己完結の自己満足って言うなら、言えばよか。ただ、おいが思う気持ちだけは、おいのもんやし」

 今更恥ずかしくなったのか、山口は、さらに恥ずかしくなるような言い訳をして、グラスを一気に乾かした。ボタンを押して、また「カミカゼ」と注文した。

 この話題は終わりだと言うように、氷を一つ口に入れ、ガリガリと噛んでいた。

少しの間、二人とも黙って酒を飲んだ。

 二杯ほど飲んでから山口は、川野が山口の罪状などをA4用紙にまとめて教授に提出していたことや、川野が使っていた研究室のパソコンの検索履歴に、学科の女子の数人の名前と出身地が残っていたことを話した。自分はそれも、学科のやつに知られないようにしてやったと言って、優しかやろ? ひゃははは、と笑った。

「その、Sさんと連絡を取ろうとしていたことを知るまでの、二人の関係はどうだったんでしょうか?」と訊くと、

「おいは、話しても面白くなかやつとしか思っとらんやった。あいはその前からニヤついておいを貶すことばずっと言いよったけん、嫌いやったんじゃ?」と、頭をかいて答えた。

 それからわたしが質問して、山口が答えるというのが続いた。しかし途中で山口は「煙草吸ってくる」と言って席を離れ、そのまま戻って来なかった。三十分ほど待つと、二時間の飲み放題の終わりを告げに来た店員が、「お連れ様から、時間になったら渡すよう言われました」と、千円札を一枚わたしに向けた。

それを受け取って会計をして、わたしも店を出た。席を離れる前に、彼のグラスに少しだけ残ったカミカゼを一口飲んでみた。飲んだことのないお酒に、興味がわいたのだ。それは融けた氷で薄まって、美味しくはなかった。


追記

夏期休暇中の大学で、何度か山口とすれ違えた。彼は高い身長に加え赤く、大股で胸をぐいと張り、肩を前後させて大きく歩くので、毎回すぐに気付けた。

わたしはその度にいくつか質問をして、彼はそれに答えたり、答えなかったりした。彼かわたしが冗談を言うと、ひゃはははは! と、周りが振り向くほど大きな声で笑った。それは少し、恥ずかしかった。

川野弘人がなぜ彼に執着するのかを聞くと、「自虐ネタばかりやる、イジラレる俺を下に見てたんだろう。その下であるはずの人間が自分を見下してるのが、認められないんだろ」と答え、川野との共通点を聞いたときは「自己愛が強すぎるところと空気が読めないとこ。それから、痛々しいところ」と答えた。真面目に答えもしたが、あいつ俺に惚れてんじゃねぇの? なんて冗談を言ってまた、ひゃははは! と笑ったりもした。

日の下で見る彼の目元には、深い隈が見えた。きっと、関羽のように尊大に歩き、張飛のように大声で笑う彼の精神は、荀彧のように脆いのだ。

川野が死ぬかもしれないとわかっていて殴ったのかを聞くと、俺はそんなに機転が利きそうに見えるんか? と言って、苦笑いした。

川野弘人は、すでに帰国している。明日はついに、川野に話しを聞く日だ。

川野弘人の山口亮太への執着は、どこから来るのだろうか。そして彼は、どんな男なのだろうか。

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