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この希望のない世界で  作者: 梵我一如
一章 魔の森、奇跡的な出会い
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天地開闢挙の秘密

 「よし、早速だがルカには武術である『天地開闢挙』を授けようと思う。しかし、これは相当に難易度の高いもので一筋縄では体得できないぞ」


 ルカの承諾を得て、弁明の後すぐに修行に入ることにした。ルカのことが気がかりで朝のルーティンができていなかったため、仕方がない。一日でも欠かすわけにはいかないのである。


 「型に入る前に『天地開闢挙』について少し説明させて貰う」

 

 俺はルカが神妙な面持ちで頷くのを見届け、話し始めた。


 「『天地開闢挙』はその名の通り、この世界が誕生した時から存在する武術だと言われている――」 

 ――かつて神々がこの世界を創造した当初、この世界は混沌としていた。固有の形や性質を持たず、絶えず変異を繰り返すものだった。そこには何でもあったが、同時に何もなかった。世界は何かであったが、それと同時に何でもなかった。『世界創造』の神術が失敗して生まれた失敗作は見放された。しかし、あるときその混沌を沈めたのが、“始祖ヴァウラディア”だった。始祖は神の位階に属する者でありながら、全能ではなかったために他の神々に虐げられていた。やがて巡り巡って、始祖は失敗作のこの世界を他の神々に押しつけられた。だが、他の神々は知らなかった。始祖は全能ではなかったが、“ある力”だけは全能を超越していたことを。それは、「時間」と「空間」を付与し操る異能。始祖はこの世界に降臨し、世界に「時間」と「空間」を与え、秩序を創りだした。しかし、その秩序は不完全なもので、一旦綻べば忽ち混沌に転じてしまうことを始祖は知っていた。始祖は再び混沌が訪れても大丈夫なように、己の異能をこの世界の住人でも扱える形に変え、この世界に残した。それが『天地開闢挙』だ。つまり、始祖がこの世界の混沌を沈め秩序を与えたときがこの世界の真の誕生であり、『天地開闢挙』はそのときから脈々と受け継がれているわけだ。もっとも、混沌を沈め秩序を与えるという大義名分は形骸化してしまっているかもしれない

がな。


 ゴホンと咳払いをしてルカの方に目を見やると、ルカはキラキラと瞳を輝かせて力強く両手を握りしめていた。

 そしてすぐにポケットからメモ帳と鉛筆を取り出すと、急いで何かを書き込み、俺の眼前にそのページを押し出してきた。


 「『かっこいい!!ほんとうにわたしにますたーできるの?』」


 ルカは未だに興奮した様子で鼻息が荒かった。

 俺はルカの透き通るような銀色の髪の毛をワサワサと少々荒々しく撫でてやり、口角を倒れた三日月のように吊り上げた。


 「勿論だ!!」


 簡単な講義を終えて一息ついたあと、ルカには『天地開闢挙』の基本である『正拳』の型を教えた。

 ルカは華奢な身体で一生懸命に拳を繰り出している。

 俺はその横でアドバイスしつつ自分のメニューをこなしていった。


 「いいぞ。その調子だ。だが、『天地開闢挙』の神髄は世界と一体となることによって発揮される。ただ拳を突き出すのではなく、世界を感じるんだ!」

 

 ルカは歯を食い縛って頷きつつ一心不乱に空に『正拳』を繰り出す。

 横目でルカの様子をまじまじと窺ってみると、運動によって体温が上がってきたのかじっとりと顔や首下に汗が滲んでいた。それを拭いもしないで拳を振るっているところから察するに、俺の『天地開闢挙』の講義がよっぽど琴線に触れたらしい。

 俺は熱心な弟子を得たような気分で少し得意になりつつも、水を差すように注意を付け加えようとした。


 「ルカ、熱心なのはいいが、『天地開闢挙』は一朝一夕に体得できるような武術ではないんだ。そんなに張り切りすぎると身体がもたな……」


 ――バリッ


 「――え……?!」


 俺は目を疑った。咄嗟に感知魔法『容態診察』を展開し自身の状態異常を探したがいたって正常だった。

 当事者であるルカも、拳を空間にめり込ませたまま固まっている。


 「空間を穿っただとっ?!!」


 俺は驚きの余り声を裏返して叫びつつも、がっくりと膝から崩れ落ち両手を地面に付けた。


 「そんなバカな。俺が何年もかけてやっと体得したものをたった数十分で……」

 

 俺は絶句しつつも顔を上げ再びルカの方を見やった。

 ルカの真正面には未だに拳大の空間の穴が開いているが、ルカはそれを忘れて自分の拳を顔の前に引き寄せてわなわなと震えていた。

 だが、俺の視線に気付くと、途端に表情から驚愕の色が消えて体温で少し紅潮した満面の笑みに変わった。

 俺はルカの声のない喜色に触れ、ルカに対して生じていた嫉妬心がバカバカしくなった。

 そして、ルカの笑みに応えるように俺も笑ってルカに告げた。

 

 「俺はとんでもないものを拾ってしまったかもしれないな」


 俺はこれからのルカの可能性に思いを馳せると凄く胸が熱くなった。

 

 



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