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Act.9「一緒に住んでても心は離れている」

 日が変わってお日様が昇って沈んで夜。昨日まで住んでいたところとは違う家に帰ってきた。

 父は「なんだよー、ラブラブじゃねえかよー」って上機嫌に言いながら、資産運用の関係で所有していたマンションの一室を俺たちに与えた。一緒に住めとのことらしく、例によって二つ返事で受け入れた。

 で、さっそく問題にぶち当たっている。


「なー、これから一緒に暮らしていくわけなんだからさ、仲良くしようよ」

「……」


 無視。なんなんだこいつ。一緒に暮らさなきゃいけない以上、いつまでも険悪な仲ででいるわけにはいかないなと思って大人の対応をしてやってんのに、今日はずっとこんな調子だ。ダイニングテーブルを挟んだ俺の対面に姿勢よく座って、手以外はピクリとも動さず、一心不乱に本を読んでいる。本にはカバーが掛けられていて何を読んでいるのかわからない。若干縦に長いから多分新書だと思う。

 そんなことより、どうしたら話してくれるんだ。気まずすぎて昼間なんて外出という体でつい逃げてしまったし。でも、さすがにいつまでもこんな関係でいるのも良くないし……。

 何とかならんかねと彼女の顔をじっと観察してみる。

 マスカラとか塗ってないのにまつ毛はめっちゃ長いし、西洋の人みたいに鼻は通ってるし、肌は雪みたいに真っ白だ。ぶっちゃけガチで美人なのでその点は結婚相手として嬉しく思ってはいる。その見た目でカバーできない中身を度外視すればの話なんだけど。


「……」


 ふと、つやのある小さな唇に視線が行く。

 正直一瞬だったし頭が真っ白になってたから感触とかあんまり覚えていない。ただその事実だけがのしかかってきてクソ恥ずかしいし変な気分だ。あっつ、エアコンつけよっかな。

 一人で勝手に気まずくなって目を逸らしたり、でもやっぱり見たいなっていう欲望に負けてチラチラ見たりしているとその視線に気づいたのか、彼女はふと顔を上げた。


「ジロジロ見ないでくれるかしら。鬱陶しいのだけど」

「ごっ、ごめん」


 突き刺すような視線を受けて、反射的に謝ってしまった。


「……ここまで言われて口答えの一つも無いなんて、あなたやっぱり変ね」


 鼻で笑われた。いや、俺悪くなくない? 自分から突っかかってきてさ。ケンカしてこれ以上気まずくならないようにこっちが折れてあげてんだから感謝しろよなみたいなことは別に考えてないですすみませんすみませんそんな顔しないで。


「俺はただ、仲良くしたいなって思って」


 言葉尻がどんどん萎んでいくのが自分でもはっきり分かった。怖すぎて直視できないから、視線をあちこちに彷徨わせていると、呆れたようなため息が聞こえてきた。


「昨日も言った通り、私は父の後を継ぐために婚約という形式を保てるなら相手のことなんてどうでもいいの」

「うっ」


 ここまで正々堂々ストレートに言われると何も言えなくなる。


「私みたいな美女とたまたま縁があっただけで何か勘違いしているのかもしれないけど」

「しっ、してないから!」


 動揺のしすぎで我を忘れて否定してしまった。その勢いで彼女と目が合う。冷ややかな目で真っすぐと俺を見つめている。その視線は背筋が凍るくらい冷たくて、これ以上の反論を許さなかった。

 姿勢がいいせいか彼女の目線は俺より若干高く、見下されているようにも感じられて今までにないくらいの酷い辱めを受けてる気分になる。正直今すぐ逃げ出したい。

 すっかり押し黙ってしまった俺に、ダメ押しとばかりに彼女は続けた。


「私、あなたみたいな自分がない人間には興味がないの」


 本を閉じると椅子を引いて立ち上がった。


「だからもう、放っておいてくれるかしら」


 そうやって好き放題言うとリビングから出て行ってしまった。


「……こ、怖かった」


 ぐしっと目元を拭うと袖が少し濡れた。あいつマジでなんなんだ。知り合ったばかりなのに、わかった風な顔して俺の人格まで否定してきやがって。

 普通知り合って間もない間柄だったら、「中学どこだったの~?」みたいな当たり障りのない会話をしながらお互い探り合って、時間をかけて徐々に距離を詰めていくものだろ。

 なんつーか人の家の冷蔵庫を勝手に開けるみたいな無礼さがある。あー、マジでムカつく。

 皆はこんな風にならないように気を付けなよ。あと、小学生のころドッヂボールクラブの体験入部に行ったときに初対面なのにいきなり俺のことをいじり倒してきた木村みたいなやつにもな。結局、そのクラブのやつら全員俺のこといじっていいみたいな流れになって苦痛だったから本入部はしなかった。あいつら絶対に許さない。

