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Act.1「陽キャを演じる男」

「黙って、目を閉じて」


 そういうと、目の前の少女は自分の唇を俺の唇に重ねてきた。


 初めての経験で一瞬何が起こったのか分からなかった。


 心臓がうるさい。自分の身体の中の血液がどんどん上へ、上へと登っていっているように感じる。


 しかし、朦朧とする意識の中で確かに感じた。

 揺れる髪から漂う石鹸の香り。

 そして、俺の首筋に添えられた手の温度。それはまるで冷水につけたみたいに冷たくて。


 普通の恋愛でよかった。


 普通に友達から始まって、毎日なんてことない話で笑いあって、喧嘩もない平凡な恋愛がよかった。




 それは俺の人生に致命的なダメージを与える残酷なキスだった。

 いつも通りの教室。いつも通りの休み時間。この「いつも通り」が俺にとっては戦場だった。


「マジやばい!」


 休み時間ということもあって、教室はそれなりに騒がしかったが、その中でひときわ高いトーンの声が響いた。


「あたし、この俳優ちょータイプ!」


 声の主は目の前の茶髪ギャル高梨葵。

 派手な見た目で分かるが、このクラスの女王的な存在だ。彼女は相方の村上梨央奈と机の上に広げた雑誌を食い入るように見ている。


「わかるー! でもウチは葵のほうがタイプかなー」

「アンタまたそんなこと言ってんの? キモイんだけど」

「あぁんっ、葵さまぁ……もっとののしってぇ~」


 こいつらとの関係上、このやり取りはほぼ毎日見せられる。「梨央奈を奴隷みたいに扱う葵」と「ノリノリで受け入れる梨央奈」という構図は、いつも通りだった。

 この光景を安心して眺めてられるのは、葵がどんなにぞんざいな態度を取ろうが梨央奈はそれに対して喜びや快感を覚えてる説があるからだ。

 この一方通行の上下関係に争いが生まれる余地はない。

 これあれじゃん、百合ってやつでしょ? 知ってる(違)。


「ほー、葵はこういう男がタイプなのか?」


 二人が白いお花畑(俺フィルター)を咲かせているところに耳ざわりの良いさわやかな声をした男子が混ざりに行った。


 霧島陸。


 イケメン&頭いい&運動神経抜群と、誰もが羨む完璧超人だ。このクラスはこの男を中心に回ってる。

 

 ……や、クラスどころじゃないな。


 例えば、校内で陸を見つけるなら人の集団を見つけたほうが早いって言われてるくらいには、こいつの周りには人が集まる。

 俺はそんな人気者とつるむことでおこぼれにあやかろうとしているわけなんだけど、これがなかなかうまくいかないんですよねえ。


「う、うん。ほら、誰かさんに似てない?」


 葵はそう言って、ブリーチで痛みまくった茶髪の毛先を人差し指でくりくりしながら陸の顔をチラチラのぞき込んでいた。

 ほおをほんのり赤くしていて、気があるんだろうなってことはわりと分かる。

 当の陸は、そんな彼女を見てニヤニヤしている。

 シンプルにひどい。


「うーん、でもちょっとアゴが長くないかしら?」


 と、そこに遠慮なく疑問を投げつけて二人のジャマをする女の子が現れた。


 大木愛梨。


 このミディアムボブの女の子は普段は大人しいのだが、正直な性格をしていて、思ったことをぽろっと口に出してしまう癖がある。そのせいで友達の間でちょっとしたケンカになりそうなこともしばしばある。


「あ? どこが?」


 あ、ヤバ。葵の声がキレそう。なんとかしなきゃ。


「いやー、俺もその写真の人はカッコいいと思うよ。アゴのせいで顔が長く見えるけど、おかげで長めの髪が似合っててイイ感じーみたいな。な、愛梨?」


 我ながらファインプレーなんじゃね? って思う。

 葵の「かっこいい」と愛梨の「アゴが長い」って意見をうまくすり合わせて両立させる神の一手。

 将来は外科医にでもなろうかな(ガチの医者志望に叩かれそうなセリフ)。


「でっしょー? やっぱ祐也は分かるヤツだわー」

「祐也くんがそういうなら……」


 俺の機転で一瞬ピリついた空気は柔らかくなって、葵は満足げにイスにもたれかかり、愛梨はバツが悪そうに短いスカートの裾をいじっていた。


 こいつらとつるむ上で気を付けなきゃいけないのは、まず唐突に訪れる愛梨の不意打ちだ。

 彼女は正直者なので、たまに人の気持ちを考えない発言をする。

 その度にハラハラドキドキさせられるんだけど、なぜか俺の言うことは素直に聞いてくれるため、争いを未然に防ぐっていうのは一応、不可能というわけではない。そこは結構助かってる部分だ。


