後編
どうしよう、どうしようと、二人がわめいているところへ、ボカンと音がして、三台目のマシンが出現した。
これ以上自分が増えたら収拾がつかなくなると、不安げに見守る二人の前に現れたのは、あの司会者だった。苦い顔をしている。
「困りますねえ。Uターンは禁止と言ったじゃないですか。おかげで時間線が切れて、パラドックスが発生してしまったのです。このまま放置すれば、因果律の乱れが拡散して大変なことになりますよ。カエルの子がタカになったり、トンビがゾンビを産んだり、ゾンビがくるりと輪を描いたり。ですので、できるだけ早めに修復しなければなりません。ああ、申し遅れましたが、わたくし、司会はアルバイトで、本業は時間管理局の局員なのです」
先にこの場所にいた方の森田が、ギョッとした顔で叫んだ。
「どっちかのおれを消すのか! だとしたら、おれじゃないぞ! おれは初めからここにいた。消すなら、後からここに来た、こいつだ!」
指差された方の森田も負けていない。
「冗談じゃない! おれこそオリジナルだ! こんなコピー野郎は、早く消してくれよ!」
二人の森田の醜い言い争いを聞いていた司会者、いや、時間管理局の局員は、天を仰いでため息をついた。
「やれやれ、そんな野蛮なことはいたしませんよ。ちょっと歴史に修正を加え、時間線をズラすだけです。それも、できる限り最小限にとどめます。あまり大掛かりな変更を加えると、副作用で別の個所に不具合が生じますのでね。我々がよくやるのは、英単語のスペルに発音上必要のない文字を入れ込むとか、有名ブランドのロゴマークに意味のない線を一本足すとか、その程度ですよ。今までにやった一番大きな変更は、電気のプラスとマイナスの表示を逆にしたことですが、これは多方面に迷惑がかかってしまいました。あなたも、マイナスの電子が流れる方向と逆に電気が流れると聞いて、不自然だと思いませんでしたか。まあ、今回は小さな変更で済みそうですがね」
二人の森田はホッと安堵して、言い争ったことなどなかったように、手を取り合って喜んだ。
だが、その様子を見ていた局員は、ちょっと顔を引き締めた。
「ああ、まだ喜ぶのは早いですよ。今言ったのは、あくまでも、事故の後始末の話です。あなたがたには、キチンと罪を償ってもらいます」
「や、やっぱり、どっちか消すのか?」
「また、そんなことを言う。歴史に変更が加わった時点で時間線がつながり、自然に一人に戻りますよ。但し」
「但し?」
「その後、時間禁錮一ヶ月です!」
田森がその競技に参加するのは、これが初めてだった。通常は野外コンサートなどに使用する会場に、すでに数十名の参加者が集まっている。何故だかわからないが、田森は激しいデジャヴを感じていた。
(あれっ、なんか、前にもこんなこと、なかったっけ?)
マシンの説明の途中、司会者が立っているステージの真後ろでボカンという大きな音がし、まさにそのウエルズ型タイムマシンが、三メートルほどの高さの空中に出現した。
と、見る間に、そのまま地面にドスンと落ちた。
スタッフ数名がバラバラと駆け寄り、乗員をマシンから降ろして医務室と書かれたテントの方へ連れていった。
《えー、今の方は、出発前に戻って来たようですね。報告では、幸い大きなケガはないそうです。もちろん、この方は一着ではありませんよ。競技の判定は、みなさまの手首に付けさせていただいた固有時間時計によって決まります。まあ、簡単に言えば、本人が主観的に感じる時間が一番短い方が優勝、ということです。ちなみに、先ほどの方は、なんと出発から一ヶ月経過していました。さぞや大変だったでしょうね。田森さん、という方ですが。ああ、それから、これだけは絶対に守って欲しいのですが……》
だが、レースの段取りを必死で考えていた田森は、墜落した者の名前を聞き漏らしてしまった。




