屑を見る
初投稿です。
どんな感じかテスト的に投稿してみます。
屑を見る
逃げる気など毛頭なかった。
だが俺は現実を受け止めて逃げることにした。
目の前には骸があるだけだったのだから。
建物の中を、頭の中を、無数の音が反響する。
忙しなく聞こえる足音。
飛び交う指示の声。
遠くから聞こえるのはサイレンの音。
四つのキャスターが扉のレールの段差を乗り越え、リズムよく音を刻んだ。
意識が現実から乖離し始める。
「周平君!」
目の前で叫ばれた声をきっかけに、周平は意識を取り戻した。
「貴方が付き添って状況を説明して」
先輩の声だ。
「……はい」
弱気な返事は無数の音にかき消された。
特別養護老人ホーム集いの家。
周平は介護職員だった。
とても大変な仕事だが、その尊さをよく知り真面目に働いていた。
しかし今は、彼は『囚人』だ。
圧倒的な人員不足。利用者は歯止めなく増え、人格の崩壊から利用者間のトラブルは毎日起きる。
二年。
周平が善人として過ごした期間だ。
その日周平の両の手は一人の老人の首を強く絞めていた。
首の骨は折れ、目から生気は失われていった。
周平の抱えた善は偽善となり、尊さを忘れ、現実を知った。