 マズい。このまま一人でいると、嫌なことばかり思い出して悲しくなってしまう。

 とりあえず、今ため込んでいるものを吐き出す必要があるなと思って、母に電話することにした。


『あ、ゆうやー、どうなの? 写真見たけど相手の子めちゃくちゃ美人じゃない』


 母の声を聞くとホッとしてうるっと涙腺にきた。ちな、マザコンではない。


「マジムリ。助けて……」


 の〇太くんみたいなクッソ情けない声しかでなかったが、なんとか事の顛末を全て話した。

 あいつの部屋まで聞こえないように小声で話していたから陰口を言ってるみたいで正直あまり気分がよくなかった。実母に旦那のことを愚痴る妻の神経の図太さを思い知ったね。


「他にやりようがあると思わない? 適当に受け流すとかさ、わざわざ攻撃する必要ないと思うんだけど」

『そうね。私はその子に会ったことないからあまり悪くは言えないけど、ゆうやはどうしたいと思ってるの?』

「そりゃ、ある程度は仲良くしたいよ。逃げられないんだから前向きに考えないと」

『……逃げられない? 今の時代、許嫁制度なんて強制力ないわよ』

「それはそうだけど、お父さんがダメって言うじゃん」

『……』


 俺が当然だろみたいに返すと母は数秒黙った。


「お母さん?」

『え、ああ、何でもないわ! だったらそうね……今日晩ご飯は食べた?』

「まだ。今から作ろうとしてたところ。簡単にオムライスでいいかなって」

『それよ!』

「どれよ」

『まずは胃袋からつかむのよ!』

「はあ?」


 またベタな話だ。


『料理できる男の子は女ウケいいって知ってるでしょ? オムライスの美味しい作り方教えてあげるわ。言うとおりに作って』


 母にそう言われ、俺は自分のスマホにイヤホンを繋いだ。最近はイヤホンにマイクがついていて両手を空けたまま電話ができるから便利だ。

 冷蔵庫から食材を取り出して調理に入る。「ケチャップは具材を炒めるタイミングでフライパンに入れた後、少し固めに炊いたご飯を入れるとべちゃっとならないよー」とか「卵を焼くときはバターを多めに敷くとフライパンにくっつかないよー」とかいろいろレクチャーされた。

 料理は漫画とかユーチューブに影響されてたまに作るくらいで、つまるところ料理慣れしてない。だから、母の言葉通りやるだけでも一苦労だった。


『そういえば、当然のように祐也が作ってるけどあの子は?』


 卵を焦がさないようにフライパンに集中していると、母が思い出したように言った。


「あいつのお父さんに聞いたんだけど身の周り全部使用人に任せてたから何もできないってさ」


『じゃあその使用人ってかお手伝いさんは? いないの?』


「うん。別にいらないかなって」


 昨日、父に提案されたのだが、速攻で断った。あの女だけでもしんどいのにさらに知らないやつに自分の家に居座られるのは絶対にイヤだ。まあ、さすがに直接そうだとは言ってないけど。


『でも家事って大変よ。せめて役割分担できるくらいには仲良くなっとかないと』

「んーいいよ。その気になったら一人でもできるし」


 昔は機嫌の悪い父の前ではなるべくいい子にしていようと母の留守中洗濯とか掃除くらいはある程度やっていた。それに料理がプラスされるくらいだから無理なことはないと思う。他人から見える部分をきちんとすることは得意だからね。自分の部屋は散らかってるけど。


『そっか』


 優しい声音でそう呟いっきたっきり、母はそれ以上何も言わなかった。

 その後は学校であったこととか楽しい話を振っていった。知り合いが多いと話の引き出しが多くて、つい長い時間話し込んでしまった。

 話のキリが良くなるころには完成したオムライスはとっくに冷めていたのでレンジで一度温めなおした。

 オムライス自体は何回か作ったことあるけど今までで一番うまくいったと思う。母の力は偉大だ。

 昔からそうなんだけど、母に話すと問題が全部解決したみたいに心が軽くなる。少しは沈んだ気分を持ち直せた気がする。ちなみにマザコンではない。


「お母さん、俺頑張るよ」

『ええ。あなたは優しい子だってお母さん知ってるから。時間ができたら彼女うちに連れてきなさい。可愛がってあげるから』


 楽しそうに笑う母とは対照的に、俺の方は泣きそうになっていた。


「ん、ありがと。またなんかあったら電話するから」

『頑張って。じゃあバイバイ』



 夕飯後、風呂に入ったら(一応湯船には浸からないでおいた)、急に睡魔に襲われた。ここ数日だけでいろいろあってさすがに疲れたからなあ。さっさと寝よう。

 彼女はついぞ部屋から出てこなかった。呼びに行ってまた罵られるほどの体力は流石になかったので、ご飯にラップをかけて書置きをしておいた。サラダは冷蔵庫っと……。


「お風呂湧いてるよ。あとご飯作ったからちゃんと食べてな」


 彼女の部屋を軽くノックして小声でそう言い、ささっと逃げるように自分の部屋に入った。

 ベッドがあったら身を投げ出していたが、生憎引っ越してきたばかりなのでただの敷布団だ。フローリングに敷いてあるから軽く背中がやられそうだ。でも無いものに文句言ってもしゃーないので我慢して布団に入る。

 リモコンで電気を消すと、目の前が闇につつまれた。

 視界を奪われるといろいろ考えてしまう。

 明日は早起きして今日できなかった洗濯をやらないと。あとは朝ごはん作って、いつも通り身だしなみを整えて……。

 ちゃんとご飯食べてくれるかな。一人で食べるご飯はあんまり美味しいと思わなかった。彼女はどう思うだろう。

 明日、どんな顔して陸に会えばいいんだろ。果たして今あいつと顔を合わせたところで自然とふるまえるのだろうか。ちょっとした秘密を隠すのとはわけが違う。すぐにボロが出て、これまでの関係ではいられなくなるんじゃないか。


 いろいろ思い悩んで、気分が沈んで、少し、寂しくなった。

 もうやめようと思って、ぎゅっと目を閉じる。

 しばらくすると脱衣場の戸が開く音が聞こえてきた。そこで俺の意識は深く沈んでいった。

謎のリアル路線貫いてるのでそう簡単にイチャコラさせません^^

もうちょい待っちくり

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