 あとは霧島陸には逆らわず、むしろご機嫌を取りながら、その人気に乗っかって、とにかくクラスでの自分の立場を高いところにキープしておくことだ。


 カースト下位の人間が上位の人間に自発的に絡みに行くことは難しいが、その逆はそうでもない。

 上位が下位にかまってあげることで、下の者に「上位と関われる」という優越感を与えながら、同時に俺が誰とでも仲良くできる良い人という印象を周りに抱かせることができる。まさにウィンウィン。


 ……こういうこと考えてるってバレたら流石に引かれるから絶対に口には出せないんですけどね。


 いや待って、俺にも言い分があるんだ。

 俺は中学の時にその「下位」のポジションにいたから、経験則的にそうだと言ってるだけで、別に無根拠に上から目線で言いたいわけじゃないんだ。


 そもそも、俺は争いごとがキライだから表立って人に不快な思いをさせようなんて考えてない。

 なんなら人の怒りの感情ほど醜いものはこの世にないとまで思ってる。「喧嘩するほど仲がいい」ってことわざがあるけど、アレは絶対に嘘だ。


 みんな幸せが一番。


 だから前のほうの席にいる小川君たち、俺のことを「量産型ウェイ」とか陰口いうのやめろよな。その漫画は俺も好きだから今度語り合いましょう。


「今日カラオケ行こっかなー。久々に大声出したい気分だぜ」


 陸が何気なく言う。

 お前いつも大声でしゃべってんじゃん、とは口が裂けても言ってはいけない。

 この場合はゴマをすりすりするのが正解だ。


「カラオケいいじゃん! 陸、歌うまいから一生聞いてられるんだよなあ」

「まあ、俺は天才だからな。全く神様は不公平だぜ」


 俺が接客のバイトで長年(数か月)培ってきた媚売り術をお見舞いしてやると、陸は得意げに胸を張った。

 それから彼は女子三人のほうへ振り向くと「決まりだな」と目だけで訴える。

 すぐに女子三人は顔を見合わせてうなずいた。


「んじゃあ、あたしらも行くー」


 俺たちのグループのほとんどの行動は霧島陸の気分で決まる。

 俺はそれに着いて行って彼の太鼓持ちをしつつ、一方で気まずくならないようにグループ内のコミュニケーションの円滑化に勤しんでいる。


 いつもの空気に少しの波も立てないように、みんなが何も考えずに楽しく過ごせるように、俺は自分の意志を主張しない。


 それは争いの元にしかならないから。


 争いが起こらないように一人静かに闘う。

 それが俺の戦であり、藍沢祐也の高校生活のすべてだった。


 恋愛をしている余裕なんて、ほんの一欠片ひとかけらもなかったんだ。

キャラの覚え方。いきなりいっぱい登場させちゃったので想像しやすいように見た目とか。


藍沢祐也あいざわゆうや――主人公。金髪(中身陰キャだから正直無理してる)。見た目は完全に女子。


霧島陸きりしまりく――茶髪イケメン。昔の山ピー(ジャ〇ーズ)みたいなのを思い浮かべてくれれば。


高梨葵たかなしあおい――陸よりも茶髪でケバいギャル。まな板なので「高梨胸なし葵」って覚えてください。


村上梨央奈むらかみりおな――ショートボブで黒髪にピンクのインナーカラーが入ってる。基本モブなんで面倒だったら覚えなくてもいいです。


大木愛梨おおきあいり――素直で可愛い。胸が大きいので「おっぱい大木い(大きい)愛梨ちゃん」。



前書きのヒロインは後で出てきます。


あと初心者なので、アドバイスほしいです。

感想も気軽にどうぞ、待ってます^_^

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