63.自活化計画
次の日、魔族の方に話をつけに行った。簡単に全員が快諾してくれた。こんなに信頼されている奴隷ってなんだろうなぁ。色々画策するためにそれぞれに指示を出しておいた。
さらにその次の日は人族側に話をつけに行った。フリストとは話したくないからアデルと話すことにする。
「話って何かしら?」
「ご主人様の命で今後食事は自分でどうにかしろとのことです。」
「えっ?なんで突然?」
「奴隷にこれだけ施すのは普通は人族社会では考えられないと私が進言しておいたのです。」
「なっ、なんて余計なことを!」
「話はそれだけです。他の皆さんにも話しておいてくださいね。」
ニコニコしながら言ってやった。甘ちゃんたちにも自活してもらわねば。これから魔族には素材採集やらをいろいろしてもらわなければならないのだ。余剰分の飯を取ってきてもらう余裕なんてない。もちろん、自分の分は自分で用意する。幸い、料理はテンスの手伝いを何回かしているのでできる。さてさて、人族はどんな反応に出るか。
数時間後、すべての人族の子たちが僕の部屋にやって来た。みんな当たり前だが怒っている。足音がでかし、表情も怖い。その先頭はフリストである。
「おい、どういうことだ!」
「そうだそうだ!余計なことしやがって!」
「余計なことって言いますが、皆さんは嫌いな魔族に養われていて恥ずかしくないんですか?」
ちょっと煽ってみる。いざとなったら戦ってもこの人数ならば勝てるし。
「魔族が勝手にそうしているのだからさせておけばよかっただろう!」
「じゃあ、勝手に食事を用意しないと言っても問題ないでしょう?」
「それをお前が指示したんだろう!」
「私はただの奴隷ですからそんな権限持っていません。」
「ウソをつけ!!」
まぁ、ウソですが。基本的に怒りの矛先がもう自分に向かってしまっているので何を言っても聞かないだろうなぁ。
「まぁ、みなさんが怒ったところで決定事項ですから。今日から頑張ってください。」
「な、な・・・!!」
フリストは何も言えなくてプルプルしている。いい気味である。僕は性格が悪いのかもしれない。
「あ、そうそう、魔族方々は狩りの仕方ぐらいなら教えてくれるそうですよ。」
「だれが教わるか!」
フリストがそう言うと一団は去っていった。男の子たちは怒っていたが女の子たちは不安そうであった。
☆
数日間狩りをしたり本を読んだりといつも通りの日々を過ごしていた。ある日、アデルと複数の女子達が僕の部屋にやってきた。
「失礼するわ。あのね、食料を少し分けてくれないかしら・・・。」
「え?食事を自分たちで取ってこないのですか?」
「男の子たちは何とか周りの野草とかを取ってこれるのですが、女の子たちは怖がって行けないのです。もう何日も食べていなくて死んでしまいそうです・・・。」
ふむ、男子から分けてもらえばいいのだろうが、かろうじて取れてるってことは分ける量を取れていないのだろう。しかも野草かぁ。腹は満たされず、男子たちも腹をすかしているだろうなぁ。そろそろ頃合いかな。
「自分の分しかないので本来は分けたくはないですが・・・あまりにかわいそうなので今回は分けてもいいですよ。」
女の子達がパァっと笑顔になった。お互いに何とかなりそうってことで喜び合っている。
「ただし、働かざる者食うべからずです。次から食料は労働を対価に取ってきます。」
一瞬で女の子たちの顔が引きつった。ぬか喜びさせてしまい申し訳ないが、人生そんな甘くない。力なき者は力ないなりに働いてもらう。
「私たちはどのようなことをさせられるのでしょうか?」
「させるつもりはありませんから、自主的にするとおっしゃってください。僕が望んだことではないですから。」
揚げ足をとっているみたいだが、僕は小さい男なのでいちいち発言が気に触るので訂正させてもらう。女の子たちは不満そうな顔をする。完全に嫌われ役だが仕方あるまい。
「・・・私たちはどのようなことをするのでしょうか?」
「簡単です。私の研究を手伝っていただきます。もっと簡単に言うと本を読んで報告してくれればよいのです。」
何人かが苦悶の表情を浮かべた。あれ?これ最高の条件じゃないのかなぁ・・・?こちらとしてはこれ以上の譲歩はできない。
「・・・あのですね、ここの子たちはまだ何人かが読み書き計算ができません。研究に使うような本なんて以ての外です。」
おうふ・・・そこまで考えは及ばなかった。これはまさかの計画ミスである。研究を手伝ってくれる人を探すためにこのようなことをしたがちょっと失敗だったかも。
「それならしばらくはアリストの真似をしましょう。私が先生をしますからしばらくはみなさん教養をつけてください。その成果に応じて食事を与えるのはいかがですか?」
ちょっと偉そうだがこの方法しか思いつかなかった。女の子たちが安堵の表情を浮かべた。
今回は少しアルが黒いですが働かざる者食うべからずです。力を持つ者はどのようにしたら公平になるかを考えなければなりませんね。