8.父の話
兄の話の数日後、父がやってきた。だいぶ魔力の扱いに慣れてきたので、父を魔力を使って驚かせてやろうと思った。はじめは魔力を血と似たような水のイメージで扱っていたが、今では周りをふんわりと囲む風のように広げる術を覚えた。魔力を体の外に出し、薄い膜のようなものを作る。
父が抱き上げようとする前にそれをしてみた。うっすらとした膜は他人には見えないようで、父は何の警戒もなく僕に触れようとしてきた。
「ん・・・?なにかある?」
乳母の時のように痛くはないらしい。しかし、違和感はあるようで父は触る手をひっこめた。
「アルチュール、もしかして魔力が扱えるのか?」
「あ~、う~。」
返事をしてみる。少し不審な顔をしたが、すぐに満面の笑みに変わった。
「そうか!お父様の前でも話してくれるのだな!初めて声を聞いたぞ!いい声だなぁ。」
うれしそうな驚いたような表情である。息子の成長に満足しているのは間違いないようだ。魔力の話は置いておき、話をし始めた。
「よ~し、今日はお父様がお話をしてやるぞ!何の話がいいかな?騎士団の話がいいか?」
「・・・。」
騎士団はユースが担当してくれるはずだからあまり知らなくても問題ない。そもそも、あまり興味がない。
「う~ん、違うか。飛竜討伐の話がいいか?」
「・・・。」
気にはなる!だがしかし、この世界で生きる上で役に立つかは微妙だ。今は情報収集をできるときにすることが最重要事項だ。
「う~ん、建国神話の話でもするか?」
「あ~。」
それだ!神様はこの国と切っても切り離せないのなら聞いておくべきだ。
「この国、セフィロト国は10の国がまとまった国である。それぞれが神を奉り栄えてきた。はじまりは創造神メレクが人間を作ったことから始まった。たくさんの人を生み出し、国を作るよう命じたそうだ。その中の一人が、束ねるものが必要で、権威のために神々より証を賜りたいと言ったそうだ。」
また新しい神様が出てきた。え~っと、創造神メレクね。それより、セフィロトってなんか聞いたことあるなぁ。キリスト教系の話に出てきたような・・・。
「契約の神であるエヘイエーが束ねるものの権威の証として王冠を授けたそうだ。授けられた男は初代インペラトルとしてセフィロトを10の国に分けたそうだ。その時にメレクはある土地に神の国として11番目の国を作られたそうだ。隠された伝説の国ダアトというそうだ。未だその神の国には大賢者ミトロファンしかたどり着けていないのだと言われている。」
はー、ミトロファンすげぇぇぇ!なんかいろいろ名前出てくるし。こいつ人間なんかな?あ、そういえば、インペラトルとはなんだ?セフィロトを束ねる王様かな?神話を覚えるのは大変そうだ。
「そして、それぞれの国に神を奉り、インペラトルは豊かな国づくりを進めていったそうだ。その際の初めのインペラトル、マジェステの名前がそれぞれの国名になっているのだ。この国はイェソド様が治められたので国名もイェソドとなっているのだよ。」
なるほど。とりあえず、文字が読める環境が整ったら神話から学ぼう。そんなことを考えながら話を聞いていると外からノックが聞こえた。
「入れ。」
「失礼します。ムガルが出ました。急ぎ会議を行うと伝令がありました。」
「わかった。下がれ。」
入ってきた部下らしき人は胸に手を当てて退室する。胸に手を当てるのは敬礼っぽい。
「すまぬ、雷獣ムガルが出たそうだ。私は仕事に行く。話の途中で出ていく父を許しておくれ。」
息子に甘々なふにゃふにゃとした顔からキリッと仕事をする顔になった。その顔はとてもかっこよくて、騎士の顔であった。こう見てみると騎士になるのも悪くないのかもしれない。父親の背中を見て育つのだとすると騎士になるのが順当なのだろうな。まぁ右手がないから剣は握れないだろうけど。
この国はセフィロトというそうです。小さい単位も大きい単位も国だからとてもわかりにくいですが、なんとなーく覚えてください。